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宇宙を膨張させる負の引力!?「ダークエネルギー」をわかりやすく解説


宇宙論を聞いていると、たまに「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」という単語が登場します。

その言葉を聞いて暗黒物質(ダークマター)の別名だと思った人、鎮まれ俺の右腕と思った人、フォースの暗黒面だと思った人、いろいろいるがもしれませんが、それらはすべて間違いです。

ダークエネルギーとは、宇宙を膨張させる未知のエネルギーのことを指しており、その力の意味するところは負の引力です。

興味は湧くけど理解するのが難しい天文用語「ダークエネルギー」について、今回は解説していきます。

 

目次

  • アインシュタインの生涯「最大の過ち」
  • 宇宙の膨張を観測したハッブル
  • 蘇る宇宙項

↓↓動画でも解説しています。

アインシュタインの生涯「最大の過ち」

「ダークエネルギー」という用語で使われている「ダーク(暗黒)」という言葉は、「まったく未知の検出できないもの」を意味しています。

けっして黒いわけでも邪悪なわけでもありません。

また、暗黒物質と呼び方が似ているためよく混同されますが、暗黒物質とも関係はありません。

むしろまったく逆の存在といってもいいかもしれません。

「ダークエネルギー」は、重力に逆らって宇宙空間を加速膨張させていく未知のエネルギーのことを表しています。

ただ、いきなりそんなことを言われても意味がよくわからないので、きちんとダークエネルギー発見のいきさつについて語っていきましょう。

まずそもそも、宇宙という時空は、内側に重力で引っ張り合う数多の天体を持っているため、基本的には収縮する力が働いているはずです。

一般相対性理論を発表したとき、アインシュタインも自身の重力場方程式の中に宇宙を収縮させる作用があることに気づきました

しかし、当時はまだ宇宙についてほとんど何もわかっていなかった時代です。

ビッグバン宇宙論もなく、宇宙がある瞬間に誕生したという考え方はアインシュタインでさえ持ち合わせていませんでした。

宇宙とは永遠不滅にして不変のもの。

それが当時の常識であり、アインシュタインもそのように考えていたのです。

そのためアインシュタインは、「宇宙が縮むはずがない。何らかの作用によって宇宙は不変の状態に保たれているはずだ」と考えました

そこで重力場方程式の中に、宇宙の収縮を押し止める「時空が持つ斥力」として宇宙項というものを導入したのです。

アインシュタインは自らの理論が導く宇宙が収縮するという問題を解決するため、宇宙を膨張させる宇宙項を方程式に導入した
アインシュタインは自らの理論が導く宇宙が収縮するという問題を解決するため、宇宙を膨張させる宇宙項を方程式に導入した / Credit:canva.ナゾロジー編集部

つまりアインシュタインは、自らが考える宇宙モデルと辻褄が合うように、方程式を改ざんしてしまったわけです。

暗黒面に堕ちたアインシュタイン。彼はのちにこのことを深く後悔します。

宇宙の膨張を観測したハッブル

その後、宇宙望遠鏡の名前にもなった偉大な天文学者エドウィン・ハッブルが宇宙は膨張しているという証拠を、遠方銀河の観測から発見します。

エドウィン・ハッブルは遠方銀河の赤方偏移を観測し、宇宙が膨張しているという証拠を掴む
エドウィン・ハッブルは遠方銀河の赤方偏移を観測し、宇宙が膨張しているという証拠を掴む / Credit:canva,Wikipedia ,ナゾロジー編集部

