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電子機器の廃熱も冷却源に、「熱で冷やす」装置を開発


夜、長い動画の書き出しを終えたノートパソコンの底に手を当てると、じんわり熱くなっています。


この熱は捨てるしかないもので、冷やす道具の側に回ることはないように思えます。


ドイツのカールスルーエ工科大学と筑波大学の研究チームは、2枚の薄い形状記憶合金の膜を組み合わせ、冷媒を引っ張る力を電気でなく熱でまかなう試作機を作りました。


片方の膜は熱を受けると縮んで、もう片方を引っ張ります。引っ張られた側の膜が冷たさを作る役目です。


将来は、パソコンなどの電子機器が出す廃熱を、自分を冷やす動力に回せる可能性があります。


熱で動いた膜がどれほどの温度差を生んだのかは、研究チームが2通りの熱源で確かめています。


研究内容の詳細は2026年8月28日に『Nature Energy』にて発表されました




目次



  • 引っ張ると熱を出し、緩めると冷える「形状記憶合金」
  • 膜が膜を引っ張る、電気を使わない「引っ張り役」

引っ張ると熱を出し、緩めると冷える「形状記憶合金」


引っ張ると熱を出し、緩めると冷える「形状記憶合金」
引っ張ると熱を出し、緩めると冷える「形状記憶合金」 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

冷蔵庫やエアコンは、気体の冷媒を圧縮機で押し縮めて熱くし、その熱を外へ捨ててから膨らませて冷やす、という往復で動いています。


気体の代わりに固体を冷媒にする方法もあり、外から刺激を与えると温度が変わる材料を使います。


今回の主役は、力を加えると温度が変わる「形状記憶合金」です。ニッケルとチタンを主成分とするこの合金は、引っ張ると熱を出し、緩めると冷えます。


熱が出るのは、引っ張られた拍子に内部の結晶の並びが切り替わるからです。その熱を外へ逃がしてから力を緩めると結晶は元の並びに戻り、今度は周りから熱を吸って合金が冷えます。


この往復を続ければ、合金が気体の冷媒の代わりになります。


従来の試作機で引っかかっていたのは、合金を何度も引っ張る大きな力の出どころです。そこは電気で動くモーターや油圧に頼っていて、冷媒を固体に変えても装置を動かすのは電気のままでした。


研究チームが試したのは、その引っ張り役を電気でなく熱にやらせる方法でした。


膜が膜を引っ張る、電気を使わない「引っ張り役」


膜が膜を引っ張る、電気を使わない「引っ張り役」
膜が膜を引っ張る、電気を使わない「引っ張り役」 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

研究チームは、引っ張り役にも形状記憶合金の膜を使いました。


試作機の膜は2枚で、駆動役はチタンとニッケルの合金で厚さ22マイクロメートル、冷媒役はそこに鉄を加えた合金で厚さ26.5マイクロメートルです。


駆動役の膜は温めると縮んで大きな力を出し、冷えると緩みます。結合された冷媒役の膜は、引っ張られて熱を放熱板へ逃がし、駆動役が緩むと熱を吸って冷えます。


駆動役をもう一度温めれば、次のサイクルが始まります。2枚の膜は、力は伝え合うけれど熱は伝わりにくいように結合されています。


冷媒役の膜だけを引っ張って調べると、周りと熱をやり取りしない条件で膜の温度は19.4度変わりました。これは膜1枚の温度変化で、装置の両側にできる温度差とは別の量です。


最初の実験では駆動役の膜を電流で温め、膜の温度を平均で最高86℃まで上げると装置は動きました。


装置全体の温度差は、20回の往復のあとで4.0度に落ち着きました。膜そのものに付いた差は12.9度で、測る対象で数字が変わります。


次の実験では電流をやめ、130℃に保った固体の熱源を駆動役に押し当てて動かしました。それでも装置は止まらず、装置全体で2.2度の温度差を保ちました。


冷却能力は2.09ミリワットでした。冷媒を引っ張る力を熱から取り出し、冷却のサイクルを回せることを、実験で確かめたことになります。


ただし、外部の熱で動かしたときの冷やす力はミリワット級で、今のパソコンの冷却が処理している熱に比べるとはるかに小さい数字です。


放熱板などを前後に動かす部分には電気で動く装置が残っていて、装置全体が電気いらずになったわけでもありません。


カールスルーエ工科大学も、今回の装置は仕組みが働くかを確かめる段階のものだとしています。


それでも、電動の装置が担っていた「引っ張る力」を熱から取り出せたことは、廃熱や太陽熱で動き、電気の消費を抑えた冷却への一歩です。次の課題は、ミリワット級の冷やす力をどこまで引き上げられるかです。


全ての画像を見る

参考文献

Solid-state cooler uses heat to make things cold
https://newatlas.com/energy/solid-state-cooler-heat-cold/

元論文

Heat-driven elastocaloric cooling with shape memory films
https://doi.org/10.1038/s41560-026-02122-6

ライター

天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。

編集者

ナゾロジー 編集部

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