ボノボは、チンパンジーと並んで、私たち人間に最も近い現生の親戚です。
狩りと肉食は、人の進化を押し進めた大きな要因の一つと広く考えられています。
そのため、狩りの始まりを探る研究者は、ボノボとチンパンジーの行動をよく手がかりにしてきました。
人の社会では狩りは男性の仕事と見なされがちで、チンパンジーでも獲物を追うのは主にオスです。
では、メスの力が強いことで知られるボノボの群れでは、誰が獲物を捕っているのでしょうか?
コンゴ民主共和国の森で、野生のボノボの狩りを10年にわたって記録した研究から、その答えが見えてきました。
研究の詳細は、独マックス・プランク動物行動研究所らにより、2026年10月1日付で学術誌『Current Biology』に掲載されました。
「狩りをあまりしない」と見られてきたボノボ

類人猿の中で名高い狩人といえば、ボノボに最も近いチンパンジーです。
チンパンジーのオスたちは息を合わせて木の上の大きなサルを襲い、捕った獲物をオスどうしで分け合います。
一方のボノボは、狩りをあまりしない類人猿として知られてきました。
狩るとしても、地上にいる蹄(ひづめ)のある動物を、主にメスが単独でたまたま捕る程度だと考えられてきたのです。
ただ、ボノボのメスが獲物捕りにどこまでかかわっているのかは、はっきりしていませんでした。
森の見通しが悪いうえ、群れは広く散らばり、狩りの動きも速いため、誰が捕ったのかを見届けにくいからです。
研究チームが注目したのは、ボノボではメスがオスと並んで優位に立つという、類人猿の中で珍しい社会のしくみです。
獲物が捕れた後に肉を持っているのはメスで、誰がいつ食べるかもメスが決めます。

シニア著者のバーバラ・フルート氏によると、チンパンジーでは獲物を手元に残せるかどうかが順位と結びついています。
だからこそ、チンパンジーの狩りはオスの仕事になっているというのです。
それなら、メスの地位が高いボノボの社会では、狩りの男女差は小さくなるのではないか、とチームは考えました。
調べたのは、コンゴ民主共和国のルイコタレという調査地にすむ、人の観察に慣れた2つの群れです。
チームは2014年2月から2023年8月まで、「西の群れ」と「東の群れ」の狩りを記録し続けました。
観察した日数は2つの群れで合わせて約4,000日にのぼり、獲物の捕獲に成功した狩りが415回記録されました。
その中から、獲物を捕った個体を見分けられた回を選び、狩り手の性別と年齢、獲物の種類を調べたのです。
捕る瞬間が茂みなどで見えなかった時は、直後に獲物を持っていた個体を狩り手としました。
反撃してくる木の上のサル、捕っていたのはオスかメスか?

まず獲物を見ると、木の上で暮らすサルの仲間が43%、地上の蹄のある動物が42%と、ほぼ同じ割合でした。
地上の獲物は、ほとんどが森にすむレイヨウの仲間であるダイカーです。
残りの15%は、鳥やネズミの仲間などの小さな動物でした。
この森にすむ昼に活動するサルは8種いますが、そのうち6種が狩られていました。
中でも多かったのがアカコロブスというサルで、137匹とサルの獲物の77%を占めました。
ボノボは地上の動物だけでなく、チンパンジーのように木の上のサルも盛んに狩っていたのです。
しかも、サルやダイカーを捕った351回の狩りでは、例外なく、その後に仲間どうしで肉の分け合いが起きていました。

アカコロブスの肉を分け合うメスのボノボの実際の写真はこちら(Phys.org) 画像1
では、その獲物を捕っていたのは誰だったのでしょうか。
狩り手を見分けられた158回のうち、99回はメスが獲物を捕っていました。
割合にすると6割を超え、オスは4割に届きませんでした。
分析を率いたマティア・ベッソーネ氏によると、狩りを始めていたのはメスたち自身でした。
メスはオスが捕った獲物をすきを見て横取りしていたわけではない、とベッソーネ氏は話しています。
2つの群れを合わせて見ると、メスはオスのおよそ3倍の頻度でダイカーを捕っていました。

