中国の鄭州大学(ZZU)と日本の北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)などで行われた研究によって、ダイヤモンドをナノメートルサイズまで小さくしていくと、約30%も柔らかくなることが判明しました。
また小さなダイヤを押しつぶしていくと、約15%縮めたところで永久変形が始まるものの、割れることはなく、その手前の範囲では圧を抜けば元に戻ることも示されています。
さらに研究では柔らかさの変化の原因が表面ではなかったことも示されています。
いったいなぜ、世界一硬いはずのダイヤモンドが、小さくなると柔らかくなるのでしょうか?
研究内容の詳細は2026年4月10日に『Physical Review X』にて発表されました。
目次
- 「硬い」には3つの顔がある──ダイヤモンドの意外な弱点
- 小さなダイヤは予想以上に大きな弾力を持つと判明
- ダイヤが柔らかくなったのは表面のせいではなかった
- なぜダイヤの表面は硬く、内側が柔らかくなったのか──原子たちの”手の配り直し”
- ナノダイヤは”天然の日本刀”だった──書き換えられる常識
「硬い」には3つの顔がある──ダイヤモンドの意外な弱点

ダイヤモンドの意外な弱点本題に入る前に、少しだけ「硬さ」という言葉について整理させてください。
実は、「硬い」という日常の言葉には、物理学の世界では3つの異なる顔が隠れています。
この区別を知らないと、今回の研究の驚きが半減してしまうのです。
1つ目は「表面にキズがつきにくいか?」を示すモース硬度です。
2つ目は「曲げや衝撃を受けても壊れにくいか?」を示す靭性です。
3つ目は「押されても元に戻る変形の限界はどこまでか?」を示す弾性ひずみ限界です。
このうちダイヤが最も優れているのが、1つ目です。
たとえば鋼鉄のモース硬度は4〜5なのに対してダイヤは最高ランクの10です。
計算上はウルツ鉱型窒化ホウ素(w-BN)がダイヤの約1.18倍、ロンズデーライト(六方晶ダイヤ)がダイヤの約1.58倍など、理論的にはダイヤより傷つきにくい物質も知られていますが、日常の中で目にする物質としてダイヤは頂点にいると言えるでしょう。
しかし2番目の「曲げや衝撃を受けても壊れにくいか?」についてはダイヤは苦手で、鋼鉄の20〜30分の1ほどの数値しかありません。
つまりダイヤモンドは、「キズには無敵でも曲げや衝撃には意外と脆い」という、矛盾した性格を同居させた物質なのです。
そして今回の物語の舞台となるのが、3つ目の指標──「押されても元に戻る変形の限界はどこまでか?」です。
実は普通のダイヤモンドも、この指標では意外な顔を持っています。
元に戻る範囲で、鋼鉄は約0.2%、ガラスは約0.1%しか変形できないのに対し、ダイヤモンドは約1〜2%まで変形しても元に戻る──つまり鋼鉄の5〜10倍、ガラスの10〜20倍という、桁違いの値を持っていたのです。
さらに2018年に発表された研究では直径約300ナノメートル(髪の毛の300分の1の細さ)のダイヤモンドが、約9%もの変形から元に戻ることを発見し、世界を驚かせました。
ダイヤは小さくなるとよりプニプニできるわけです。
しかし、なぜそうなるのか──表面のせいなのか、それとも別の何かのせいなのか──この根本的な理由は、十分に調べられていませんでした。
そこで今回研究者たちは、これまでの研究で最も小さい4〜13ナノメートルという極小領域のダイヤについて調べることにしました。
小さなダイヤは予想以上に大きな弾力を持つと判明

ダイヤは小さければ小さいほど柔らかくなるのか?
