大人になってからの稼ぎは、どの家に生まれたかと、ある程度つながっていることが知られています。
実際、兄弟姉妹どうしの稼ぎは、ほどほどに似通うことが以前の研究で示されてきました。
けれども、ふつうの兄弟姉妹を比べるだけでは、その正体が遺伝子なのか、家の豊かさや育て方なのかを切り分けられません。
そこで頼りにされてきたのが、同じ家で、ほぼ同じ日に生まれ育つ双子です。
米国では、9〜17歳のころ国勢調査に記録された双子を、20年後の給料の記録までたどる研究が行われました。
働き盛りの人の稼ぎの差は、どこまで「生まれつき」で説明できるのでしょうか?
研究の詳細は、米カリフォルニア大学バークレー校らにより、2026年9月8日付で学術誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』に掲載されました。
双子を比べれば「生まれつき」が見える理由

双子には、1つの受精卵から育つ一卵性と、2つの受精卵から育つ二卵性があります。
一卵性は遺伝子がすべて同じで、二卵性はふつうの兄弟姉妹と同じく約半分が共通です。
どちらも同じ家で育つので、一卵性のほうがよく似ていれば、その上乗せ分は遺伝子によるものと考えられます。
これが、双子研究の昔ながらの型(古典的双生児法)です。
ただしこの型は、2種類の双子が家の環境を同じ程度に分け合っている、という前提に立っています。
さらに困るのは、国の記録には、双子が一卵性か二卵性かがほとんど書かれていないことです。
そのため稼ぎについての双子研究は、これまで小さなアンケート調査に頼ることが多くありました。
そこで、米カリフォルニア大学バークレー校のデビッド・カード氏らは、米国勢調査局の研究者と手を組みました。
まず、2000年の国勢調査で、世帯主の実の子として記録された9〜17歳の子どもを探しました。

そのうち、同じ家で誕生日の差が2日以内の2人を双子としました。
次に、その子たちを約20年後の給料の記録につなぎました。
給料の記録は、失業保険の税の支払いから作られたものです。
対象の子どもは1983〜1990年生まれで、使ったのは米国の若い双子の全体をおさめた国の記録です。
稼ぎを見たのは、2018年から2023年はじめまでの期間です。
そのうえで、2人とも安定してフルタイムで働いていた組を選ぶと、4万4500組になりました。
おおよそ、最低賃金でフルタイムで働いたときの稼ぎを超える給料を、合わせて2年分以上受け取っていることが目安です。
こうして、20代後半から30代になった双子の稼ぎを、国の規模で比べる下地が整いました。
記録に無い一卵性の割合を、どう割り出したのか?

手がかりになったのは、双子の男女の組み合わせです。
男の子と女の子の双子は、必ず二卵性です。
二卵性の2人の性別が、コインを2回投げるように別々に決まると仮定すると、同性の組になるのはほぼ半分になります。
研究では、男の子が生まれる割合を50.8%とし、二卵性が同性の組になる確率を50.0%と見積もりました。
ところが、調べた双子では、同性の組が70.8%を占めていました。
半分を超えて多い分は、性別がいつもそろう一卵性がつくっていると考えられます。
こうして、同性の双子の58.7%、およそ5組に3組が一卵性だと割り出されました。

もう1つ、チームが気にかけたのは、家庭が息子と娘を同じようには育てないかもしれない点です。
息子と娘の仕事での成功を同じように後押しする家もあれば、息子をより強く後押しする家もあると考えられます。
そうなると、同性の組が異性の組より似やすくなり、その分まで遺伝のせいに見えてしまいます。
そこでチームは、双子でない兄弟姉妹についても、同性の組と異性の組の「似かたの差」を測りました。
そして、双子で同じように測った差から、その分を引き算しました(差の差と呼ばれる手法)。
家庭が男女を分けて育てる影響を差し引けば、残った分を遺伝の手がかりにできるというわけです。
比べてみると、同性の双子の稼ぎは、双子でない同性の兄弟姉妹よりはっきり強く似ていました。

