魚は、栄養の面では体に良い食べ物です。
魚を含む海の幸は、オメガ3脂肪酸やセレン、ヨウ素、質の良いたんぱく質をもたらしてくれる食べ物だからです。
実際、海の幸を定期的に食べる人ほど、心臓や血管の病気で亡くなる人が少ないという追跡調査もあります。
ところが海の幸は、分解されにくい化学物質が食事を通して人の体に入ってくる、主な入り口でもあります。
栄養と化学物質が、同じ一皿に一緒に乗っているのです。
それなのに、これまでの大規模な調査では、海の幸をひとつの食品グループとしてまとめて扱ってきました。
焼き魚もアサリもエビもワカメも、同じ「シーフード」として数えられていたわけです。
では、海の幸を種類ごとに分けて調べると、体にたまる化学物質との関係はどう見えるのでしょうか?
そして、その化学物質は、肝臓の状態を映す数値とどうつながっているのでしょうか?
研究の詳細は、2026年10月28日付で学術誌『Scientific Reports』に掲載されました。
魚介を世界平均の約3倍食べる国で調べた

研究チームが注目したのは韓国です。
韓国では、1人が1年に食べる魚介の量がおよそ58kgにのぼります。
1日あたりに直すと、毎日160gほどを食べている計算です。
これは世界平均のおよそ3倍で、日本やノルウェーよりも多い量です。
さらに韓国の大人は、血液の中のPFAS(ピーファス)という化学物質の濃さでも目立っています。
PFASは、フッ素を含み、分解されにくい化学物質の仲間です。
韓国の大人の血液に含まれる量は、アメリカやカナダ、フランス、ドイツの全国調査の2〜7倍だと報告されています。

魚をたくさん食べ、血液のPFASも多い国は、魚の栄養と化学物質の問題を考えるのに手がかりの多い場所だといえます。
研究チームが使ったのは、2021〜2023年に行われた韓国の全国環境保健調査のデータで、大人4279人が含まれています。
このうち1564人については、血液中のPFASや、ほかの分解されにくい汚染物質の量まで測られていました。
研究の工夫は、海の幸を6つの種類に分け、すべてを同じ計算に一度に入れたことです。
魚、貝、エビやカニのような甲殻類(こうかくるい)、海藻などを、それぞれ別々に数えたのです。

こうすると、食べ物どうしの重なりをほどけます。
たとえば魚をよく食べる人がたまたま貝もよく食べていても、血液の値がどちらと結びついているのかを分けて見られるのです。
研究チームは、肝臓の状態を映す血液検査の数値との関係もあわせて調べました。
こうして、海の幸のどの種類が体の化学物質とつながっているのかを、一つずつ確かめられるようになりました。
海藻好きもPFASが多く見えたのに、6種を並べると何が起きた?

計算の結果、血液の化学物質との結びつきの大部分を占めていたのは、ひれを持ついわゆる「魚」でした。
魚を食べる量が2倍になるごとに、PFASの一種であるPFOS(ピーフォス)は14.1%高い値でした。
ほかの4種類のPFASも、種類によって4.4〜13.2%高い値でした。
PCB(ポリ塩化ビフェニル)と呼ばれる、塩素を含む汚染物質も同じ傾向でした。
PCBのうち、血液から十分に検出された7種類では、そのうち6種類で、魚を多く食べる人ほど高い値が出たのです。
その高さは、種類によって4.8〜13.0%でした。
残る1種類だけは、魚との結びつきが見られませんでした。
そして血液中の水銀は、魚を食べる量が2倍になるごとに13.2%高い値でした。
性質の違う化学物質が、魚の量にそろって連動していたのです。
次に目立ったのは貝です。

貝を食べる量が多い人ほど、3種類のPFASが高い値でした。
いちばん差が大きかったのはPFOA(ピーフォア)で、貝の量が2倍になるごとに9.4%高い値です。
一方で、PCBのような塩素を含む物質には、貝との結びつきは見られませんでした。
魚が幅広い化学物質とつながっていたのに対し、貝は範囲の狭い、別の形を見せたわけです。
エビやカニなどの甲殻類では、食べる量が多い人ほど、ほかの海の幸の分に上乗せして化学物質が多くなる、という結びつきは見られませんでした。
同じ調査の前の回のデータを使った韓国の研究では、甲殻類を食べることとPFASの関係が報告されていましたが、ほかの5種類を同時に計算に入れた今回は、甲殻類によるそうした上乗せは見られなかったわけです。

