並んで歩くとき、肩が触れる近さをちょうどいいと思うか、少し近いと思うか。人によって違います。
研究チームが、恋人がいる1832人に、触れ合いをどのくらい心地よく感じるかをたずねました。
自分はどうか。そして、相手はどう感じていると思うか。
すると、二人のあいだにずれがあると感じている人ほど、関係の満足度が低い、という関連が見えました。
ここで測られたのは、本当のずれではありません。
本人が「ずれている」と思っているかどうかです。
しかも、その差がいちばん響いていたのは、人前にいるときでした。
研究内容の詳細は2025年11月7日に『Personal Relationships』にて発表されました
目次
- 「ずれている」と思うだけで、満足度は下がっていた
- 人前より、二人だけの場のほうが効いていた
「ずれている」と思うだけで、満足度は下がっていた

触れ合いが心と体にいいことは、前から知られています。
手をつなぐ、抱きしめる、キスをする。
こうした行いはストレスを下げ、免疫のはたらきを支え、安心感を育てると言われてきました。
逆に、ほしいだけの触れ合いが得られないと、関係への不満や、相手との距離を感じることにつながります。
調べたのは、その触れ合いへの心地よさが二人でずれていたらどうなるか、でした。
研究チームは、恋人がいる1832人にオンラインで答えてもらいました。
たずねたのは、自分は触れ合いをどのくらい心地よく感じるかです。
あわせて、相手はどのくらい心地よく感じていると思うかも答えてもらいました。
この2つを、家などの二人だけの場と、人前の2つの場面について聞いています。
人前には、家の中にはない気づまりがあります。
家族や友人、知らない人の目がある場所では、二人きりのときと同じように振る舞えるとはかぎりません。
そこから、二人の心地よさの平均と、自分と相手の差を出しました。
比べた相手は、関係の質をたずねた回答です。
信頼、親しさ、情熱、そして全体の満足。これらをまとめた物差し。
まず、平均が高いほど関係の良さも高い、という関連がはっきり出ました。
二人だけの場でも人前でも、向きは同じです。
そして差のほうは、大きいほど関係の良さが低いという、逆向きの関連になりました。
自分は触れ合いが好きなのに、相手はそうでもないと思っている。
そう感じている人ほど、満足度が低い傾向があったのです。

ここで一度、立ち止まってください。
測ったのは「実際にずれているか」ではなく、「ずれていると思っているか」です。
相手の心地よさは、本人の答えではなく、こちらの推測でした。
つまりこの段階では、二人の答え合わせはまだ行われていません。
では、なぜそのずれは、人前でとくに響いたのでしょうか。
人前より、二人だけの場のほうが効いていた

場面による違いが、はっきり出ました。
関係の良さとより強く結びついていたのは、人前ではなく、二人だけの場での心地よさのほうでした。
研究チームはこう考えています。
人前で手をつながなくても、二人きりのときに埋め合わせができていれば、関係はそれなりにうまくいく。
人前での気まずさは、その人の礼儀の感覚や、その土地の習慣のせいだと受け取れるからです。
部活の試合と練習を思い出してください。
人が見ている試合でうまく噛み合っているかより、誰も見ていない練習でどう動けているか。
チームの地力が出るのは、そちらのほうです。
一方で、平均の心地よさを考えに入れたうえで差だけを見ると、その負の関連は人前でとくに目立ちました。
同性のカップルと異性のカップルも比べています。
全体の傾向は、どちらもおおむね同じでした。
ただし同性の関係にある人は、人前での心地よさが平均して低く、相手との差も大きいと感じていました。
研究チームは、今も残る偏見と、安全への心配が背景にあると見ています。
もうひとつ、二人だけの場の心地よさが低いときでも、同性の関係にある人は関係の良さをやや保てていました。
人前での触れ合いを控えることが多いぶん、体に頼らない伝え方を育てているのかもしれない。
研究チームはそう考えていますが、確かめられた話ではありません。
研究チームは続けて、86組のカップルについて、二人の回答を突き合わせました。
推測ではなく、実際の一致とずれを見るため。
この分析でも、二人だけの場で実際の平均の心地よさが高いほど、関係の良さも高いという結果でした。
二人きりのときに合っているかどうかは、やはり強い目印でした。

とはいえ、実際のずれのほうを見た分析や、平均の心地よさを差し引いた分析では、結果は一貫しませんでした。
今回の調査は一時点の自己申告です。
触れ合いが満足度を生むのか、満足しているから触れ合うのかは、分けられません。
ずれを減らせば関係が良くなるのかも、確かめられていません。
相手の気持ちを自分がどう見積もっているか。そこが効いているという見方は、確かめ方のある問いを残します。
手をつなぐかどうかで悩む前に、相手が実際どう思っているかを一度聞いてみる。ずれの多くは、そこで消えるのかもしれません。
参考文献
Feeling in sync about physical affection is linked to better relationships (PsyPost)
https://www.psypost.org/
Touch as an Interpersonal Emotion Regulation Process in Couples’ Daily Lives
https://doi.org/10.1177/0146167213497592
元論文
In Sync? Assessing Partners’ Similarities in Comfort With Physical Affection–Sharing as a Predictor of Relationship Well‐Being
https://doi.org/10.1111/pere.70041
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、絵や図を1枚はさむ。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
