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ADHD症状のある若者は勉強中や仕事中にも普通の人より頻繁にBGMを聴く


カナダのモントリオール大学(University of Montreal)で行われた研究によって、ADHD傾向のある若者たちは、勉強中や仕事中などの集中が必要な活動において、一般の若者よりも頻繁にBGMを聴く傾向があることが明らかになりました。

一方で、「何もせずにただ音楽を聴く」時間は、ADHD傾向のない人のほうが長い傾向がありました。

つまり、ADHDの人たちは音楽をじっくり味わうよりも、「作業しながら聴く」使い方をしていることが多いということです。

なぜADHD傾向の若者たちは、より頻繁にBGMを利用するのでしょうか?

そこには「静かさ」に対するADHD特有の反応が隠されていました。

研究内容の詳細は『Frontiers in Psychology』にて発表されました。

目次

  • ADHDの脳と刺激
  • ADHDは静かだと集中できない可能性がある
  • ADHDにはどんな音楽が効く?

ADHDの脳と刺激

ADHDの脳と刺激
ADHDの脳と刺激 / Credit:Canva

ADHD(注意欠如・多動症)は、集中が続かない、落ち着いていられない、思いつきで行動してしまうなどの特徴がある発達の障害です。

子どもだけでなく、大人になってからも日常生活や仕事、勉強で困ることが少なくありません。

ADHDの人の脳では、やる気や注意に関わる「ドーパミン」という物質をコントロールする機能がうまく働かないことが知られています。

ドーパミンの量が少なすぎると、ぼんやりして集中できません。逆に刺激が強すぎると、気が散ってしまいます。

ADHDの人はそのバランスがとくに難しいのです。

退屈なときにイライラしやすいのも、そのせいかもしれません。

そのため、ADHDの治療では、ドーパミンを増やして脳の覚醒レベルをちょうどよく保つために「メチルフェニデート」という薬(リタリンなど)がよく使われます。

メチルフェニデートはドーパミン/ノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、これらをシナプス間隙に長くとどまらせる作用があります。

でも、薬だけが解決方法ではありません。最近の研究では、音楽にも同じように脳を活性化させる効果があることがわかってきました。

たとえば、好きな音楽を聴くと「気持ちが明るくなってやる気が出た」と感じることはありませんか?

それは音楽がドーパミンの分泌を助けてくれているからなのです。

実際に世界26か国の調査では、大人たちは週に平均20時間以上も音楽を聴いているというデータがあります。

「カフェのBGMで勉強がはかどる」「好きな曲でテンションが上がる」という経験がある人も多いでしょう。

でも、ADHDの人が実際に日常生活でどのように音楽を使っているのか、これまであまり詳しく調べられてきませんでした。

「音楽を流すと集中できる」という人もいれば、「かえって気が散ってしまう」という人もいて、科学的に結論が出ていなかったのです。

この疑問に向き合ったのが、カナダのモントリオール大学の研究チームです。

以前ある親御さんから「うちの子は音楽を聴きながらの方が勉強できるように見えるけど、それって良いことなんでしょうか?」と聞かれた経験をきっかけに、このテーマを深く掘り下げることになりました。

研究者たちは「ADHDの傾向がある若者は、ふつうの人と比べて、音楽の聴き方にどんな違いがあるのだろうか?」という問いをもとに、大規模な調査を行いました。

音楽は、ADHDの人にとって“集中の助っ人”になっていたのでしょうか?

ADHDは静かだと集中できない可能性がある

ADHDは静かだと集中できない可能性がある
ADHDは静かだと集中できない可能性がある / Credit:Canva

では、ADHDの人にとって音楽は本当に役に立っているのでしょうか?

この疑問に答えるために、カナダのモントリオール大学の研究チームは、434人の若者(17歳〜30歳)を対象にインターネットでアンケート調査を行いました。

まずは全員に「あなたはどれくらいADHDの傾向がありますか?」を測るための質問に答えてもらいました。その結果、434人のうち118人はADHDの可能性が高いグループに、残りの316人はそうでないグループに分けられました。

次に、「どんなときに、どんな音楽を、どのくらいの頻度で聴いているか?」を、さまざまな場面ごとに質問しました。たとえば、

・読書や勉強のとき

・掃除や料理、運動、通学中など、体を使うとき

といったように、頭を使う活動とそれほど使わない活動の両方について答えてもらいました。

さらに、音楽を聴いたことで「集中しやすくなったか」「気分がよくなったか」といった効果も聞きました。

その結果、ADHD傾向のある若者たちは、そうでない人たちよりも勉強中や運動中など、多くの場面で音楽を流している割合が高いことがわかりました。

特に「勉強しているとき」や「スポーツをしているとき」に音楽を聴いている人が多く、音楽を通して自分の集中や気分を整えている様子が見えてきました。

一方で、「何もせずにただ音楽を聴く」時間は、ADHD傾向のない人のほうが長い傾向がありました。

つまり、ADHDの人たちは音楽をじっくり味わうよりも、「作業しながら聴く」使い方をしていることが多いということです。音楽は、勉強や運動を助ける道具として役立っているようです。

では、どんな音楽を好んでいるのでしょうか?

