オーストラリアのメルボルン大学(UoM)などの研究チームが、イギリスとオーストラリアの成人を対象に「人はどれくらい秘密を持っていて、その秘密がどのように気分に影響するのか」を詳しく調べました。
その結果、参加者は平均して9~11種類前後の秘密を抱えていることが分かりました。
また自分の意思とは無関係にふと頭に浮かんでくる秘密が、今の気分だけでなく約2時間後の気分まで暗くなりやすい可能性があることが観察研究から示唆されました。
さらに逆に気分が沈んでいるときにも、秘密の内容が意図せず脳裏に浮かびやすくなる傾向も示されました。
秘密とネガティブな関係が、「意図せず浮かぶ」思考を通して結び付きやすいという興味深い関係です。
今回の成果は、2026年1月23日にプレプリントサーバーである『PsyArXiv』にて公開されました。
目次
- 2時間に1回、人は自分の「秘密」を思い浮かべている
- 気分が凹んでいると秘密が脳裏をよぎり、秘密が脳裏をよぎると気分が凹む
- 悪循環をほどくカギは“勝手に浮かぶ考え”との付き合い方
2時間に1回、人は自分の「秘密」を思い浮かべている

誰にも言えないはずの秘密を、シャワーを浴びているときや、通学の電車の中、寝る前にふとしたきっかけで思い出して、胸がざわざわしたことはないでしょうか。
何もしていないのに、「あのときの嘘」「本当は好きなあの人のこと」などが頭の中で勝手に流れ出して、しばらく気分が重くなることがあります。
人によっては「かなりヤバイ秘密」が思い出されて、大きくへこむこともあるでしょう。
実際、これまでの研究では、「秘密の“数”が増えるほど、人は幸せだと感じにくくなる」といった指摘もあります。
では、なぜ秘密が多いと、しあわせ感が下がってしまうのでしょうか。
秘密は、もともと悪いものだけではありません。
たとえば、友だちにサプライズでプレゼントを1年前から用意しているとき、その計画はしばらく秘密です。
でも、それはむしろワクワクする秘密です。
しかし過去に行われた研究では、嘘をついたこと、誰かを傷つけてしまったかもしれない不安、自分の体や性に関するコンプレックス、お金のトラブルなど、「ばれたら困る」「知られたら軽べつされるかもしれない」と感じるようなネガティブな内容の秘密が、多くの人にとってとてもよく見られることが報告されています。
いっぽうで、人に話すと良い影響のありそうな情報は、隠しておくメリットが少ないので、そもそも長いあいだ秘密のままにはなりにくいと考えられています。
そのため、「今もなお秘密として残っているもの」にしぼってみると、ネガティブな内容の秘密が多くなりやすい、つまり時間が経つほど「手元に残る秘密」はネガティブなものに偏っていく可能性があります。
もうひとつの理由は、そうした秘密が「頭の中の時間」をたくさん取ってしまうことです。
多くの秘密は、もし発覚すれば自分にとって不利になりうるという構造を持っており、そのような「まだ片づいていない大事な問題」は、心の中で何度もリピートされがちです。
「あのとき違う選択をしていたら」「もしばれたらどうなるだろう」「あの人は実は気づいているのでは」といった考えが、勉強中や移動中、寝る前などにふと頭をよぎる、という状態です。
実際、以前の研究では、「大事な秘密は週に30回以上、だいたい2時間に1回のペースで頭に浮かぶ」といったデータも報告されています。
そのぶん、楽しいことやうれしいことを考える時間が削られやすく、「今日一日をふり返ったときの気分」が全体として暗くなりやすい、という関連が示されています。
しかし、ここで大事な問題が残っていました。
ひとくちに「秘密を考えてしまう」と言っても、その中には少なくとも二つのパターンがあります。
ひとつは、黒歴史が急に頭に出てくるような、自分の意思とは関係なく勝手に浮かんでくる考えです。
もうひとつは、「よし、今日はあの出来事についてちゃんと考えてみよう」のように、自分から意識して思い出そうとする考えです。
これまでの研究は、こうしたモードや内容のちがいをあまり分けずに、「秘密をよく考える人ほどつらくなりやすい」といった大ざっぱな結論にとどまっていました。
そこで研究チームは、「自発的に浮かぶ秘密」と「意図的に考える秘密」をわけて測り、そのときどきの気分との関係を、ふだんの生活の中でくわしく追いかけることにしました。
本当に、勝手に浮かぶ秘密の方が、心にとって重くのしかかっているのでしょうか。
気分が凹んでいると秘密が脳裏をよぎり、秘密が脳裏をよぎると気分が凹む