一方、木の上のサルは、メスもオスもほぼ同じくらい捕っていました。
反撃してくる木の上のサルは、獲物の中で最も危険な相手です。
その危ない狩りでも、メスはオスに引けを取らなかったことになります。
さらにメスの間では、年齢によって狙う獲物が分かれていました。
若いメスほど木の上のサルを、年長のメスほど地上のダイカーを捕る傾向があったのです。
西の群れでは、サルを捕ったメスの平均年齢が約20歳で、ダイカーを捕ったメスの約28歳より若くなっていました。
東の群れでも同じ向きの違いはありましたが、偶然の範囲を超えるほどの差ではありませんでした。
筆頭著者のゴットフリート・ホーマン氏は、若いメスの狩りぶりをこう表現します。
「若いメスは木々のてっぺんを駆け抜けて、反撃してくるサルを追いかけます」
「これは本当に危険な仕事なのです」
また、子どもを連れているかどうかは、メスの狩りにあまり影響していませんでした。

母親は子を守るために狩りを控える、という見方は、今回のデータでははっきりとは裏付けられませんでした。
狩り手が分かった範囲で見ると、ボノボの狩りの主な担い手はオスではなくメスだったのです。
ダイカー狩りの男女差と、群れごとの違い

サルの狩りに男女の差がほとんど無かったことから、メスは危ない狩りを避けるという考えは支持されませんでした。
むしろ不思議なのは、オスがダイカーをあまり捕らないことです。
地上のダイカーは、反撃してくるサルに比べて危険の少ない獲物と考えられているからです。
手がかりは、捕まった後のダイカーの様子にあります。
サルはふつう捕まるとすぐに死にますが、ダイカーはしばらく生き続けます。
その間に上がる悲鳴が、近くの仲間だけでなく、離れた所にいるボノボまで呼び寄せてしまうのです。

集まった仲間の間で肉の取り合いが激しくなり、オスが捕った獲物をメスが取り上げる見込みも高まります。
研究チームは、オスがダイカーをあまり捕らないのは、捕った後に肉を守り切るのが難しいからかもしれないとみています。
ホーマン氏も「獲物を捕まえることと、その体を手元に置き続けることは別の話です」と話します。
そのうえで、オスは肉をめぐるメスとのもめごとを避けるために、大きな獲物を狙わないのかもしれないと述べています。
年長のメスがダイカーを多く捕ることも、メスどうしの順位の差で説明できるかもしれません。
この調査地などの観察では、若いメスほど順位が低い傾向があるとされているからです。
一方で、若いメスがサルを多く狩る理由は、まだはっきりしていません。
もう一つ浮かび上がったのが、隣り合う2つの群れで狩りの中身が大きく違っていたことです。
西の群れでは狩りの半分あまりがダイカーで、サルは4分の1ほどでした。

東の群れはその逆で、サルをダイカーの4倍以上の頻度で狩っていました。
狩り手の性別にも違いがあり、西の群れではどの獲物でもメスの方が多く捕っていました。
一方の東の群れでは、サルに限ると、メスが捕った数はオスよりやや少なくなっていました。
ホーマン氏は、ボノボの群れはそれぞれ独自の「狩りの文化」を育てていると言います。
チームは、群れの社会のあり方や周りの環境が、群れごとに違う形で獲物選びに影響しているとみています。
サルの群れの大きさや、獲物と出会う頻度の違いが関わっている可能性もあります。
ただし、狩り手を見分けられたのは415回のうち158回で、数は多くありません。

そのため、性別より個体ごとの腕前が狩りを左右している可能性は、まだ確かめられていません。
それでも今回の結果は、チンパンジーのようなオス中心の狩りこそが祖先の姿だという前提に、疑問を投げかけるものです。
論文は、ボノボのように男女差がそれほど大きくない狩りこそが祖先の姿で、オスに偏った狩りは後から生まれたのかもしれない、と述べています。
一方で、ボノボの狩りの形は、メスの地位が高まるのに合わせて後から生まれた特徴かもしれない、という見方も挙げています。
フルート氏は「ボノボは人類の過去をのぞく窓です」と話します。
そして「このメスたちのおかげで、狩猟採集をしていた祖先の姿を考え直すことができます」と続けます。
コンゴの森では、木々のてっぺんでサルを追う若いメスと、地上でダイカーを捕る年長のメスが、群れの食卓に肉を運んでいたのです。
写真で見る狩り手と獲物の仲間たち






参考文献
Bonobo females hunt more than males, decade-long study reveals (Phys.org)
https://phys.org/news/2026-10-bonobo-females-males-decade-reveals.html
元論文
Females shape hunting of vertebrates in wild bonobos
https://doi.org/10.1016/j.cub.2026.09.082
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
