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「なんとなく見る」から一歩先へ進む映画鑑賞術とは?(深水英一郎氏寄稿)


教養としての映画 伊藤弘了 深水英一郎

 映画はなんとなく見ても楽しめるようにできていますが、ポイントを押さえた解説を読んでから見ると、自分だけでは気づけない物語の背景や、撮影上の工夫などに気づくことができ、さらに深く楽しむことができます。

 今回紹介していただく本は、普段大学で映画について教えている伊藤弘了さんが書いたものです。大学の講義のようなやさしい語り口で「映画をよりよく鑑賞する方法について知ることができる本だな」と私は思いました。

 さて、どんな本なのか、著者さん自身にきいてみましょう。

【著者 伊藤弘了さんプロフィール】
映画研究者=批評家。1988年生まれ。愛知県豊橋市出身。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学。関西大学、同志社大学、甲南大学非常勤講師。東映太秦映画村・映画図書室スタッフ。「國民的アイドルの創生――AKB48にみるファシスト美学の今日的あらわれ」(「neoneo」6号)で「映画評論大賞2015」を受賞。新刊「仕事と人生に効く教養としての映画」(PHP研究所)。専門は小津安二郎。
https://twitter.com/hitoh21

【紹介していただく本】
「仕事と人生に効く教養としての映画」(伊藤弘了、PHP研究所)2021/7/28

■「教養としての映画」著者 伊藤弘了さんにきいてみる

——本日はよろしくお願いいたします。本書を執筆するきっかけは何だったのでしょう?

 かねてより映画研究者=批評家として自分が身につけてきた知見を世の中に還元したいという思いを抱いていました。そんなときに折よく映画の見方についての連載と書籍化のお話をいただきました。

 この本で一番お伝えしたかったのは、映画を意識的に見ることでその楽しみはいっそう大きくなり、世界が広がるということです。

——ひとことで説明するなら、何の本ということになるでしょうか。

 映画の入門書ですね。普段の映画鑑賞がより楽しくなるように、映画の歴史や鑑賞のポイント、鑑賞後のアウトプット術などを紹介した本、ということになります。

 まずは「トイ・ストーリー」の見方について説明しているプロローグを読んでいただいて、本書のスタンスがご自分に合うかどうか確かめてみて欲しいです。

——私はプロローグを読んで、映画についてもっと知りたい! と思いました。

 この本の構成について簡単に説明しますと、まず第一講では映画の効用(映画を見るとどんないいことがあるか)、第二講では主に映画の歴史を紹介し、第三講以降で具体的な映画作品を分析しています。

 黒澤明や小津安二郎、アルフレッド・ヒッチコックなどの古典期の監督の作品にくわえて、是枝裕和の「海街diary」(2015年)やクイーンの伝記映画「ボヘミアン・ラプソディ」(2018年)といった近年の話題作も取り上げています。最終講では映画を見たあとのアウトプット術について、具体例を交えながら紹介しました。

——最終章で、感想や批評のアウトプット術、特にTwitterを使った書き方について述べておられて非常に面白かったです。誰でも発信者になれる時代であり、そのレベルも上がっていますが、映画の感想って、ちょっとむずかしいと考えている人も多いと思うんです。アウトプット方法について書こうと思ったきっかけは何かあるのでしょうか?

 映画について質の高い発信が増えれば、結果として映画作品の質も上がっていくと考えたからです。

 自分が見た映画について言語化することで鑑賞者自身の映画体験も深めることができるし、そうした感想が結果として映画文化の発展に貢献していくのではないかと。それが僕のイメージする健全な文化のあり方でした。とはいえ変に肩肘を張る必要はなく、気軽に取り組んでいただきたいと思います。SNSで発信しなくても、家族や友人に感想を伝えることも有効です。

——監督が描きたいものと観客が観たいものとの間に差があってそれが批判につながることについてどう思われますか? 最近ですと「マトリックス レザレクションズ」(ラナ・ウォシャウスキー監督、2021年)でそれを強く感じました。人気作品の続編や漫画原作の実写化でも見かけます。

 そういうことはこれからも起こり続けるでしょうね。僕個人としてはそれでいいと思っています。観客には自由に作品を批判する権利があるし、その反応を次の作品に反映するかどうかは作り手側の判断次第でしょう。賛否両論がある状態をストレスに感じる方もいらっしゃることでしょうけれど、文化的には健全な状態だと思います。

——本書の、他の本にはない新しい点や工夫した点は何かあるでしょうか?

 「ビジネス書」として出した点ですね。

 これまで映画批評や映画評論に馴染みのなかった方にも興味を持ってもらえるように、そして気軽に手に取ってもらえるように意識しました。専門的な知識がなくても問題なく読めるように噛み砕いて説明しつつ、それでいて議論の質は落とさないように心がけて書きました。

——執筆するにあたって刺激を受けたものはありますか?

 大学院の修士課程在籍時の指導教員である加藤幹郎先生からは多大な影響を受けています。第六講(ヒッチコック)では加藤先生の議論を直接参照していますが、それ以外のパートにも加藤先生の教えが反映されていると思います。

——これからの活動予定は?

 ありがたいことに連載や次の本の企画が進行しています。いずれも広い意味で映画の見方について書くことになると思います。また、各種のイベントにも登壇していますので、ご縁があればぜひ。

——今後執筆予定のテーマは?

 映画の見方についてさらに踏み込んだ内容の本を書きたいと思っています。また、今回の本で取り上げられなかったテーマを盛り込んだ日本映画の通史的な本をいつか書いてみたいと思います。おそらくそれはずっと先のことになるでしょうけれど。

——伊藤さんの映画解説はとてもわかりやすく、注目すべきポイントを知ることができ、映画を見る楽しさが増しました。次の本にも期待しています! 本日はありがとうございました。

(了)

▼取材MEMO:伊藤さんが最近読んで面白かった本

北村匡平「24フレームの映画学――映像表現を解体する」 晃洋書房、2021年
堀潤之、木原圭翔編「映画論の冒険者たち」東京大学出版会、2021年
渡邉大輔「新映画論 ポストシネマ」 ゲンロン叢書、2022年

【ききて・深水英一郎 プロフィール】
作った人自身に作品を紹介してもらう「きいてみる」を企画中 https://kiitemiru.com/
個人作り手によるアウトプットの拡大とそれがもたらす世の中の変化に興味があります。
ネット黎明期にインターネットの本屋さん「まぐまぐ」を個人で発案、開発運営し「メルマガの父」と呼ばれる。Web of the Yearで日本一となり3年連続入賞。新しいマーケティング方式を確立したとしてWebクリエーション・アウォード受賞。元未来検索ブラジル社代表で、ニュースサイト「ガジェット通信」を創刊、「ネット流行語大賞」や日本初のMCN「ガジェクリ」立ち上げ。スタートアップのお手伝いをしながらメディアへの寄稿をおこなう。シュークリームが大好き。

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