同性愛や両性愛など、性のあり方が少数派の人たちがいます。
こうした性的少数者(LGBTQ+)は、多数派の人より体や心の健康が悪いと、くり返し報告されてきました。
では、性の健康はどうなのでしょうか?
実はこの点は、体や心の健康に比べて、あまり調べられてきませんでした。
特に、人数の少ないグループについては研究が少ないままでした。
たとえば、他人に性的にひかれない「アセクシュアル」の人や、性自認(自分がどの性だと感じているか)の少数派である「ノンバイナリー」の人です。
性の少数派であることは、性生活の悩みの多さにもつながっているのでしょうか?
それとも、少数派の中でも、グループによって事情は違うのでしょうか?
フィンランドで行われた8000人以上の調査が、この問いに迫りました。
研究の詳細は、2026年10月29日付で学術誌『Journal of Sex &Marital Therapy』に掲載されました。
フィンランドの双子と兄弟姉妹に尋ねた

調査はネット上のアンケートで、2018年11月から2019年1月にかけて行われました。
招待状は郵便で、フィンランドの18歳以上の双子とその兄弟姉妹の全員、3万3211人に送られました。
1000人規模の学校なら、33校分に当たる人数です。
回答したのは、招待された人のおよそ3割でした。
研究への利用に同意し、必要な質問に答えた8589人が、分析の対象になりました。
アンケートはすべてフィンランド語で、性や恋愛関係、健康について尋ねるものでした。
回答者は、性的指向ごとのグループに分けられました。
異性愛、同性愛(ゲイ・レズビアン)、両性愛、アセクシュアルなどのグループです。

研究で「新しいアイデンティティ」とまとめられたグループもありました。
性自認の面でも、比較が行われました。
国の住民登録の性と自分の思う性が同じ「シスジェンダー」の人と、トランス男性(女性から男性へ性別を移行した人)やトランス女性(男性から女性へ移行した人)などの人たちです。
調べた中身は、大きく2つあります。
1つは性の働き(性機能)で、性欲のほか、女性では性的な興奮、オーガズムの得やすさ、性交時の痛み、満足度などです。
男性では、射精が早すぎる悩み(早漏)も調べられました。
もう1つは、自分の性生活について感じる悩みやつらさ(性的苦痛)です。
こうして、少数派どうしを、そして少数派と多数派を、同じ物差しで比べられるようにしたのです。
性の悩みが最も大きかったのは、どのグループ?

まず目立ったのは、両性愛の人たちでした。
性生活の悩みの平均は、男性でも女性でも、両性愛のグループが最も高かったのです。
女性では、両性愛の女性の悩みは、異性愛、レズビアン、アセクシュアルの女性よりはっきり大きくなっていました。
男性でも、両性愛とゲイの男性は、異性愛の男性より悩みが大きくなっていました。
両性愛の人は、回答者全体の7.3%を占めていました。
これは、性的少数者の中でいちばん大きなグループです。
つまり、少数派の中の「多数派」が、最も悩みの大きい人たちだったことになります。
なぜ、両性愛の人で悩みが大きいのでしょうか?
研究者たちは、その背景の1つとして「二重の差別」を挙げています。
両性愛の人は歴史的に、異性愛の人からも、ゲイやレズビアンの人たちからも差別を受けてきました。

こうした扱いは「モノセクシズム」とも呼ばれます。
2つ以上の性にひかれる人が、異性愛の人の間でも性的少数者の間でも、隅に追いやられる現象です。
人は物事を「AかBか」の二択で考えがちです。
そんな世の中では、2つ以上の性にひかれることが、人づきあいの中で扱いにくくなるというのです。
研究者たちは、恋人との関係にも目を向けています。
両性愛の人は、両性愛ではない人と付き合うこともあるでしょう。
その相手には、自分の性のあり方が分かりにくいかもしれません。
「自分は本当に受け入れられているのか」という疑いや不安が、性生活の悩みにつながる可能性があるといいます。
ただし、この点は今回の研究の範囲外で、今後確かめるべき課題とされています。
一方、女性の中で良い結果がそろったのが、レズビアンの人たちです。