答えを得るため研究者たちは、4〜13ナノメートルのサイズのダイヤを押しつぶし、「どれだけ力に対して変形しにくいか」を表すヤング率を測定することにしました。
ただナノサイズの測定では、とにかく外の影響が入り込みます。
部屋の温度が0.1度変わるだけで装置が伸び縮みし、装置の近くで誰かが歩いただけで床の振動がノイズになる。
空気中の小さな塵が1粒混じっただけで、測定値は崩壊してしまう。
そこで研究チームは地上の気圧の約1兆分の1という超高真空環境を作り、さらに約100個もの別々のナノダイヤで同じ実験を繰り返すという、気の遠くなるような反復作業に取り組みました。
1個だけの結果なら偶然のブレかもしれませんが、100個なら確かな傾向が見えてくる──からです。
結果、その努力が実を結びました。
100個近いナノダイヤを押しつぶしていくと、直径4ナノメートルから13ナノメートルの範囲で系統的に測定した結果、明確な傾向が浮かび上がったのです。
具体的には
直径12ナノメートルのダイヤ → ヤング率 約1000ギガパスカル(普通のダイヤとほぼ同じ)
直径8ナノメートルのダイヤ → ヤング率 約850ギガパスカル
直径4ナノメートルのダイヤ → ヤング率 約700ギガパスカル
という結果です。
直径を約3分の1に縮めただけで、硬さが約30%も低下してしまったわけです。
さらに4ナノメートルのダイヤを押しつぶしていくと、全体の約15%まで縮めたところで初めて永久変形が始まることも分かりました。
それでも普通のダイヤのようにひび割れて砕け散ることはなく、15%までの範囲なら圧を抜けば元に戻るという結果です。
通常のダイヤが1〜2%であることを考えると、圧倒的なプニプニ化と言えるでしょう。
これは、世界最硬を誇るダイヤの常識を考えれば、衝撃的な変化です。
しかし、本当に驚くべきことは「どこが原因か?」でした。
ダイヤが柔らかくなったのは表面のせいではなかった

「小さくなると柔らかくなる」──この現象を前にして、多くの読者は、おそらくこう予想するのではないでしょうか。
「きっと、表面の原子が柔らかいのだろう」
実際この推論は、物理学者の間でも長く有力視されてきた仮説でした。
ところが今回の研究は、この直感を真正面から裏切ります。
研究チームが電子顕微鏡の観察データと計算機シミュレーションを突き合わせて詳細に解析したところ、驚くべき事実が明らかになったのです。
表面の原子や中央部のコアそのものは硬いままだったのです。
柔らかくなっていたのはその「間」──つまり、表面のすぐ内側にある中間層だったのです。
研究チームは、この領域を「サブサーフェス」と名付けました。
この結果は原子間の距離にも表れています。
物理学においては一般に、原子と原子の距離が近いほど、結合が強く硬いと考えられています。
隣り合う原子が近くにいれば電子の雲が濃密に重なり、結合は頑丈になる。
逆に距離が離れれば、電子の雲が薄くなり、結合はヤワになる。
バネをイメージしても分かりやすいかもしれません。
短く張られたバネほど硬く、伸ばされたバネほど、触れた指で簡単に動かせるようになります。
そして研究者たちが表面、中間、中心部分の原子の距離を調べたところ一番外側の表面層では、炭素原子同士の結合距離が1.49オングストロームと、通常のダイヤ(1.55オングストローム)より短くなっていました。
距離が短い=結合が強い、つまり力学的には予想外に”硬い”状態だったのです。
また一番内側のコアでは、結合距離は1.55オングストローム──普通のダイヤと変わらない、標準的な結合です。
ところが両者の間にあるサブサーフェス層では、結合距離が通常より約5〜6%も長く伸びており、最大1.64オングストロームにまで達していました。
つまり、表面でも中心部でもない、”挟まれた中間層”こそが、ナノダイヤの柔らかさを生み出していた真犯人だったのです。
なぜダイヤの表面は硬く、内側が柔らかくなったのか──原子たちの”手の配り直し”

多くの人は「外に手を繋ぐ相手がいない表面こそ、一番弱いはずだろう」と思うはずです。
ダイヤモンドの内部では、1つの炭素原子がちょうど4つの隣の原子と手を繋いで結合しています。
これが最も安定した、硬さの源泉となる状態です。
ところが粒子の表面ぎりぎりにある原子は、外側には繋ぐ相手がいません。
本来握るはずの4本の手のうち、1〜2本が宙ぶらりんになってしまうのです。
この状態を物理学では「配位数不足」と呼びます。
手を繋ぐ相手の数が、本来の4に届いていない──そんな不完全な状態です。
ごく普通に考えれば、手が足りていない原子は不安定で弱くなるはずです。
ちょうど、壁際に立たされた人が、片手で手すりを掴んで身体を支えようとしても頼りないのと同じです。
ところが、自然界の原子はそんな中途半端な状態を放っておきません。
