昨年11月、猫クラスタを震撼させた「ダーウィンが来た!」の2週連続猫特集。ハラハラドキドキワクワクゴロゴロの27分45秒×2の興奮も、まだ記憶に新しいところかと思います。猫ジャーナルでは同番組担当ディレクターの原田美奈子さん、プロデューサーの菊池哲理さんに、あの猫特集番組の裏側を取材して参りました。「ダーウィンが来た!」の歴史のなかで初の”2週連続”となった、2017年の猫特集が実現するまでには、さまざまな困難や想定外の出来事がありました。それは一体何だったのか。猫のかわいさに隠された制作の裏側の一端を、取材で得られた証言からクロ現+風に、見つめて追って迫ります。
「猫は野生動物ではない」という”壁”を超えて
「ダーウィンが来た!」の放送前から連綿と続く自然科学番組の系譜、「地球!ふしぎ大自然」や「生きもの地球紀行」のころから、猫をテーマとした番組への挑戦はあったものの放送には至らなかったそうです。その理由は「野生動物ではないし、人の影響がものすごく大きいので、(番組としては)扱いにくい」ためだったと、菊池さんは言います。その壁を超えて、2016年に初めて猫回を放送できた理由を、次のように振り返りました。
「一番大きかったのは、山根先生(西南学院大学の山根明弘准教授)による相島での調査による情報の蓄積や研究の成果が、ハッキリとした、しかも信頼に足るものだったということでした。単に、野良猫に長年密着した、というものではなく、大学の研究者が長年研究をされていたという事実が、(今まで猫がテーマにならなかったという壁の)ブレイクスルーにつながったと思っています」(菊池さん)
原田さんが、山根先生とコンタクトを取ったのは、3年半ほど前(2014年)のこと。定期的に行われている「ダーウィンが来た!」の企画提案会とは別に、年に1度開催される特集企画の提案会議で、猫特集を提案するためでした。今まで放送には至らなかった猫番組の提案は、会議で好評を博し、「ダーウィンが来た!」番組途中のミニコーナー(「ダーウィンニュース」)で猫が取り上げられます。これが2015年のことで、2016年の猫回、2017年の2週連続猫特集へと続く先駆けとなったのでありました。
番組初の「2週連続特集」が生まれた理由
2017年の2週連続特集の番組ページでは、放送できなかったオフショット動画も多数掲載されています。その数は6本、7分半。1回の放送は27分45秒のため、放送時間の4分の1以上にもなっています。テレビ番組制作の常道として、取材しても撮影しても使えないのは日常茶飯事。厳選して凝縮したものが、30分弱×2+7分半ですから、編集前の総撮影時間はどれほどの長さなのか、気になってくるわけです。原田さんにその点を伺いましたところ「現場に行けば猫は撮れるため、とんでもないことになっていますね」との回答。さて、その時間はと言いますと…。
「カメラマンはもちろん、私も音声さんも『決定的な瞬間を逃しちゃいけない』と思いながら、小さなカメラを回していました。さらに物置などに設置した無人カメラもありましたので、総撮影時間はたぶん300時間以上はいってるかと。2016年の放送分でも同じくらいでしたから、合わせると600時間くらい撮っていますね」(原田さん)
300時間以上の撮れ高を元に、最終的に27分半の番組に編集するわけですが、その前段階の作業では、原田さんともう一人の編集担当者との二人がかりで、朝から晩まで猫映像を見続けて、丸々1週間程度を費やします。しかし、そこは猫動画。編集前作業の様子は苦ではなかったそうです。
「もう、見ながら笑ってるんですよ、『コムギ、何やってるんだ(笑)』って。放送で、コムギが民家に入って、飼い猫のご飯をあさっているシーンがありましたが、本当は何回もやっていて、そのたびに飼い猫に怒られてるんです。その他の場所でも、兄弟猫に怒られたり、お父さん猫に怒られたりと、オス猫たちみんなに怒られても、お腹がすいちゃうとコムギは…(笑)。猫たちは一生懸命ですが、カメラマンも私も、撮りながら笑ってしまっていて、よく映像が震えていました」(原田さん)
その後、試写を数度繰り返し、プロデューサー陣のチェックを受け、放送された最終形になるまで3週間ほどかかります。その間に、当初の形から大きく内容が変わったと言います。その話からは、当初は通常の1本分として制作される予定だったコムギの物語が、2本立てになった理由が見えてきました。
「最初の試写で見たときは、27分45秒の枠に収まらず、40分くらいになっていたんです。でも、それがまた面白かったんですよね。40分間、全然飽きないで見られたから。それで、そのときに『2週連続にするしかないんじゃないか』と決断しました。ただ、そうするとそれぞれの回で、内容がギュッと詰まったものにしなくてはならない。果たしてそこまで到達するのかどうか、という不安はありました。今まで、1度も”2週連続になるな”と思ったことはなかったでしたから。それくらい、自然番組の撮影って大変なんですよね」(菊池さん)
「1回目の試写のあと、2本立てにすると聞いて、編集担当者も私も『本当にするの?』と半信半疑でした(笑)。2回目の試写で『やっぱり1本立てで』と戻るかもとも思っていました」(原田さん)
「2回目試写での決断が一番重かったです。毎週放送の番組のため、編集やナレーション録りのスケジュールなどは、すべて日にち単位で決まっています。複雑なあみだくじのように、緻密にシステマチックになっているから、急に『2本立てで作る』となると、スケジュールも滅茶苦茶になります。だから、そのあたりもすごく大変で。突貫工事でしたね」(菊池さん)
制作のうえでも、初めてのことだった「2週連続猫特集」。観察力の鋭い猫ジャーナル読者諸兄はお気づきだったかと思いますが、エンディングテーマが番組最後で流れなかったのも、番組史上初でした。1度完成したときには、1本目の最後にはいつも通りエンディングテーマが入っていましたが、何度か手直しをする過程で、「せっかく翌週分があるのに、予定調和な感じがして良くない」と菊池さんは判断し、エンディングテーマは削除。それが功を奏したのか「来週も見よう」というリアクションがとても多かったそうです。NHKオンデマンドでの再生件数も「2週連続猫特集」は過去最高を記録しました。
大変に長い記事になってきましたので、いったんここでインターバルを挟みまして、明日の10時ごろ公開の後篇「『ダーウィンが来た!』猫特集裏側に迫る(下)〜想定外だった”驚きの大発見”」へと続きます。