「今月の最優秀社員」として朝礼で名前を呼ばれるのと、誰にも知られずに給料が上がるのと、どちらがうれしいでしょうか?
職場のごほうびには、みんなの前で渡すものと、本人にだけそっと渡すものがあります。
表彰や全社会議でのほめ言葉が前者、静かな昇給や上司からの個別のほめ言葉が後者です。
さらに、給料も権限もそのままで、立派に聞こえる肩書きだけを与える「肩書きのインフレ」というやり方もあります。
では、こうした人前のごほうびで本当にやる気が出るのは、どんな人なのでしょうか?
研究チームが目を付けたのは、「自分は特別だ」と感じやすい、ある性格の傾向でした。
その傾向の強さによって、ほしいごほうびは変わるのでしょうか?
研究の詳細は、米コーネル大学らにより、2026年10月8日付で学術誌『Social Psychological and Personality Science』に掲載されました。
目立つ舞台を求める性格

その性格とは、心理学で「誇大型の自己愛(誇大型ナルシシズム)」と呼ばれる傾向です。
自分を大きく見積もり、特別扱いを当然と感じ、人より上に立ちたがるのが特徴です。
自己愛が強い人は、成功が周りにどれだけ見えるかで頑張り方を変えることが知られています。
2002年の研究では、称賛を得るチャンスがある時ほど、自己愛が強い人は難しい課題でよい成績を出しました。
心理学の理論のまとめによれば、彼らは周りからの尊敬や憧れ、つまり「地位」を上げる機会をいつも探しています。
そのやり方は、自分を見せびらかして称賛を集めるか、他人をけなしてライバルを蹴落とすかの2通りです。
実際、自己愛の強さは、高い社会階層やよいキャリア、リーダーの地位に就くことと結びついていて、このやり方はうまくいっているようです。
人前のごほうびは、誰が勝って誰が負けたかを全員に見せるので、どちらのやり方にも打ってつけの舞台です。

一方、自己愛が弱い人は、目立つと同僚にねたまれ、足を引っぱられるのを心配して、スポットライトを避けるのではないかと考えられます。
米コーネル大学で組織行動を研究するエミリー・M・ジテック准教授らは、ここに目を付けました。
自己愛の強い人は共感が弱い傾向があるので、同僚の嫉妬にもひるみにくいのではないかと考えたのです。
むしろ、同僚のねたみを「自分が上に見られている」しるしとして喜ぶかもしれない、ともチームは考えました。実際、自己愛が強い人は恋人に嫉妬させようとする傾向があるという研究もあります。

ジテック氏は、職場の肩書きのインフレについて「立派な肩書きが本当に魅力的なのか」にも関心があったと語っています。
チームは4つの主な調査と3つの追加調査を行い、主な調査ではアメリカでフルタイムで働く人を対象にしました。
主な調査の参加者は合わせて1069人で、どの調査も前もって計画を公開してから進められています。
チームの予想は、自己愛が強い人ほど、人前のごほうびや立派な肩書きに惹かれるというものでした。
10%のボーナスを全社に発表?自己愛の強い人の答えは?

最初の調査では、249人に、自分の職場に実際にある人前のごほうびと内緒のごほうびを1つずつ挙げてもらいました。
人前のほうには、昇進や「今月の社員」の表彰、みんなの前でのほめ言葉が並びました。
内緒のほうには、昇給や、メールや1対1でのほめ言葉が並びました。
参加者には、それぞれでどれだけやる気が出るかを7点満点で答えてもらい、自己愛の強さも16問の質問で測りました。
全体の平均は、内緒のごほうびが5.63点、人前のごほうびが4.43点でした。
ふつうの働く人にとっては、こっそりもらえるごほうびのほうが心に響くわけです。
ところが、自己愛の強さで分けて見ると、違いが浮かび上がりました。
内緒のごほうびへのやる気には、自己愛の強さとのはっきりしたつながりは見られませんでした。
一方、人前のごほうびへのやる気は、自己愛が強い人ほどはっきり高かったのです。

