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脳に刺したLEDで「友情」を遠隔操作する研究


ノースウェスタン大学の研究者たちは、マウスの社会的関係性を脳への光刺激を用いて遠隔操作する技術を開発しました。この研究では、マウスの脳遺伝子を光に反応するように遺伝子改変し、小型LEDを使って脳の活動を同期させました。結果として、光刺激の同期によりマウスは互いになかよく振る舞い、非同期では興味を失い距離を置くことが観察されました。この技術は、社会的関係性を外部入力で操作できる可能性を示唆しており、将来的には人間への応用も視野に入れていますが、倫理的な問題が課題となります。

社会的関係性を第三者が自由に変更できるようです。


2021年5月10日に『Nature Neuroscience』に掲載された論文によれば、脳への刺激を同期させることで、マウスの社会的関係性(なかよし度)を遠隔操作することに成功したとのこと。


精神に対するリアルタイムのプログラム操作が可能になったことで、脳に対する理解は大きく進むと期待されます。


社会的関連性のような高度な精神活動を、どうやって操作したのでしょうか?




目次



  • 脳に刺したLEDで「友情」を遠隔操作する装置が開発!
  • 脳が同期していると「なかよし」になる
  • 「友情」の制御

脳に刺したLEDで「友情」を遠隔操作する装置が開発!


脳に刺したLEDで「友情」を遠隔操作する装置が開発!
脳に刺したLEDで「友情」を遠隔操作する装置が開発! / Credit:Canva

近年の急速な脳科学の進歩により、恐怖や痛み、快楽や安らぎといったさまざまな感情を定義する神経パターン(コード)が明らかになっています。


さらに外部からのコード入力によって被検体に対し、任意の感情(恐怖や快楽)を強制できるんです。


しかしこれまでの研究において、脳へのコード入力は、複数の電線や電極を必要とするものであり、被検体の自然な動きを妨げる要因になっていました。


特に社会的関連性(なかよし度)のような複数個体の頻繁な身体接触のかかわる現象を研究するには、動きを制限しない方法が必要です。


そこで今回、ノースウェスタン大学の研究者たちは、ワイヤレスな制御と充電が可能な小型軽量の入力装置を開発しました。


マウスの脳細胞を光に反応するように、ウイルスを使って遺伝子を書き換える
マウスの脳細胞を光に反応するように、ウイルスを使って遺伝子を書き換える / Credit:Canva

またこの入力装置は脳への接触部分に、負担が大きい金属製の電極ではなく、小型のLEDが用いられました。


実験に用いられるマウスたちの脳の遺伝子は、光に反応して活性化するように書き換えられており、光を照射するだけで電気刺激をしたときのような反応を引き起こすことが可能です。


マウスの脳には電極の代わりに針の先についたLEDが埋め込まれた
マウスの脳には電極の代わりに針の先についたLEDが埋め込まれた / Credit:Canva

装置が完成すると、研究者たちはLEDをマウスの社会性をつかさどる脳の4カ所に刺し込み、光刺激を開始しました。


すると、非常に興味深い事実が判明します。


前頭前野において光刺激を同期させた場合とさせない場合で、マウスの社会的関係性に大きな違いがうまれたのです。


脳が同期していると「なかよし」になる


脳が同期していると2匹はなかよしになりじゃれつき続ける
脳が同期していると2匹はなかよしになりじゃれつき続ける / Credit:Yiyuan Yang et al (2021) . Nature Neuroscience

上の動画は、2匹の脳を同じ5Hzの光パルスで同期したとき(同期)の様子になります。


脳が同期状態にあるときには、2匹はほとんど「つかず離れず」の状態に陥りました。


そして互いの毛をグルーミング(毛づくろい)する友好的な振る舞いや、相手の匂いを頻繁に嗅ごうとする興味を感じているときの振る舞いが多く記録されます。


非同期になると2匹は互いに対する興味を失う
非同期になると2匹は互いに対する興味を失う / Credit:Yiyuan Yang et al (2021) . Nature Neuroscience

一方、上の動画では同じ2匹の脳を、片方を5Hz、もう片方を25Hzで刺激した時の様子になります。


脳が5Hzで同期していた時とは大きく異なり、2匹は互いに対する親愛さと興味を大きく失って、距離をとるようになりました。


また追加の実験により、研究者たちは他のランダムに選んだ2匹の社会的関係を、同期と非同期を用いてリアルタイムで親密にしたり疎遠にしたりと、遠隔操作できることを発見します。


この結果は、対象者たちの脳の同期が社会的関係性の形成において、重要な役割を果たしていることを示唆するとともに、社会的関係性のような高度な精神活動も外部入力を用いて操作できることを示します。


「友情」の制御


人間にも応用できれば社会関係で悩む必要のない「全員なかよし」の世界がやってくる
人間にも応用できれば社会関係で悩む必要のない「全員なかよし」の世界がやってくる / Credit:Canva

今回の研究により、社会的関係性が対象者の脳の同期によって築かれ得ることがわかりました。


「なかよくなる」ということは、自分と他人の神経活動リズムを一致させることからはじまるのかもしれません。


研究者たちは今後、この光刺激装置をマウスの様々な脳領域に適応することで、社会的関係性以外のさまざまな精神活動の制御を目指していくとのこと。


もし人間に対しても制御が実現すれば、どんなに気に入らない人とも大親友になれるだけでなく、場面に応じて最適の精神状態に自分を変化させられるかもしれません。


ただ光刺激装置を使うには、マウスに行ったように脳細胞の遺伝子の後天的な書き換えが必要になるため、電極を用いた刺激よりもクリアすべき倫理的問題は多くなるでしょう。


全ての画像を見る

参考文献

Implanted wireless device triggers mice to form instant bond
https://news.northwestern.edu/stories/2021/05/implanted-wireless-device-triggers-mice-to-form-instant-bond/

Scientists remotely controlled the social behavior of mice with light
https://www.sciencenews.org/article/optogenetics-social-behavior-brains-mice-light

元論文

Wireless multilateral devices for optogenetic studies of individual and social behaviors
https://www.nature.com/articles/s41593-021-00849-x

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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