瀬戸内海では現代でも、サメ被害のニュースを聞くことがありますが、それは大昔の日本でも同様だったようです。
英・オックスフォード大学(Oxford University)考古学研究チームの調査で、約3000年前にサメに襲撃されて命を落とした男性の遺骨が発見されました。
遺骨は、瀬戸内海にほど近い津雲貝塚(岡山県笠岡市西大島)で以前に発掘されたもので、「No.24」と呼ばれています。
サメに襲われた遺骨が見つかるのは珍しく、No.24はその直接的な証拠としては最古のものです。
研究は、2021年6月23日付けで科学誌『Archeological Science: Reports』に掲載されました。
目次
- 釣りの最中にサメに襲われた?
釣りの最中にサメに襲われた?
この遺骨は、同大学のJ・アリッサ・ホワイト氏とリック・シュルティング氏が、京都大学で先史時代の狩猟採集民の骨格に見られる外傷を調査していた時に発見されました。
両氏は「男性の骨には、深い鋸歯状の傷が少なくとも790ヶ所あり、最初は何が原因であるのか分からなかった」という。
続けて、「傷は主に腕、脚、胸と腹部の前面に限られており、消去法で、他人との争いや、一般に報告されている動物の捕食者、死骸漁りなどは除外しました。
そこでサメによる襲撃で浮上したのです」と話します。
サメ襲撃の考古学的な事例はきわめて稀なため、両氏は専門家のジョージ・バージェス氏(Florida Program for Shark Research)に協力を依頼し、サメ襲撃の法医学的な点に注目。
考古学と科学捜査の技術を組み合わせて、当時の状況をくわしく再構築しました。
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その結果、男性は紀元前1370〜1010年の間(縄文時代晩期)に瀬戸内海でサメに襲撃されたことが予測されました。
傷の分布から、襲撃時はまだ生きていたことがうかがえ、左手は防御のために差し出したことで、サメに噛みちぎられたと考えられます。
また、歯形の特徴と分布から、イタチザメかホオジロザメの可能性が高いとのこと。
地元の墓地に埋葬されたことから、男性は襲撃直後に仲間に救助されたと見られます。複数人で釣りをしていたか、泳いでいたのかもしれません。
男性は右足も失っており、左足は胴体にもたせかけるように安置されていました。
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研究チームは、論文内で「縄文時代の日本人は、さまざまな海洋資源を利用していました。
この男性が意図的にサメを仕留めようと狙っていたのか、あるいは他の魚の血やエサでサメが寄ってきたのかは定かでありません。
いずれにしても、この発見は先史時代の劇的なエピソードを再現できただけでなく、古代日本の生活に新たな視点を提供するでしょう」と述べました。
瀬戸内海では、1992年に潜水夫の男性がホオジロザメに襲撃されて死亡した事件が報告されており、今もサメの目撃情報が相次いでいます。
日本の海でも決して安心はできません。
参考文献
Researchers find 3,000-year-old shark attack victim
https://phys.org/news/2021-06-year-old-shark-victim.html
元論文
3000-year-old shark attack victim from Tsukumo shell-mound, Okayama, Japan
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2352409X21002777?via%3Dihub
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部