「今度おごるから」の今度は、たいてい来ない。
創造性は、ふつう良いものとして語られます。芸術や科学や発明を生む力だからです。
ただ心理学には、独創的な考えをわざと他人を傷つけるために使う「悪意ある創造性」という言葉があります。
テキサス州立大学の研究チームは、自己愛が強い大学生ほど、不当な扱いへの仕返しとして独創的で有害な案を多く出したと報告しました。
対象は大学生248人で、82%が女性、平均は20歳。オンラインの調査と課題に答えました。
測ったのは仮想の場面で思いついた案であって、実際の行動ではありません。
過去に悪意ある創造性を発揮したことがある人も、同じように独創的で有害な案を出しました。
ただし、年齢や性別、問題解決への自信、腹立ちの程度も入れたモデル全体で説明できたのは、有害で独創的な案の数の違いの9%ほどです。
どんな課題で、仕返しの案を出してもらったのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年8月1日に『Journal of Intelligence』にて発表されました
目次
- 「手伝ったのに払わない隣人」に、どう仕返しするか
- 案の「数」は自信と、案の「質」は自己愛と過去の行動と関係
「手伝ったのに払わない隣人」に、どう仕返しするか

「あとで払う」の「あとで」は、来ないことがある。
場面は、こうです。
隣人に部屋の改装を手伝ってほしいと頼まれ、お礼を払うと約束される。
手伝いを終えると、隣人はそんな約束はしていないと言い、払わない。
参加者は、この隣人に仕返しする独創的な案を、できるだけ多く書き出しました。
その前に、日常の問題を解く力を自分でどう見ているかを5段階で答えました。
過去にうそをでっち上げた、仕返しを考えた、いたずらをした、といった頻度も答えています。
性格検査で測ったのは、自己愛・サイコパシー・マキャベリズムの3つ。
自己愛は誇大な自己像と称賛への強い欲求、サイコパシーは共感の乏しさと衝動性、マキャベリズムは策略と操作の傾向を指します。
出した案は、2人の評価者が別々に採点しました。
数えたのは、案の総数、少しでも有害と評価された案の数、そして有害でかつ独創性が高い案の数です。
隣人をただ殴る、は有害ですが、あまり独創的ではありません。
庭に侵入性の植物(勝手に広がる植物)の種をまく、は独創的で長期戦を見据えている、と研究チームのナタリー・セバロス氏は例を挙げています。
では、どの性格が、どの指標と結び付いたのでしょうか。
案の「数」は自信と、案の「質」は自己愛と過去の行動と関係

案の数を予測したのは、日常の問題を解く力への自信でした。
自分は問題解決が得意だと思う人ほど、独創的かどうか、有害かどうかに関わらず、多くの案を出しました。
案の質には、性格と過去の行動のほうが大きく関わっていました。
自己愛が強い人と、過去に仕返しやいたずらをよくしていた人は、より有害で、より独自性のある案を出していました。
過去の行動の影響は、問題解決への自信や自己愛を考慮しても残りました。
場面に腹が立った人ほど暗い案を出しやすい関係はありましたが、過去の行動と性格を一緒に見ると、腹立ちの強さだけでは案の数や質を説明できませんでした。
サイコパシーとマキャベリズムも同じで、最終的な解析では、それだけで案の数や質を説明する力は残りませんでした。
セバロス氏は、創造的な人がいつその力を悪用するのかを理解する上で、どの要因が重要かを見極めたかった、と話しています。
悪意ある創造性を、実際に案を出させて測る試みは、以前からあります。
グラーツ大学の研究チームは以前に、日常の挑発的な場面への反応として案を出させる課題を作り、学生105人で試しています。
悪意ある創造性の成績は、ふつうの発想の多さや、日ごろの悪意ある行動の自己申告と正の相関がありました。
敵対的な性格や、実験前の怒りの強さとも相関しています。
発想力、敵対的な性格、その時の怒りは、それぞれ別の形で寄与していたと報告しています。
認知、感情、性格の要因が別々に働く可能性を示した段階だ、としています。
仕返しの案は、数と質で出どころが違う。そんな見方が加わりました。
手伝ったお礼が来ないときに浮かぶ案の数は、自信の証と思っておきましょう。
参考文献
People with narcissistic traits generate more original and malicious ideas for revenge, study finds (PsyPost)
https://www.psypost.org/people-with-narcissistic-traits-generate-more-original-and-malicious-ideas-for-revenge-study-finds/
Creative, Antagonistic, and Angry? Exploring the Roots of Malevolent Creativity with a Real‐World Idea Generation Task (The Journal of Creative Behavior)
https://doi.org/10.1002/jocb.484
元論文
Self-Reports of Past Malevolent Behavior and Narcissism as Predictors of Malevolent Creativity on a Real-World Ideation Task
https://doi.org/10.3390/jintelligence14080176
ライター
天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。
編集者
ナゾロジー 編集部