宇宙が膨張していた理由は、後にジョルジュ・ルメートルのビッグバン理論によって説明されることになります。

宇宙はビッグバンという大爆発から誕生していて、その時の爆発の勢いが未だに続いているため、宇宙は膨張を続けているというのです。

宇宙が不変でもなんでもなく、風船のように膨らんでいるとわかった以上、もはや宇宙を不変に保つための宇宙項は必要ありません

そこでアインシュタインは重力場方程式から宇宙項を削除し、このことを「生涯最大の過ちだった」と語ったのです。

しかし、そんなアインシュタインの「最大の過ち」は、後の世で高く評価されることになります。

蘇る宇宙項

宇宙の膨張はビッグバンの爆発がもとになっていると考えられていたため、次第に減速していくだろうと予想されていました。

ところが、1998年に、アメリカの2つの観測グループが相次いで「宇宙の膨張速度は加速している」と報告したのです。

これはIa型(いちえいがた)超新星という天体の観測から明らかにされました。

Ia型超新星とは、白色矮星が起こす特殊な超新星爆発のことを指します。

白色矮星は、核融合の燃料を使い果たして死んだ星です。しかし、これが近接した連星を持つ場合、その星の物質を奪い取って再び活性化することがあります。

白色矮星は、星として維持できる質量の限界が決まっています。

これを「チャンドラセカール限界」といい太陽の1.4倍以上の質量になることはありません。

そのため伴星から物質を奪い限界質量に達した白色矮星は、超新星爆発を起こすのです。

Ia型超新星はすべて同じ質量で起きるため、明るさが等しい。地球から見た明るさの違いは宇宙の距離の測定に使える。
Ia型超新星はすべて同じ質量で起きるため、明るさが等しい。地球から見た明るさの違いは宇宙の距離の測定に使える。 / Credit:canva,depositphotos,ナゾロジー編集部

この超新星の重要なところは、全てがほぼ同じ質量で発生するため、ピーク時の光度がどの天体でもほぼ一致しているということです。

明るさがみんな一緒ということは、地球から見て明るさが異なるとき、それは純粋に距離の影響と考えられます。

Ia型超新星は、90億光年という遠方からでも確認でき、ハッブルの観測よりも、遠い宇宙の距離の違いを正確に測ることができました。

そこで複数のIa型超新星を観測して比べてみた結果、宇宙は減速しながら膨張しているのではなく、加速して膨張していることがわかったのです。

この発見により再評価されたのが、アインシュタインの宇宙項です。

アインシュタインは宇宙を不変に保つために宇宙定数Λというものを導入しましたが、これを膨張が強まる値に修正して使うと、なんと不思議なほど観測事実と一致したのです。

宇宙が加速膨張しているという状態は、宇宙項を含めたアインシュタインの重力場方程式で見事に表現できたのです。

宇宙が加速膨張しているという事実は、宇宙項を含めたアインシュタインの重力場方程式で表現できる
宇宙が加速膨張しているという事実は、宇宙項を含めたアインシュタインの重力場方程式で表現できる / Credit:canva,Wikipedia ,ナゾロジー編集部

この結果、宇宙には通常の物質と、足りない重力を補う未知の暗黒物質(おそらく未検出の素粒子)以外に、約7割のダークエネルギーが含まれているはずだとわかりました。

宇宙の実に7割近くが未知のダークエネルギー
宇宙の実に7割近くが未知のダークエネルギー / Credit:国立大学附置研究所

つまり、ダークエネルギーは一般的に知られているエネルギーとは意味が異なり宇宙を膨張させる「負の引力(斥力)」を表しています

そのため、宇宙に不足している重力を補うために仮定された、暗黒物質とはまるで異なるものなのです。

そして、そのダークエネルギーとは、まさにアインシュタインが「最大の過ち」といった宇宙項そのものなのです。

過ちまでが成果になるとはアインシュタインは、なんともすごい人物です。

ダークエネルギーに関しては、それがなんであるのか、現在もさまざまな研究プロジェクトが勧められていますが、その正体は謎に包まれています

そもそも宇宙が加速膨張している事実が誤りだと主張する研究も登場しています。

もしかしたら、本当にフォースの暗黒面が宇宙を広げているのかもしれません。

※この記事は2021年7月公開の記事を再編集したものです。

全ての画像を見る

参考文献

ダークエネルギーの証拠(KEK)
https://www2.kek.jp/ja/newskek/2005/julaug/darkenergy.html

宇宙の暗黒問題(東京大学宇宙理論研究所)
http://www-utap.phys.s.u-tokyo.ac.jp/~suto/myresearch/SONY-angle79.pdf

暗黒エネルギー(東京大学)
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/story/newsletter/keywords/25/03.html

ライター

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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