肺炎や心不全で病院に入院すると、患者は担当になった医師のもとで治療を受けます。
そのとき、医師が男性か女性かを気にする人は、あまり多くないかもしれません。
ところがこれまでの研究では、女性医師が担当した患者のほうが、結果が良いという報告が出ていました。
ただし、その多くは手術を受けた患者を対象にしたものでした。
では、手術ではなく、心臓や肺の病気で入院した患者でも、同じことが言えるのでしょうか?
カナダで、約96万人の入院記録を使ってこの疑問を確かめた研究が発表されました。
担当医の性別によって、患者の「30日後」に違いは出ていたのでしょうか?
研究の詳細は、2026年10月30日付で学術誌『JAMA Network Open』に掲載されました。
約96万人の入院記録をさかのぼって比べた

研究チームが使ったのは、カナダ・オンタリオ州の入院患者の記録です。
対象は、2008年から2022年までに入院した大人です。
入院の理由は、よくある急な病気7つに絞られました。
最も多かったのは心臓の血管が詰まる発作(急性心筋梗塞)で、全体の約4分の1を占めました。
ほかに肺炎、脳卒中、心不全、肺の慢性の病気(COPD)、脈が乱れる心房細動、胃や腸からの出血が含まれます。
集まった患者は95万8150人で、年齢の真ん中の値は74歳でした。
治療に当たった医師は1万5165人で、そのうち女性は約36%でした。
研究チームは、担当医の性別を2通りの見方でとらえています。
1つ目は、入院中にいちばん責任を持った医師が、男性か女性かという見方です。
2つ目は、入院した日数のうち、女性医師が受け持った日の割合です。

こちらは「女性医師にどれだけ診てもらったか」の目安になります。
入院中は医師が交代で受け持つため、1人の患者を男女両方の医師が診ることもあるからです。
女性医師が受け持った日の割合の真ん中の値は、女性患者で20%、男性患者で18%でした。
比べた主な結果は、30日以内の死亡と、病院への再入院です。
患者・医師・病院それぞれの違いは、計算の上でそろえてから比べました。
ただし、男女の医師の顔ぶれには違いがありました。
女性医師は男性医師に比べて若く、1年に受け持つ患者の数も少なめでした。
オンタリオ州で働いてきた年数の真ん中の値は、女性が7年、男性が13年です。
さらに女性医師は、より高齢の患者や、体が弱った状態(フレイル)の患者を多く診ていました。
一方、患者の男女の割合や持病の多さは、男女の医師でほぼ同じでした。
死亡と再入院、女性医師の患者で大きな差が出たのはどちら?

経験年数が短く、より高齢の患者を多く受け持っていた女性医師ですが、その患者たちの30日後はどうだったのでしょうか。
女性医師が主な担当になった患者は、全体の約27%でした。
条件をそろえて計算すると、30日以内の死亡の割合は、女性医師の患者で12.3%でした。
男性医師の患者では13.7%で、女性医師の患者のほうが低かったのです。
死亡の起こりやすさの目安(オッズ比)で見ると、女性医師の患者は男性医師の患者より約12%低くなっていました。
この差は、90日後や1年後の死亡で見ても、同じように表れていました。
医師を育てる教育病院と地域の病院に分けても、死亡については同じような差がありました。
医師の専門分野ごとに分けても、女性医師の患者のほうが死亡が少ない傾向は変わりませんでした。

一方、再入院の差はごくわずかでした。
条件をそろえた再入院の割合は、女性医師の患者で18.6%、男性医師の患者で18.9%で、その差は0.3ポイント(パーセントの差)と小さなものでした。
女性医師のほうがわずかに低い傾向はあるものの、死亡ほどの開きはありません。
次に研究チームは、「女性医師が受け持った日数の割合」という、もう1つの見方で確かめました。
すると、その割合が高い患者ほど、30日以内の死亡が少ないという関係が見えてきました。
割合が10%増えるごとに、死亡の起こりやすさの目安は約7%ずつ下がっていたのです。
10日間の入院でいえば、女性医師に診てもらう日が1日増えるごとに、ということになります。
再入院も、この見方ではわずかに少なくなる関係がありました。
担当医の性別で分けても、診てもらった日数の割合で見ても、結果は同じ向きを示したことになります。
患者の性別と病気で分けると見えた違い

では、この差は、患者が女性でも男性でも同じように見られたのでしょうか。
研究チームは、患者の性別ごとに、女性医師と男性医師の差を比べています。
女性患者では、女性医師が担当すると、30日以内の死亡の割合が約1.3ポイント(パーセントの差)低くなっていました。
男性患者でも約0.8ポイント低く、差は女性患者のほうが大きめでした。
組み合わせ別に見ると、30日以内の死亡の割合は「女性患者と女性医師」が11.3%で最も低くなりました。
男性患者に限っても、女性医師では13.4%、男性医師では14.6%と、女性医師のほうが低めでした。
90日後や1年後にも、数値の上では同じ傾向が続いていました。
ただし、組み合わせによる違いは、その時点では統計的にはっきりしたものではありませんでした。

再入院を見ると、女性患者は女性医師に診てもらうと、30日以内に再入院する人が少なくなっていました。
一方、男性患者では、どの時点でもはっきりした差は見られませんでした。
病気の種類ごとに分けると、7つのうち6つの病気で、女性医師の患者のほうが死亡が少なくなっていました。
ただし、例外が1つだけありました。
脈が乱れる心房細動で入院した患者では、どちらの見方でも、医師の性別との関係が見られなかったのです。
心房細動の患者は約8万人で、全体の8%ほどでした。
また、この研究は過去の記録をさかのぼって分析したものです。
示されたのは、女性医師が担当した患者で死亡が少なかったという「つながり」です。
女性医師が担当したことが原因で死亡が減った、とまでは言い切れません。
研究チームも、この差がどんな仕組みで生まれるのかは、さらに調べる必要があるとしています。

その手がかりとして挙げているのが、男女の医師の診療のやり方に違いがあるかどうかです。
これまでの研究からは、女性医師のほうが患者と話し合って治療を決めることが多い、患者と過ごす時間が長い、診療の指針に沿った治療を選びやすい、同僚に相談しやすい、といった可能性が示されています。
ただし、今回使った記録では、こうした診療のやり方までは調べられていません。
経験年数は男性医師の半分ほどでも、女性医師が担当した患者のほうが、30日後に命をつないでいた人が多かったのです。
写真で見る病棟と診察の様子


参考文献
Physician Sex and Outcomes Among Hospitalized Patients (JAMA Network Open)
https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2026.41487
元論文
Physician Sex and Outcomes Among Hospitalized Patients
https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2026.41487
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