もっと意外な動きを見せたのが海藻です。
単純に比べると、海藻をよく食べる人ほど血液のPFASも多いという、弱いながらも偶然とは考えにくい関係がありました。
ところが、魚や貝などほかの海の幸と同時に計算に入れると、この関係はすべて消えてしまいました。
それどころか、PCBの一部や水銀など6つの値では、海藻を多く食べる人ほど、むしろ低い値が出ました。

研究チームは、海藻の見かけの関係は、海の幸を全体によく食べる食生活が表に出ていただけだと考えています。
海藻そのものには、体にたまる化学物質を上乗せする独自の結びつきは見当たらなかった、ということです。
一方、調査票でクジラやサメ、マグロを例に挙げた「大型の捕食魚」では、化学物質を上乗せする関係は出ませんでした。
研究チームはその理由を、食べる量が少なく、人によるばらつきも小さかったためだと説明しています。
こうした魚を週1回以上食べると答えた人は、参加者の3.1%だけでした。
このほかの海産物は、血液中の水銀とだけ結びついていました。
海の幸とひとくちに言っても、化学物質との結びつき方は種類ごとに大きく違っていたのです。
魚と肝臓の数値の間に隠れていた「2本の道」

では、こうした化学物質は、肝臓の状態とどう関わっていたのでしょうか?
研究チームが見たのは、GGT(γ-グルタミルトランスフェラーゼ)という、肝臓の状態を映す血液検査の数値です。
日本の健康診断で「γ-GTP」と呼ばれている項目と同じものです。
まず、5種類のPFASをひとまとめにして見ると、PFASが多い人ほどGGTも高い傾向がありました。
5種類のPFASの量をそれぞれ4つの段階に分け、全部がそろって1段階上がると、GGTは2.8%高くなる計算です。
ところが、魚を食べる量とGGTを直接比べると、はっきりした関係は見られませんでした。
魚を食べる人ほどPFASが多く、PFASが多い人ほどGGTが高いのに、なぜ魚とGGTはつながらなかったのでしょうか?
研究チームは、魚とGGTの関係を2本の道に分けて調べました。
1本目は、魚を食べる量がPFASの多さにつながり、それがGGTの高さにつながる、という「PFASを通る道」です。

この道を通る分は、計算上GGTを高める向きに働いており、その大きさは偶然とは考えにくいものでした。
この「PFASを通る道」は男女どちらでも見られ、男性の方が大きめでした。
2本目は、PFASを通らない、それ以外のつながりです。
こちらはGGTを低くする向きの値が出ましたが、ばらつきが大きく、ゼロの可能性も否定できませんでした。
つまり、この2本目の道が本当にGGTを下げる向きなのかどうかは、この調査でははっきりしません。
それでも研究チームは、2本の道が反対向きに打ち消し合って、魚とGGTが一見無関係に見えていたと説明しています。
また、この研究は、食べる量と血液の値の結びつきを統計で調べたものです。
魚が化学物質を増やしたり、肝臓の数値を変えたりすることを、直接確かめたわけではありません。
それでも、海の幸をひとまとめにしていた調査では見えなかった違いが、種類ごとに分けることで浮かび上がりました。

魚に栄養と化学物質の両方が入っている以上、それを食事の目安にどう生かすかは、長く続いてきた難しい課題です。
そのなかで今回の研究では、魚を食べる量が2倍になるごとに血液の水銀が1割あまり高くなる一方、エビやカニなどの甲殻類や海藻では、そうした上乗せは見られないという違いが示されたのです。
参考文献
Finfish intake is associated with persistent chemical burden and a PFAS-mediated pathway to γ-glutamyltransferase in Korean adults (Scientific Reports)
https://doi.org/10.1038/s41598-026-74744-5
元論文
Finfish intake is associated with persistent chemical burden and a PFAS-mediated pathway to γ-glutamyltransferase in Korean adults
https://doi.org/10.1038/s41598-026-74744-5
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
