昭和の時代には、ペットの裁判はほとんど数える程度だったそうですが、平成に入ってからは「ペットの裁判」は決して珍しくなくなったといいます。
そんなペットの弁護士として有名なのが、ペット法学会事務局長であり、弁護士の渋谷寛先生と同じくペット法学会理事の杉村亜紀子弁護士。
ペットの裁判では、圧倒的に多いのが犬のトラブルですが、猫のトラブルもないわけではありません。
もしも愛猫がトラブルに巻き込まれてしまったら?今回は、実際に起こった猫のトラブルと判例についてご紹介します。
■医療過誤「猫のガンを見落として慰謝料を請求」
これは平成22年に宇都宮地裁栃木支部で実際に起こった判例です。
「A夫婦は飼い猫の乳房や腹部にしこりを見つけ、B獣医師の診察を何度も受けましたが、B獣医師は触診だけで、生検による組織学的検査を行いませんでした。
飼い猫のしこりは大きくなり、別の病院を受診したところ、悪性乳腺腫瘍による肺転移が疑われると診断、その後1ヶ月後、飼い猫は自宅で死亡しました。
A夫婦は、ガンを見落とした過失があるとして、B獣医師に慰謝料を請求しました。」
この判例、猫の飼い主さんにとっては同様の経験をお持ちの方もいるかも知れません。せっかく病院を受診したのに、病気を見過ごされてしまった……。これは許せないと思う飼い主さんも多いはず。
この裁判で訴訟のポイントとなったのは、B獣医師に
「検査義務違反が認められるか」
「検査義務違反と死亡との間に相当因果関係が認められるか」
ということ。結果的にはこの裁判ではA夫婦が勝訴しました。B獣医師は猫の治療費や飼い猫の葬儀費用、弁護士費用の他に、十分な治療を受けなかった精神的苦痛に対する慰謝料として一人35万円の支払いを命じられました。
■野良猫の餌やりに対する「賠償責任」
これは平成27年の9月に福岡地裁で起こった判例です。
「AさんはBさんの自宅の玄関先に猫の餌や寝床と見られるダンボールを置いて周辺に住む4匹の猫を居付かせてしまいました。
Bさんは猫の糞尿被害を行政に訴え、Aさんは行政による指導を受けたものの野良猫の餌やりを続けたとして訴えられました。」
野良猫への餌やり。最近は「地域猫」として野良猫を周辺の人が面倒をみることが定着していますが、個人間同士でのトラブルは結構多いのではないでしょうか。
この裁判のポイントは、
「Aさんは野良猫に餌を与えていたか。」
「餌を与えることと、損害との間に因果関係は認められるか」
の2つでした。結果としては、裁判所はAさんに対して、野良猫侵入防止用ネットの設置費用8,100円と、Bさんへの精神的苦痛に対する慰謝料50万円、それから弁護士費用5万円を含む約56万円の支払いを命じられました。
お腹を空かせた野良猫への餌やりは善意の行いだとは思いますが、他人の敷地で勝手に餌をあげる行為は損害賠償の責任を負う場合がありますから注意が必要です。
■猫への虐待・詐欺・ネグレクト
猫を飼いたい、その気持ちは大切ですが、実際に飼う場合はその猫に適正な飼育が義務となります。きちんと飼育できない場合はネグレクトが疑われ、虐待となりますから注意しましょう。
これは平成18年に大阪地裁で実際に起こった判例です。
「Aは、里親ボランティアをしているB団体から、「終生大切な家族として迎えたい」として13匹の猫を引き取りたいと申し出ました。
B団体はAに対し、Bに里親として飼育する適格があるか確認し、猫の終生飼養、室内飼い、不妊去勢手術を約束して猫をお試しとしてAに渡しました。
しかしその後、Aは他の団体からすでに20匹の猫を引き取っていることが発覚、Aの飼育への不安を感じたB団体は、Aに対し猫の返還と賠償責任を要求しました。」
この裁判は、Aに対し、住んでいるマンションの広さでは猫を30匹飼うことは通常できない、また試し期間なのにかかわらず面会を断るなどの状況から、猫の里親として適切ではないと判断され、72万円の賠償金が認められました。
さらに高等裁判に上訴され、猫の引き渡し命令も認められたとか。善意である里親も、飼育できない数の猫を譲渡してもらうとネグレクトが疑われます。また猫をだまし取る詐欺行為と疑われることもありますから肝に銘じましょう。
■最後に
いかがですか。日本ではペットは残念ながら「モノ」という扱い。民法上は命ある動物に対して配慮した条文は見当たらないのが現状です。
しかしドイツでは「動物は物ではない」と規定している条文があります。早く日本もそうなると良いですね。