健康診断の結果を受け取ると、まず体重とBMIの欄を探して、一喜一憂してしまいます。
体重と身長から出すBMI(体格指数)は、太りすぎかどうかを見るおなじみの物差しです。
ところが中国の研究チームは、BMIとは別の「2つの体の測り方」に注目しました。
お腹の厚み(直径)と、体の大きさの割にどれくらい強く握れるかです。
アメリカの大人5,674人を約7年追いかけると、お腹が厚く、しかも体格の割に握力が弱い人たちは、どちらにも当てはまらない人たちより、死亡のリスクが約2倍でした。
ただしこれは「結びつき」を見た結果で、お腹や握力が死の原因だと決まったわけではありません。
体重計では分からないこの差は、どこから見えてきたのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年8月14日に『Archives of Gerontology and Geriatrics』にて発表されました。
目次
- お腹の厚みと握力、2つそろうと死亡リスクが約2倍
- どうやって比べた? 約7年で見えた4つのグループの差
- なぜこの2つ? 体の中の「目印」も手がかりに
- 私たちに何が関係する? 1つの数字では決まらない
お腹の厚みと握力、2つそろうと死亡リスクが約2倍

病院や健診で太りすぎかどうかを見るとき、いまいちばんよく使われるのがBMIです。
でも最近は、この数字1つで死亡のリスクをどこまで言い当てられるのか、疑問も出てきています。
そこで研究チームが目をつけたのが、「ダイナペニック肥満」と呼ばれる状態です。
これは、体の脂肪が多いことと、握力が弱いことが同時に起きている状態を指します。
チームはこの状態を、お腹の厚みと、体格の割に見た握力(相対握力)の2つで見分けました。
そのうえで、アメリカの大人5,674人を、真ん中の値で6.75年、つまり約7年追いかけました。
すると、お腹が厚くて相対握力も弱い人たちは、どちらにも当てはまらない人たちに比べて、死亡のリスクが1.97倍でした。
体格の割に握力が弱いだけの人たちも、リスクは1.60倍と高めでした。
一方で、お腹が厚いだけの人たちでは、死亡とのはっきりした結びつきは見られませんでした。
お腹の厚さも握力も、診察の場で安全に手軽に測れるものです。
体重計の数字だけでは見えない差が、身近な測定で見えてくるかもしれないのです。
ただし、対象はアメリカの大人で、分かったのはあくまで「結びつき」です。
お腹の厚みや弱い握力そのものが寿命を縮めている、とまで示されたわけではありません。
この測り方を病院の定番の検査にするには、まだ証拠を積み重ねる必要があります。
それにしても研究チームは、この2つの測定からどうやって約2倍という差を確かめたのでしょうか。
どうやって比べた? 約7年で見えた4つのグループの差

まず、研究チームがしたことを順番に追ってみます。
対象は、アメリカに住む大人5,674人です。
チームは一人ひとりについて、お腹の厚みと体格の割の握力を調べました。
お腹の厚みは、英語でサジタル腹部径(SAD)と呼ばれる、お腹の直径の測定値です。
実はこの研究では、お腹の脂肪そのものを直接測ってはいません。
お腹の直径から、脂肪の多さを見積もっています。
握力のほうも、ただの握る力の強さではありません。
これまでの研究では、握力の数字そのものと死亡の関係が調べられてきました。
今回は、その人の体の大きさに対して、どれくらい強く握れるかを見ています。
この相対握力を出すには、計算にBMIも使います。
つまりBMIを捨てたのではなく、握力の物差しを整えるために使っているわけです。
この2つの測定から、参加者は4つのグループに分けられました。
どちらも問題がない「普通」、お腹が厚いだけの「腹部肥満」、体格の割に握力が弱いだけの「ダイナペニア」、そして両方がそろった「ダイナペニック肥満」です。
ダイナペニアは、筋力が弱っている状態を指す言葉です。
追いかけている間に、373人が亡くなりました。
チームは、どのグループで亡くなる人が多かったかを、年齢を時間の物差しにする統計の方法で比べました。
年齢や経済的な事情、生活習慣、ほかの病気の影響を差し引いても、結びつきは残っていました。
結果は「ハザード比」という数字で表され、ざっくり言えば、普通のグループに比べて何倍亡くなりやすかったかを示します。
ダイナペニック肥満は1.97倍で、4つのうちいちばん高くなりました。
この数字には見積もりの幅があり、1.41倍から2.75倍の間とされています。
ダイナペニアは1.60倍、腹部肥満では統計的にはっきりした差が出ませんでした。
分析の条件を変えて何通りか計算し直しても、結果は崩れませんでした。
著者たちは、過去の研究とそのまま比べるのは難しいとしつつも、今回の結びつきは、BMIやウエスト周り、握力の数字そのものを使った研究をまとめた値より「いくらか強い」と述べています。
たとえば、ウエスト周りでダイナペニック肥満を決めた以前のまとめの研究では、死亡のリスクは73%高いという結果でした。
では、研究チームはなぜこの2つの組み合わせに目をつけたのでしょうか。
なぜこの2つ? 体の中の「目印」も手がかりに

