「一度ブラックホールに飲み込まれたら、もう二度と戻ってはこれない」
そんな宇宙の常識を覆す星が見つかったようです。
2022年、ある恒星がブラックホールに接近し、閃光を放ちながら姿を消しました。
ところが約2年後、その恒星が再びまったく同じ場所で閃光を放ったのです。
天文学者たちは驚きました。「まさか、あの星が生きていたとは⁈」と。
ブラックホールに一度捕まったにもかかわらず、生還し、再びブラックホールに近づいたこの恒星の存在は、宇宙の掟を書き換える可能性があります。
研究の詳細はイスラエル・テルアビブ大学(TAU)により、2025年7月1日付で科学雑誌『The Astrophysical Journal Letters』に掲載されました。
目次
- 常識を覆した「2度目の閃光」
- なぜブラックホールの捕食から生き残れたのか?
常識を覆した「2度目の閃光」
2022年、テルアビブ大学を中心とする研究チームが、ある銀河の中心から強い閃光を捉えました。
その光は、超大質量ブラックホールに恒星が引き裂かれたときに生じる現象「潮汐破壊(ちょうせきはかい)」に極めてよく似ていました。
これ自体はそれほど珍しいことではなく、過去にも似たような現象は何度も観測されています。
恒星がブラックホールに接近しすぎたとき、強烈な重力によって破壊され、そのガスがブラックホールへと渦巻きながら落ち込む過程で、明るい光が一時的に放たれるのです。

ところが、さらに驚くべきことが起こります。
それからちょうど約700日後、まったく同じ場所から、またしても同じような閃光が放たれたのです。
これは偶然ではありませんでした。
2回目の光の性質は、最初のフレアとほぼ一致しており、明らかに同じ天体によるものだと確認されたのです。
チームは当初、「まさか2つの星が同時に似た運命をたどったのでは?」と疑いました。
しかし解析の結果、これは同じ恒星が2回にわたってブラックホールに接近し、2度破壊されかけたという、極めて異例の現象であることが示されました。
なぜブラックホールの捕食から生き残れたのか?
なぜこの星は一度飲み込まれたにもかかわらず、生き延びて戻ってこれたのでしょうか。
チームは、この恒星が完全に破壊されたのではなく、「部分的に破壊された」にすぎないと考えています。
つまり、ブラックホールが星を一口だけかじり取り、残りは再び軌道に乗って回り続けたというのです。
この星は現在、ブラックホールの周囲を約700日周期の楕円軌道で公転しており、最も接近した地点で再び「かじられた」ことで、2回目の閃光が生じたとされています。

このような繰り返しの破壊は、これまでの天文学の常識では考えられていませんでした。
TDE(潮汐破壊現象)は「一度きり」の破滅的な現象だと信じられていたからです。
しかし今回の「AT 2022dbl」と名付けられたこのフレア事例は「ブラックホールは時に“完食”せず、星を“スナック”のようにつまみ食いする」という可能性を示しています。
実際、この恒星が放った光の明るさや温度は、過去に記録された他のTDEとよく似ており、「これまで観測されてきたTDEの一部は、実は完全破壊ではなく部分破壊だった可能性がある」と研究者たちは指摘しています。
この発見は、これまでの観測データの解釈を見直す必要があることを意味します。
ブラックホールは、ただすべてを飲み込む絶対的な存在ではなく、時に“未遂”に終わることもあるのかもしれません。
ただ今回確認された奇跡の星が、2度目の捕食を生き延びたかどうかはわかりません。
今後、2026年にはこの星が再びブラックホールに接近すると予測されています。
もし3度目の閃光が観測されれば、この奇跡の星はまたしてもブラックホールの捕食から生き延びたことを証明するでしょう。
参考文献
This star survived a black hole—and came back for more
https://phys.org/news/2025-07-star-survived-black-hole.html
元論文
The Double Tidal Disruption Event AT 2022dbl Implies that at Least Some “Standard” Optical Tidal Disruption Events Are Partial Disruptions
https://doi.org/10.3847/2041-8213/ade155
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部