「AIが人間より面白いジョークを作る日も近い?」――そんな未来を想像したことがある人もいるかもしれません。
しかしスウェーデンのKTH王立工科大学(KTH)で行われた研究により、その未来はまだ少し先の話になりそうです。
研究チームがAI単独でミーム(ネットでよく見るジョーク画像)を作らせたところ、AIはなんと人間以上に『そこそこ面白いミーム』を安定して量産できることが分かりました。
一方で、本当に爆笑を呼ぶような「傑作ミーム」を作れたのは、やはり人間だったのです。
さらに研究では人間とAIが力を合わせてミームを作る場合はまた別の効果が発揮されることが示されました。
この研究は『30th International Conference on Intelligent User Interfaces (IUI ’25)』にて発表され優秀賞を受賞しました。
(※なお本記事に使用されている画像は研究に関連する2ページ目のものを除き全て独自にAIにミーム生成を支持して作らせたものになります)
目次
- AIは本当に人間の「笑いのツボ」を理解できるのか?
- AI vs 人間 vs コラボ、最も笑えるミームを作ったのはどれだ?
- 人間の爆笑力とAIの安定力が融合、「面白さ」の未来はこう変わる
AIは本当に人間の「笑いのツボ」を理解できるのか?

誰かが面白いジョークを言ったのに、自分だけピンと来なくて笑えなかった経験はありませんか?
逆に、自分が大笑いしたネタを友達に見せても、「なにこれ?」と反応されることもありますよね。
実はユーモアや「面白い」と感じる感覚には、文化や経験、感情といった複雑な要素が深く関係しています。
特に最近ネットで流行するミーム(画像に面白い文章をつけて楽しむユーモア表現)は、こうした要素が絶妙に絡み合い、多くの人々にウケています。
しかし、AI(人工知能)がそんな人間特有の「笑いのツボ」を本当に理解し、私たちが爆笑するようなミームを作り出せるのかは、まだ誰にもわかりませんでした。
近年、文章や絵画などの創作分野では、AIが人間のパートナーとして活躍しています。
特に大規模言語モデル(LLM)という最新のAIは、人間と一緒に作品を作り上げる能力が高いことが分かってきました。
ただ「笑い」を生み出すことは、単に文章や画像を作るよりもさらに難易度が高い作業です。
論文によれば、「ユーモアは驚きや対比、文化的文脈、感情的な共鳴といった要素に依存する」とされており、AIがそのような複雑な感覚を人間と同じように理解するのは、まだまだ難しいようです。
一方で、ミームは世界中の人がインターネットで楽しむ共通の文化になっています。
ミームは、誰でも気軽に共感したり、シェアしたりできるため、世界中で爆発的に広まることも少なくありません。
そこでスウェーデンのKTH王立工科大学のZhikun Wu氏ら研究チームは、人間とAIが一緒にミームを作った場合、一体どんな作品が生まれるのかを詳しく調べることにしました。
人間だけ、AIだけ、そして人間とAIの協力という3つの方法で作られたミームを比較し、どれが最も面白くてクリエイティブで、しかも「他の人にシェアしたい」と感じる魅力を持っているのかを実験で明らかにしたのです。
果たしてAIと人間の協力は、人間やAI単独の作品を超えることができたのでしょうか?
AI vs 人間 vs コラボ、最も笑えるミームを作ったのはどれだ?

AIと人間が協力してミームを作った場合、それは人間だけ、あるいはAIだけで作ったミームと比べて本当に面白く、魅力的な作品になるのでしょうか?
この謎を解明するため、研究チームは150人の参加者をそれぞれ異なる方法でミーム作りに挑戦する3つのグループに分けました。
第1のグループは人間だけでアイデアを出し、ネットで人気の画像テンプレートを使ってミームを作りました。
第2のグループは人間がAIの支援を受け、AIが生成する多数のアイデアから気に入ったものを選び、自らの創意工夫を加えて最終的なミームを完成させました。
第3のグループは完全にAI単独で、人間はまったく関与せず、最新のAIモデルが画像テンプレートに合わせたジョークを自動的に生成しました。
次に、約100名の評価者グループが完成したミームを見て、「面白さ」「創造性」「シェアしたくなる魅力」の3つの観点から評価を行いました。
その結果、非常に興味深いことが明らかになりました。
まず「平均的な評価」を見ると、驚くことに、AI単独のグループが最も高い評価を獲得しました。
これはAIがインターネット上の膨大なデータを学習しており、「多くの人がそこそこ楽しめる」安定した面白さを持つミームを量産できることを示しています。
つまり、AIは広く一般受けするミームを作ることが得意なのです。
グループ対抗の結果を総合得点(平均の高さ)という観点でみれば、AI単独が勝利です。
一方で、「個別のミームで最も面白い一本」を比較した場合、最高評価を獲得したのは人間が単独で作成した作品でした。
これは、ユーモアの重要な要素である予想外の展開や独特な視点など、人間のひらめきや創造的な感性がAIには真似できない爆笑を生み出せることを示しています。
人間単独は総合得点こそAI単独に負けたものの、最優秀作品を排出したのです。
さらに興味深いことに、「創造性」や「シェアしたくなる魅力」という2つの評価軸では、人間とAIが協力して作ったミームが最も高い評価を得ました。
AIが提案する多様なアイデアを人間が選別し、自らのアイデアと融合させることで、新鮮でオリジナリティ溢れるミームが生まれたのです。
人間単独では思いつかなかったような「新しい視点」や「シェアしたくなる独自性」は、AIとの協力によって初めて実現しました。
人間とAIのコラボは総合得点や最優秀賞作品賞こそ逃したものの「創造性」部門と「シェアしたくなる魅力」部門のトップをとったと言えるでしょう。
以上の結果からミーム創作の場面では、AIと人間それぞれに異なる強みがあり、それを活かすことでより魅力的な作品を生み出す可能性が見えてきました。
AI単独は安定して広く受け入れられるミームを作り、人間単独は驚きと爆笑を誘う特別な作品を作り、そして人間とAIの協力によって、よりクリエイティブでシェアされやすい新しいミームが生まれるのです。
これらの異なる強みを組み合わせることで、今後さらに面白く独創的なミームを作り出す可能性が期待されます。
人間の爆笑力とAIの安定力が融合、「面白さ」の未来はこう変わる