ここでも興味深い違いがありました。

ADHD傾向のある人たちは、勉強中であっても「刺激的なアップテンポの音楽」を選ぶことが多いことがわかりました。

一方、ADHD傾向のない人たちは、「リラックスできる落ち着いた音楽」を選ぶ傾向が強く、両者で好みにはっきりした違いが出たのです。

たとえば、「集中したいときに、ゆったりした音楽を聴く」人の割合は定型グループで多く、「ノリの良いアップテンポな音楽を流す」人はADHDグループに多く見られました。

この結果から、ADHDの人たちは「静かな音楽で落ち着く」よりも「元気な音楽で気持ちを上げて集中する」タイプが多いことがわかります。

とはいえ、どちらのグループにも共通する点がありました。

それは、「場面に応じて音楽の種類を使い分けている」ということです。たとえば、

難しい勉強や読書には、歌詞のない落ち着いた音楽

掃除やジョギングなどの作業には、テンポの速い曲や歌詞つきの音楽

というように、うまく音楽を使い分けている人が多くいました。

そして、「音楽を聴くことで集中しやすくなった」「気分がよくなった」と答えた人は、ADHDかどうかに関係なく多数派でした。

つまり、多くの若者にとって音楽は“やる気を出すパートナー”のような存在であり、特にADHDの人たちにとっては、より積極的にそれを活用しているということがわかったのです。

ADHDにはどんな音楽が効く?

ADHDにはどんな音楽が効く?
ADHDにはどんな音楽が効く? / Credit:Canva

では、なぜADHDの人たちは、静かな場所より音楽のある環境のほうが集中しやすいのでしょうか?

今回の研究はアンケート調査で因果関係までは踏み込んでいませんが、ADHDの傾向がある若者たちが、勉強や運動などいろいろな活動の中で、音楽を“集中の手助け”として積極的に使っていることが明らかになりました。

これは、音楽がADHDの人の「脳のスイッチ」として働いている可能性を示しています。

実際、先行研究や神経科学の知見によれば、ADHDのある人は静かな状況に置かれると脳の覚醒レベルが下がりすぎて注意が散漫になりやすい一方、適度な刺激が加わると注意を維持しやすくなることが分かっています。

音楽はまさにその「適度な刺激」を与える手段の一つなのです。

アップテンポで刺激的な音楽を流すと退屈さや眠気を吹き飛ばし、脳内でドーパミンが分泌されてやる気や快感が生まれ、結果として注意力が持続しやすくなると考えられます。

もちろん、音楽を聴けばいつでも集中できるというわけではありません。

曲のタイプ(速い・遅い)、歌詞の有無、音量などによって効果は変わりますし、個人差もあります。

しかし、少なくとも今回の調査からは「ADHDの若者自身は音楽によって集中や気分が改善すると感じている」こと、そして「実際に集中が必要な場面で積極的に音楽を利用している」ことが示されました。

静けさの中でじっと座っているより、好きな音楽で程よく気分をノせた方が彼らにとって効率が良いのかもしれません。

この研究の意味はとても大きいです。

従来、「勉強するときはテレビや音楽を消しなさい」と言われるのが普通でしたが、この常識はすべての人に当てはまるわけではないことが明らかになりました。

特にADHDの傾向がある人にとっては、音楽を上手に活用することで集中力やモチベーションを補うことができる可能性があります。

前述のように、「注意散漫な子に音楽を聴かせて勉強させても良いのか?」という問いに対し、研究チームとして「音楽はADHD傾向の若者にとって注意力や感情の自己調整手段になる可能性があります」と結論づけています。

ただし、音楽が「薬の代わりになる」とまでは言えません。

研究チームは「薬に加えて音楽もうまく活用すれば、ADHDの症状をコントロールする手助けになるだろう」としています。

音楽は手軽に使えて、副作用もなく、誰でも自分に合った方法で取り入れられるところが大きなメリットです。

では、これから先どんな活用法が考えられるのでしょうか?

では今後、具体的にどんな応用が考えられるでしょうか。

まず、教育現場や家庭で、ADHDの子どもや若者が勉強中に適切な音楽を聴くことを許容・推奨する流れが生まれるかもしれません。

実際、どのような音楽が最も効果的かは課題の種類によって異なるため、例えば「読解や暗記には歌詞のない穏やかな曲」「単純作業や運動にはテンポの速い曲」といったガイドラインが考えられます。

論文では、歌詞の有無が課題への影響を及ぼす可能性について指摘されており、具体的な曲選びの推奨については今後の研究課題とされています。

個人の好みに合わせて自分だけの「集中プレイリスト」を作るのも良いでしょう。研究チームも論文内で、将来的には個人の特性に応じて理想的な音楽活用法を探る研究が望まれると述べています。

とはいえ今回の研究は、あくまで「本人の自己報告」によるものなので、音楽が本当に成績や作業効率を上げているかまでは明らかになっていません。

しかし、434名という大規模なデータから、ADHDの若者たちが日常的に音楽を「集中を助ける相棒」として活用している実態が示された意義は極めて大きいと言えます。

音楽という身近なツールが注意力に悩む人々を支える「脳のスイッチ」になり得る——そんな可能性にスポットライトを当てた本研究は、教育や臨床の現場にも新しい視点を提供してくれるでしょう。

「音楽を聴きながらの勉強なんて邪道」という先入観は、これから変わっていくかもしれません。静寂かBGMか、人それぞれに“ちょうど良い集中のかたち”を選べる時代が訪れているのです。

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元論文

Listening habits and subjective effects of background music in young adults with and without ADHD
https://doi.org/10.3389/fpsyg.2024.1508181

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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