余った手を、何とかして別の形で使おうとする──これが原子たちの”生き残り戦略”なのです。
表面の原子は、実に巧妙なやり方で、この問題を解決していました。
具体的には、次のような形で手の配り方を組み替えています。
① 空気中の水素や酸素と結合する:大気に曝されたナノダイヤの表面では、空気中の原子が吸着し、余った手の受け皿になります。
② 隣の表面原子と、普段より強く握り合う:外側に繋ぐ相手がいない分、横に並ぶ仲間との結合を補強する。これを「表面再構成」と呼びます。
③ その代償として、表面と1つ内側をつなぐ手は、むしろ長く伸びて弱くなる:表面原子が②で横方向の結合を強めた反動で、内側に伸びる結合は普段より引き伸ばされ、ヤワになってしまうのです。
今回のナノダイヤで起きていたのは、このうち②と③のセット──表面の中では結合が強く締まり、その一つ内側の界面では結合が逆に弱くなるという、一見矛盾した組み合わせでした。
研究チームは、サンプルを王水で丁寧に洗浄し、さらに超高真空の中で24時間以上かけて表面の汚れを除去してから測定しています。
つまり、①の「水素や酸素による手の受け渡し」は限定的で、表面の原子は自前で手を組み直すしかなかったのです。
その結果、表面原子同士は横の仲間と強く結ばれる一方、1つ内側へ伸びる手は長く引き伸ばされて弱くなる──このダブルの変化によって、本来は不安定なはずの”手が余った”状況を乗り越えていたのです。
なお、①についても研究チームは別途計算で調べており、表面を水素で覆うか酸素で覆うかによって、この後お話しする”しわ寄せ”の大きさが変わることが分かっています。
結果として何が起こるか。
表面の原子同士は、「手が足りなくて不安定」どころか、むしろ普段より強く結合し直した状態に落ち着きます。
しかし、その代償として、1つ内側の原子との結合には明確な「しわ寄せ」が来てしまうのです。
たとえば集団の外側に立つ人(表面原子)が、横の仲間と手をがっちり組み合って踏ん張ろうとすると、もう一方の手で繋いでいた内側の人(サブサーフェスの原子)との手は、引っ張られて伸びてしまう──こんなイメージです。
結果として、最表面の原子は横同士で強く結合(1.49Å)、中間部分の原子は表面に引っ張られて距離が伸びた(最大1.64Å)、中心部の原子は影響を受けず普通通り結合(1.55Å)となるのです。
また研究では、ダイヤのサイズが小さくなればなるほど、柔らかさも増していくことが示されました。
しかし、そもそもなぜ大きさが柔らかさに効いてくるのでしょうか?
その原因は「比率」にあります。
一般に、結晶の表面が空気と接している限り、そこには同じような”柔らかい中間層”が生じうると考えられます。
ナノダイヤに限らず、大きな結晶でも、表面から数オングストローム(数原子分)内側にこうした層が存在しうるというイメージです。
表面原子が手を組み替える限り、そのしわ寄せは必ず1つ内側に溜まるからです。
では、大きなダイヤはなぜ普通に硬いのでしょうか?
答えはシンプルです。
大きなダイヤでは、柔らかい中間層が”無視できるほど少数派”だからです。
たとえば卵を焼いたときに、表面に1mmほどの焦げ層ができたとします。
卵焼きが直径30cmと巨大だった場合、1mmの焦げ層は全体の厚みに比べれば、ほぼ無視できる存在。食べた味はそれほど変わりません。
しかし卵焼きが小さく直径が3mmしかない場合、1mmの焦げ層の存在は支配的で、食べたらほぼ焦げ味になるでしょう。
焦げ目の厚みはどちらも1mmで変わりません。変わったのは全体に占める焦げ目の割合だけです。
ダイヤモンドでも、まったく同じことが起きています。
表面のすぐ内側の領域が全体に占める割合は、ダイヤが巨大ならば限りなく0%ですが、4ナノメートルと小さくなると、全体に占める割合が高くなってしまいます。
ナノダイヤの世界では、今まで少数派だった柔らかい層が、多数派になり決定権を握ってしまった──これが、「同じ物質なのに性質が変わる」現象の本質です。
ナノダイヤは”天然の日本刀”だった──書き換えられる常識

ここまで読んできた方の中には、この話にどこか既視感を覚えた方もいるかもしれません。
「硬さと、しなやかさ」を両立させた素材──実は私たちの文化史にも、同じ思想で生まれた名作があります。
日本刀です。
日本刀が「折れず、曲がらず、よく切れる」という3つの矛盾した性質を同時に実現できた秘密は、その複合構造にあります。
刀匠たちは、刃に硬い高炭素鋼を、芯に柔らかくて粘り強い低炭素鋼を配置し、両者を鍛造で一体化させました。
硬い鋼が切れ味を、柔らかい鋼が折れにくさを、それぞれ担当する──2種類の異なる素材を組み合わせた、千年越しの英知です。
ナノダイヤが起こしていたのは、これと驚くほど似た現象でした。