今回の研究によって、AIと人間がそれぞれ異なる「笑い」の得意分野を持ち、その違いをうまく組み合わせれば、さらに魅力的で面白いコンテンツを作り出せる可能性が示されました。
まずAIは、たくさんのアイデアを瞬時に出すことができ、多くの人にそこそこ面白いと感じられるようなミームを作ることが得意です。
これはAIが膨大なインターネット上のデータを学習しているためで、多くの人が受け入れやすい「平均点の笑い」を安定して生み出す力があります。
しかし、その一方で、AIが作るジョークやミームは新鮮さや意外性が少なく、どれも似たようなパターンになりがちです。
つまりAIは、常に一定レベルの面白さをキープすることはできても、予測不可能で爆笑を誘うような斬新な発想を生み出すことは苦手なのです。
一方、人間は自分の感情や経験、文化的背景を豊かに持っているため、型にはまらないユニークな発想を生み出せる強みがあります。
実際、人間が単独で作ったミームの中には、多くの人が爆笑して高く評価するような、AIには到底思いつかない意外性やオリジナリティのある作品がありました。
このように、人間は深い共感を生む面白さや予想外のアイデアを生み出すのが得意であることが、今回の研究でもはっきりと確認されました。
では、AIと人間の強みを組み合わせたら、もっと素晴らしいミームができるのでしょうか?
研究の結果から見ると、その答えは「半分イエス」と言えるでしょう。
人間とAIが協力して作ったミームは「面白さ」部門こそ逃したものの「創造性」部門と「シェアしたくなる魅力」の2部門のトップをとりました。
これは「アイデアを出す」AIの力と、「最適なアイデアを選び磨き上げる」人間の力が上手に融合した成果であり、上手く利用すれば特定の目的を達成できる可能性を感じさせます。
しかし、今回の実験では、人間がAIと上手に協力できないケースも見られました。
多くの参加者がAIのアシスタントを一度しか使わず、十分にアイデアを引き出せなかったという問題がありました。
せっかくAIが優れたアイデアを数多く提供しても、人間がそれをうまく活用しないと、その可能性を十分に発揮できないということです。
これから先、AIと人間の協力をもっと効果的にするためには、人間がAIを活用しやすい環境を整えたり、AIと何度もやり取りを重ねることを促すような仕組みが必要になるでしょう。
今回の研究は、AIを単なる道具として見るのではなく、「創作パートナー」として考える新しい方法を示したと言えます。
AIは豊富なアイデアを瞬時に出す「発想のブースター」であり、人間はそのアイデアの中から本当に面白いものを見つけ、最終的に心に響く形に仕上げる役割を担います。
つまり、「AIがアイデアを大量に提供し、人間がそれをキュレーションして磨き上げる」という協力スタイルは、今後の創作活動をより効率的で魅力的にする可能性を秘めています。
実際、大手のスタジオが最も求めているAI人材は、AIに高品質の大量の情報を吐き出させた上で、最も優れたものを選定できる人だと言われています。
AIと人間がそれぞれの得意分野を理解し、上手に組み合わせていけば、ミームに限らず様々なジャンルで、もっと面白くて質の高いコンテンツを生み出せる未来が待っているかもしれません。
元論文
One Does Not Simply Meme Alone: Evaluating Co-Creativity Between LLMs and Humans in the Generation of Humor
https://doi.org/10.1145/3708359.3712094
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部