ただしこの調査では、昇給とほめ言葉のように、比べるごほうびの中身そのものが違っていました。
そこで次の調査では、ごほうびの中身をそろえ、渡し方だけを変えて比べました。
244人に示したのは、年末のボーナスや昇進、豪華なランチなど7種類のごほうびです。
そして、それぞれを人前でもらうのと内緒でもらうのと、どちらがいいかを答えてもらいました。
全体の平均は、内緒の側に寄っていました。
それでも、自己愛が強い人ほど人前を好み、7種類のうち6種類でこの傾向がはっきり出ました。
続く調査では294人に、10%のボーナスを内緒で伝えてほしいか、全社に発表してほしいかを選んでもらいました。

数字が小さいほど内緒を望む7段階の目盛りで、平均は2.01でした。
つまり全体では、はっきり「内緒にしてほしい」側に寄っていたのです。
それでも、自己愛が強い人ほど、全社への発表に傾いていました。
では、なぜ選び方がこれほど分かれたのでしょうか?
選んだ理由をたずねると、自己愛が強い人ほど「同僚の中で地位を得たい」という気持ちが強く出ました。
反対に、「同僚にねたまれるのが心配」という気持ちは、自己愛が強い人ほど弱かったのです。
自己愛が弱い人にとっては、ねたまれる心配が、発表を避ける理由の一つになっていたと考えられます。
ただし研究チームは、この理由を探る分析は、現実には満たしにくい前提に立っていると注意しています。
それでも、人前のごほうびを好むかどうかは、地位への欲や、嫉妬をどこまで気にするかと結びついていたのです。
給料か、立派な肩書きか

最後の調査では、さらに踏み込んで、2つの仕事のどちらを引き受けるかを選んでもらいました。
仕事Aは、今より立派な肩書きがつきますが、給料は今とほぼ同じです。
仕事Bは、肩書きは今と同じですが、給料は今より上がります。
説明では、新しい肩書きは「友人や家族がとても感心する」一方、昇給は「彼らには知られない」と伝えました。
さらに、肩書きが違っても、どちらの仕事も社内での権限は同じだと念を押しています。
肩書きを選ぶ理由が「力が手に入るから」にならないようにするための工夫です。
282人が答えた結果、全体では給料が上がる仕事のほうが大きく好まれました。
多くの人にとって、人に感心される肩書きより、自分の手元に入るお金のほうが大事だったわけです。

ところが、この「給料びいき」の強さは、自己愛の強さによって違っていました。
自己愛が強い人ほど、立派な肩書きの仕事を引き受けたい気持ちが強かったのです。
頑張り方の問いでも、自己愛が強い人ほど「よい肩書きのためなら頑張りたい」と答えていました。
一方で、「高い給料のために頑張りたい」気持ちは、自己愛の強さと関係がないか、むしろ自己愛が強い人ほど弱い傾向でした。
権限が増えないと分かっていても肩書きを求めたことは、ほしいのが力ではなく地位である可能性を示しています。
自己愛を2つの面に分けて見ても、どちらも肩書きへの欲と結びついていました。
1つは、自分を目立たせて称賛を集めたい「称賛型」の面です。
もう1つは、他人を批判したり攻撃したりして、相手の地位を下げたい「対抗型」の面です。
人前で示せるごほうびは、自分を売り込む場にも、他人より上だと示す場にもなると考えられます。

別の質問票で自己愛を測った追加調査でも、同じ結果が繰り返されました。
ただし、注意しておきたい点もあります。
主な調査の参加者はオンラインで集めたアメリカのフルタイムの働き手で、どの主な調査も本人の答えをもとにしています。
ボーナスや仕事の選択は想像の場面への答えで、実際に肩書きをもらった後の働きぶりを測ったわけではありません。
また、自己愛と好みのつながりは相関で、自己愛がそのまま好みを生むと確かめたものでもありません。
それでも研究チームは、肩書きのインフレは、自己愛が弱い人より強い人をやる気にさせやすいかもしれないと述べています。
給料も権限も変わらず、友人や家族が感心する肩書きがつくだけでも、自己愛が強い人ほど頑張る気になりやすかったのです。
写真で見る会社員の名刺

参考文献
Narcissistic employees will work harder for a title than for a raise, study finds (PsyPost)
https://www.psypost.org/narcissistic-employees-will-work-harder-for-a-title-than-for-a-raise-study-finds/
元論文
Inflated Titles, Inflated Egos: Narcissism Predicts the Desire for Public Rewards
https://doi.org/10.1177/19485506261486505
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