レズビアンの女性は、性生活の満足度が女性の中で最も高く、異性愛や両性愛の女性とははっきりした差がありました。
性的な興奮も、女性の中で最も高い結果でした。
性交時の痛みは、ほかのどのグループの女性よりもはっきり少なくなっていました。
オーガズムの得にくさも最も少なかったものの、はっきりした差は異性愛と両性愛の女性との間だけでした。
オーガズムの悩みが最も多かったのは異性愛の女性で、2番目が両性愛の女性です。
ただし、性生活の悩みの大きさでは、レズビアンの女性と異性愛の女性の間にはっきりした差はありませんでした。
同じ性的少数者の女性でも、両性愛とレズビアンとでは、性の健康の姿がかなり違っていたのです。
性欲が低くても、悩みは少なかった

性欲の強さにも、グループごとの違いがありました。
性欲が最も高かったのは、両性愛の女性とゲイの男性です。
反対に最も低かったのは、男女ともアセクシュアルの人でした。
性欲が低いなら、性生活でも何かと困っていそうに思えるかもしれません。
ところが、アセクシュアルの人の性生活の悩みは、性的指向を問わず、ほぼすべての参加者より低かったのです。
女性で比べると、アセクシュアルの女性の悩みは、ほかのどのグループの女性よりも低くなっていました。
平均すると、アセクシュアルの人は自分の性生活にかなり満足していました。
恋人どうしで性欲の差が大きいと、2人の関係に悪い影響が出ることがあります。研究者たちは、今回のアセクシュアルの参加者は、恋人がいてもいなくても、望まない性行為をするよう周りから迫られることがほとんど無かったのだろうと見ています。

早すぎる射精やオーガズムの悩みが、ほかの性的指向の人より多いわけでもありませんでした。
性交時の痛みの平均はアセクシュアルの女性で最も高かったものの、はっきりした差はレズビアンの女性との間だけでした。
ただし、アセクシュアルの回答者は人数が少なく、数字の正確な比較は難しかったと研究者たちは述べています。
男性の結果では、別の並びも見えてきました。
早すぎる射精の悩み(早漏)が最も多かったのは、異性愛の男性だったのです。
ゲイ、アセクシュアル、新しいアイデンティティの男性は、いずれも異性愛の男性よりはっきり少ない結果でした。

中でも最も少なかったのは、アセクシュアルの男性です。
両性愛の男性は、異性愛の男性との間にはっきりした差はありませんでした。
その異性愛の男性は、性生活の悩み全体では、最も小さいグループの1つでした。
早漏の悩みの多さと、性生活全体の悩みの大きさは、同じ並びにはならなかったのです。
年齢との関係も見られ、男性では年齢が高いほど早すぎる射精の悩みが多い傾向でした。
女性では、年齢が高いほど悩みが大きく満足度も低い一方、痛みやオーガズムの悩みは少ない傾向でした。
では、性自認が少数派の人たちはどうだったのでしょうか?
悩みの平均が最も高かったのは、トランス男性とトランス女性でした。

ただし、シスジェンダーの人との間に、統計的にはっきりした差は出ませんでした。
性自認で分けた比べ方で、統計的にはっきりした差が出たのは、シスジェンダーの女性と男性の間だけでした。女性のほうが、性生活の悩みが大きかったのです。
クィアやパンセクシュアル、デミセクシュアル(強い絆を感じた相手にだけ性的にひかれる人)など、ゲイやレズビアンほどは知られていない呼び名で、自分の性を表す人たちもいます。

研究者たちは、こうした人やノンバイナリー、アセクシュアルの人についてもまとめています。

多数派より性の悩みや不調を多く抱えている兆しは、見つからなかったというのです。
研究チームはもともと、少数派ならではの偏見や差別のストレスが心身の不調を招くという「マイノリティ・ストレス理論」をもとに、性的少数者ほど性の悩みが大きいと予想していました。この予想が当てはまったのは、一部だけだったのです。
性的少数者とひとくくりにされがちな人たちですが、性の健康は一様ではありませんでした。
両性愛の人の悩みがどこから来るのかは、まだ確かめられていません。
研究者たちは、恋人に受け入れられ、理解されていると感じることが、大切な支えになりうると考えています。
8589人の回答を性のあり方ごとに並べると、悩みの大きさは「少数派ほど重い」という一列には並ばなかったのです。
写真で見る性的少数者の旗とカップル




参考文献
Sexual Distress and Function in Sexual and Gender Minorities: A Finnish Population-Based Study (Journal of Sex &Marital Therapy)
https://doi.org/10.1080/0092623x.2026.2749654
元論文
Sexual Distress and Function in Sexual and Gender Minorities: A Finnish Population-Based Study
https://doi.org/10.1080/0092623x.2026.2749654
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