個人の秘密は人々にどんな影響を与えているのか?
研究チームはこれを調べるために、2つの調査を行いました。
まずイギリスのオンラインで集めた240人に、嘘、自分の体への不満、お金、ひそかな恋愛感情、性行動など38種類の「秘密のテーマ」を示し、「自分はこのテーマの秘密を持っているか」を答えてもらいました。
その結果、1人あたりの秘密の種類は平均8.9種類で、とくに多かったのは嘘をついたこと(約78%)、体への不満(約71%)、お金(約70%)、恋愛感情(約63%)、性行動(約57%)でした。
参加者はその中から「自分にとっていちばん大事な秘密」を1つえらび、2週間、毎日その秘密についてどれくらい意図せず考えたか、どれくらい意図して考えたか、そして今その秘密についてどんな気持ちかを日記に書きました。
分析すると、人は全体として、秘密について「考えよう」と決めて考えるより、「考えたくないのにふと思い出してしまう」ことの方が多いことが分かりました。
また同じ人の中で比べても、意図せず秘密が頭をよぎる程度がふだんより高い日は、その秘密に対するネガティブな気分が強い傾向がありました。
2つ目のスマホ調査では、オーストラリアの参加者207人を対象に調査が行われ、こちらでは1人当たり平均して10.85種類の秘密があるとの結果が得られました。
また特に多かったのは、嘘をついたこと(約55%)、体への不満(約55%)、お金(約49%)、家族だけが知っている事情など(約48%)、性行動(約54%)でした。
また7日間、1日およそ8回スマホに短い質問を送り、直近1時間に、その秘密について「意図せずどれくらい考えたか」「意図してどれくらい考えたか」を0〜100の自己評定で答え、あわせて「今どれくらいネガティブ/ポジティブな気分か」を答えてもらいました。
すると、意図せず秘密が頭をよぎることが多かったときには、その瞬間のネガティブな気分が強いだけでなく、次の通知(約1.5〜2時間後)の時点でもネガティブな気分が高い傾向がありました。
逆に、前の時点でネガティブな気分が強かった場合、その次の通知までのあいだに意図せず秘密を思い出す程度が増えやすい傾向も見られました。
これら2つの結果からは「気分が悪いときほど意図せず秘密を思い出しやすく、それと並行してまた気分が悪くなる」という悪循環のような関係が起きている可能性が見えてきます。
一方で意図的な思考については、「意図してたくさん考えれば、その後もしばらく気分が良く保たれる」というはっきりした証拠はありませんでした。
さらに日記の内容を調べると、人々は秘密について考えるとき、「どう隠すか」や「どう打ち明けるか」よりも、「もしばれたらどう思われるだろう」「知られたら友だちが離れてしまうかもしれない」といった結果への心配や、他人の反応の想像をしていることが多いと分かりました。
こうした心配のイメージが、自分の意思とは関係なく何度も頭にわいてくることで、気分がじわじわと悪くなっているのかもしれません。
悪循環をほどくカギは“勝手に浮かぶ考え”との付き合い方

今回の研究から見えてきたのは、「どんな秘密を持っているか」だけではなく、「その秘密がどんなタイミングで、どんなふうに頭に浮かんでくるか」が、私たちの気分にとってとても大事だ、ということです。
研究チームは、秘密についての思考には大きく2種類あると整理します。ひとつは、勉強中や仕事中にふと割り込んでくる意図しないもの。
もうひとつは、あえて時間をとって、秘密の意味や将来のことを考えようとする意図的な思考です。
今回の結果は自分の意思とは関係なく、ふと勝手に思い出してしまうタイプの秘密が、今の気分だけでなく、2時間後くらいの気分まで悪くなりやすい、というパターンがくり返し見られました。
では逆に、なぜ凹んでいるときに秘密が意図せず脳裏をよぎりやすいのでしょうか?
心理学では、人間の脳は「いまの気分に合った記憶」を呼び出しやすい、という性質を持っていると考えられています。
うれしい気分のときは、自然と楽しかった思い出や、うまくいった体験を思い出しやすく、逆に落ち込んでいるときには、失敗したことや恥ずかしかったことを思い出しやすくなります。
これを専門的には「気分一致効果」と呼びます。
だから、もともと気分が落ちているときには、その気分と「色」が似ている秘密の記憶が、心の中の棚からスッと引き出されやすくなるのかもしれません。
研究者の一人は「私たちは、望んでいないときに秘密を思い出してしまい、そのたびにさらに悪い気分になる悪循環に陥っているようです」と述べています。
もちろん、この研究にも限界があります。
まず、対象はイギリスとオーストラリアの成人にかぎられており、日本をふくむ他の国でも同じ結果になる保証はありません。
それでも秘密について、「考えるのが意図的かそうでないか」「どんな内容を考えているか」「今と2時間後の気分」がどうつながっているのかを、日記とスマホを使って、ふだんの暮らしの中でていねいに追いかけたデータは、今後、「どうすれば秘密との付き合い方をラクにできるか」という研究の出発点になるでしょう。
著者たちは、秘密についての意味づけを少しちがう角度から考えなおす「認知的再評価(ものの見方を意識して変えなおす考え方)」のようなアプローチが、今後検討すべきひとつの方法になりうると書いています。
もし今度、脳内に秘密が意図せず頻繁に浮かぶことがあったら、悪循環を断つために、自分の秘密の見方を考え直すといいかもしれません。
元論文
The Nature and Consequences of Mind-Wandering to Secrets
https://doi.org/10.31234/osf.io/7u2rm_v1
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部