しかも同性と異性の差は、年の近い兄弟姉妹と比べても、双子のほうがずっと大きかったのです。
この差の差から計算すると、稼ぎの遺伝率は0.36になりました。
遺伝率とは、集団の中の差のうち、受け継いだ遺伝子の違いにたどれる割合のことです。
つまり、安定して働く20代後半〜30代の人たちの稼ぎの差は、3分の1あまりが遺伝の違いで説明できる計算です。

これは集団の中の「差」についての数字で、一人ひとりの給料の36%が遺伝子で決まる、という意味ではありません。
比べる目安として、7か国の双子を調べた別の研究では、身長の遺伝率は0.68〜0.85でした。
今回の研究では、働いているかどうかについても遺伝率は0.23〜0.32で、はっきりした遺伝の影響が見つかりました。
給料の差の少なからぬ部分が、生まれつきの違いと結びついていたのです。
同じ会社で働く双子を外すと、遺伝の見積もりが下がった

チームはさらに、給料を2つの部分に分けて調べました。
1つは、どの会社に移っても付いてくる、本人の稼ぐ力です。
もう1つは、勤め先が社員みんなに上乗せする(あるいは差し引く)分です。
カード氏らは以前、ドイツ西部の働き手を調べていました。
そこでは、賃金格差が広がった理由の多くを、稼ぐ人ほど給料の高い会社に集まる流れなどで説明できました。
ただ、高い会社に入れるのが生まれつきなのか、人のつながりなのか、ただの運なのかは分かっていませんでした。
今回の双子の分析では、本人の稼ぐ力にも、会社の上乗せ分にも、遺伝の影響が見られました。
ところが稼ぎは、身長のような体の特徴と違い、どこで誰と働くかという選択に左右されます。

もし一卵性の双子が、ふつうの兄弟姉妹よりも一緒に働きたがるとしたらどうでしょうか。
同じ会社で働く2人は会社の上乗せ分がまったく同じになるので、その近さが遺伝のように見えてしまいます。
実際に記録を見ると、同性の双子の11.4%、およそ9組に1組が同じ会社で働いていました。
これは、双子でない同性の兄弟姉妹(5.7%)の約2倍です。
異性の双子(3.8%)と比べると、3倍にのぼります。

そこでチームは、同じ会社で働く組を外して計算し直しました。
すると、会社の上乗せ分の遺伝率は0.21から0.07へ下がり、遺伝の影響があるとは言い切れない値になりました。
残った大きさは、「稼ぐ力の高い人を、給料の高い会社が雇う」という流れだけで説明できる範囲でした。
稼ぎ全体の遺伝率も、0.36から0.31に下がりました。
下がり幅はおよそ15%ですが、稼ぎの差のおよそ3割を遺伝で説明できるという結果は残ります。
チームは、双子どうしの関わり合いが、双子研究で測る遺伝の影響を高く見せるおそれがあると指摘しています。
同じ大学を選ぶといった関わり合いもありうるので、学歴などを調べた双子研究にも、同じゆがみがひそむ可能性があります。
こうした関わり合いは同じ会社で働かない双子にもありうるため、チームは、0.31という値でさえ、まだ大きめに出ているかもしれないと見ています。

一人ひとりの遺伝子のデータを直接使う研究なら、このゆがみは避けられるとされます。
遺伝子を直接調べる研究は、双子研究より遺伝率を低く見積もりがちです。チームは、双子どうしの関わり合いがこの食い違いの理由の1つになりうるとも述べています。
一方で、一卵性かどうかは一人ずつ確かめたものではなく、男女の割合からの推定です。
また稼ぎの分析の対象は、自営業や連邦政府の仕事を除いた勤め人で、安定してフルタイムで働く米国の人に限られています。
同じ家で育った双子が大人になっても同じ会社で肩を並べることが、給料の「生まれつき」を少し大きく見せていたのかもしれません。
参考文献
Genes may explain about a third of earnings differences, according to a study of 44,500 U.S. twin pairs (PsyPost)
https://www.psypost.org/genes-may-explain-about-a-third-of-earnings-differences-according-to-a-study-of-44500-u-s-twin-pairs/
元論文
Heritability and social interaction in labor market outcomes: Evidence from the population of twins in the United States
https://doi.org/10.1073/pnas.2620927123
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