チームがまず気にしたのは、これまでの決め方です。
ダイナペニック肥満は、BMIやウエスト周り、握力の数字そのもので決められてきました。
しかしそれでは、脂肪の多さや筋力の弱さを取り違えてしまうおそれがある、とチームは考えました。
お腹の厚みについては、内臓のまわりの脂肪(内臓脂肪)の多さを、よりよく映している可能性があるとしています。
体格の割の握力についても、体の大きい人に隠れた弱さを、より見つけやすい可能性があるとしています。
同じ握力の数字でも、小柄な人と大柄な人とでは、体の重さに対する力の余裕が違います。
体格の割で見れば、数字の上では強そうでも実は弱い人を拾えるかもしれない、というわけです。
チームはもう一歩踏みこんで、この結びつきの裏に何があるのかも探りました。
使ったのは、体の状態を示す2つの目印の値(バイオマーカー)です。
1つは「全身性免疫炎症指数(SII)」です。血液中の細胞の数から計算する値で、名前のとおり体の免疫や炎症に関わる指標です。
もう1つは「HbA1c」という値で、ここ1〜2か月の血糖(血液中の糖)の平均的な高さを映す、糖尿病の検査でおなじみの指標です。
チームは、ダイナペニック肥満と死亡の結びつきを100としたとき、そのうちどれくらいをこれらの値で統計の上で説明できるかを見積もりました。
結果は、SIIで5.8%、HbA1cで13.7%でした。この割合は大きいほど、結びつきのうちその値で説明できる部分が多いことを示します。良い・悪いを表す数字ではありません。
裏を返せば、結びつきの大部分は、この2つの値では説明しきれていません。
しかもこれは「探索的」な分析、つまり手がかりを探す段階のものです。
これらの値のせいで亡くなりやすくなる、と確かめたわけではありません。
チームは、グループ分けとこれらの値の高さを組み合わせた分析もしています。
ダイナペニック肥満でSIIも高い人ではハザード比が3.11、HbA1cも高い人では2.53と、死亡のリスクはより高くなっていました。ハザード比は、1より大きいほど亡くなりやすかったことを表します。
このことからチームは、SIIとHbA1cが、ダイナペニック肥満の人の死亡リスクを見分ける助けになるかもしれないとまとめています。
では、この結果は私たちの暮らしにどう関係するのでしょうか。
私たちに何が関係する? 1つの数字では決まらない

まず押さえておきたいのは、この研究が示したのは「結びつき」だという点です。
お腹を細くしたり握力を鍛えたりすれば寿命が延びる、とまでは今回の結果から言えません。
対象はアメリカの大人なので、ほかの国の人に同じように当てはまるかも、この研究だけでは分かりません。
それでも、お腹の厚みも握力も、診察の場で安全に手軽に測れます。
体重計に乗るだけでは見えない体の状態に、気づくきっかけになるかもしれません。
この研究とは別の研究者も、BMIだけに頼らないよう呼びかけています。
ロードアイランド大学で体の動きを研究するブライアン・ブリスマー氏は、「BMIは今でも役に立つが、ウエスト周りや体重の変化、筋力、体の動き、全体の健康と合わせて読むべきだ」と話しています。
ブリスマー氏らの最近の研究では、BMIで「太りぎみ」とされた人のほうが、男女どちらでも死亡のリスクが低いという結果も出ています。
氏はさらに、年を重ねた人は体重だけでなく、筋肉や動ける力、よい栄養を保つことにも目を向けるべきだとしています。
理由の分からない体重の減少を、いいことだと決めつけてはいけないとも述べています。
どれか1つの数字だけで、その人の将来の健康を言い当てることはできません。
いくつもの測定を組み合わせたほうが、体の本当の姿に近づけるのかもしれません。
これからは、固いジャムのふたを家族に渡す前に、一度は自分で本気を出してみる人が増えそうです。
参考文献
Two Body Measurements Linked to Nearly Double The Risk of Death – And Neither One Is BMI (ScienceAlert)
https://www.sciencealert.com/two-body-measurements-linked-to-nearly-double-the-risk-of-death-neither-one-is-bmi
元論文
Association of dynapenic obesity defined by sagittal abdominal diameter and relative grip strength with all-cause mortality: a prospective cohort study
https://doi.org/10.1016/j.archger.2026.106376
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