表面層はむしろ硬く締まり、内側の境目層がしなやかに変形する──たった1種類の炭素原子の集まりでしかないナノダイヤが、内部の構造によって硬さと弾力性を自然に両立させていたのです。
人間が数百年かけて編み出した複合素材の設計思想を、ナノスケールのダイヤは、生まれながらに備えていた──。
そう考えると、この研究は単なる物理現象の解明を超えて、「素材設計の教科書」としての価値を持ち始めます。
実際、論文の著者たちは、この発見が未来のテクノロジーに与えるインパクトを、いくつか具体的に挙げています。
ひとつ目は、ナノメカニカル共振器への応用です。
スマホの中に入っている小さなセンサーや、精密な周波数フィルターは、ごく微小な振動で動いています。
ナノダイヤの”柔らかさ”を制御できれば、共振器の周波数や感度を自在に調整できるようになります。
硬すぎず、柔らかすぎない──ちょうどいいバランスを設計する手がかりになるのです。
ふたつ目は、量子デバイスへの応用です。
ダイヤモンドの中に特殊な欠陥を作ることで、量子センサーや単一光子源として使う技術が近年急速に発展しています。
機械的な安定性はこれらの性能に直結するため、中間のサブサーフェスの性質を理解することは、次世代の量子コンピュータや高精度センサーの開発に役立つ可能性があります。
将来、あなたのスマホの中で量子センサーが動く日が来るなら、その心臓部にはこのナノダイヤの知見が使われているかもしれません。
みっつ目は、熱制御デバイスです。
ナノダイヤの境目層は、熱を運ぶ波(フォノン)の流れ方を左右しうると考えられます。
これを逆手に取れば、熱の流れを意図的にコントロールする新しい装置を作れる可能性があります。
たとえば次世代コンピュータの熱対策や、熱を電気に変える熱電デバイスなど、「熱を自在に操る技術」への応用が期待されるのです。
そして、これらすべてを支える鍵となるのが、表面の”お化粧”です。
前に触れた「表面の水素や酸素との結合」──これは単なる汚染物質ではなく、意図的に設計できるパラメータなのです。
論文の計算によれば、ダイヤの表面を水素で覆った場合は、柔らかい中間層の結合の伸びが顕著に残り、しなやかさが保たれる一方、酸素で覆うとこの伸びは大幅に抑えられ、本来のダイヤに近い硬さに戻ることが分かっています。
つまり、表面の化学処理を変えるだけで、ナノダイヤの柔らかさを調整できる可能性があるのです。
用途に応じて「硬めのナノダイヤ」「柔らかめのナノダイヤ」を作り分ける──そんな設計自由度が、これからの研究で開かれようとしています。
もちろん、今回の研究がすべての謎を解いたわけではありません。
実は研究チームのシミュレーションによれば、さらに小さな2ナノメートル以下の領域では、コアと表面の挙動がわずかに変化する兆候も見え始めています。
ただしこの極小領域での実験的な検証や、極低温・高温といった他条件下での挙動は、今後の研究課題として残されています。
なお、論文の著者たちは、温度が変わっても”サイズが小さいほど柔らかくなる”という基本傾向自体は変わらないと予想しており、今後の焦点は数値の微調整になりそうです。
ダイヤがどこまで姿を変えていくのか──物語はまだ途中なのです。
宝石として、工具として、研磨剤として、ダイヤが頼られてきたのは、その揺るぎない硬さゆえでした。
しかしナノの世界に降りていった研究者たちは、そこに別の顔を発見しました。
直径を髪の毛の2万分の1まで縮めたダイヤは、30%も柔らかくなり、15%近い圧縮でも割れずに大きな変形に耐えるようになっていたのです。
しかもその柔らかさの正体は、表面でも中心でもない、見えにくい第3の層でした。
「ダイヤモンドは硬い」──この学校で習った常識は、ナノの世界では書き換えが必要なのかもしれません。
目で見えないスケールの向こうには、まだまだ書き換えを待つ常識が、静かに眠っているのかもしれません。
参考文献
ZZU team uncovers atomic-scale mechanism behind nanodiamond elasticity
https://english.zzu.edu.cn/2026-04/17/c_2401.htm#:~:text=Diamond%20is%20known%20for%20its,clear%20size%2Ddependent%20softening%20effect.
元論文
Subsurface Driven Size-Dependent Elasticity in Nanodiamond
https://doi.org/10.1103/b3h5-34wt
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部
