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「ルールだから」従う人は何割?「罰も報酬もないルール」になぜ人は従ってしまうのか?


英ノッティンガム大学の研究チームが行ったオンライン実験によると、罰や報酬がない状況でも人はルールに従う傾向があることが示されました。この研究では、ルールに従う理由として「CRISPモデル(敬意、インセンティブ、社会的期待、社会的配慮)」を提案し、検証しました。実験では、罰がない状況でも6〜7割の人がルールを守りました。また、他人の行動が影響を及ぼすことも分かりました。この知見は公共政策や職場マネジメントに役立ち、たとえ無意味に見えるルールでも社会の安定に寄与すると考えられます。

横断歩道で明らかに車が来ていないのに赤信号を待つ。

ポスターに「さわらないでください」とあれば誰も触れない。

そして、誰かが見ているわけでもないので、罰が課されることはない状況。

なのに私たちはなぜ律儀にルールを守ってしまうのでしょうか?

この人間行動の謎に迫ったのが、英ノッティンガム大学(University of Nottingham)の研究チームです。

彼らはオンライン実験によって、人は罰も報酬もないのにルールに従う傾向があることを実証しました。

その理由には、私たちの「深層心理」と「社会的な期待」が関係しているようです。

研究の詳細は、2025年5月26日付の『Nature Human Behaviour』誌に掲載されました。

目次

  • 私たちはなぜルールを守るのか?
  • 多くの人は自分にメリットがなくても「ルールだから」それを守る

私たちはなぜルールを守るのか?

日常には無数のルールがあります。

法律、マナー、校則、職場ルール……書かれているものもあれば、暗黙の了解も含まれます。

私たちはこれらに縛られ、また守ることで秩序を維持しています。

しかし、全てのルールが合理的とは限らず、中には「守っても意味がないのでは?」と思うようなものもあります。

では、どうして人は、時に無意味にも思えるルールを守るのでしょうか。

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人が無意味に思えるようなルールに従うのはなぜか / Credit:Canva

この疑問に対し、これまで社会科学はさまざまな仮説を立ててきました。

例えば、「罰を恐れるから」、「他人の目があるから」、「人に迷惑をかけたくないから」、「“従うべき”という道徳的信念があるから」などです。

そこで今回の研究では、「人がルールにどれだけ従うかは4つの要素によって決まる」という考えである「CRISPモデル」を開発しました。

その1つ目は、他の人がどう思おうと関係なく「ルールだから守るべき」と感じる内側からの気持ちであり、これをルールに対する敬意(Respect)と呼びます。

2つ目は、罰を受けるかもしれない、ご褒美がもらえるかもしれないといった、外からの動機づけであり、これはインセンティブ(Incentives)と呼ばれます。

3つ目は、周囲の人が「このルールは守るべきだ」と思っていたり、実際に守っていたりすることから生まれる“空気”のことであり、これを社会的期待(Social Expectations)と呼んでいます。

4つ目は、自分の行動が他人に迷惑をかけるかどうかを気にする気持ちであり、これは社会的な配慮(Social Preferences)として表現されました。

研究チームは、この4つの心のはたらきが重なり合うことで、人はルールを守るかどうかを決めていると考えました。

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横断歩道を早く渡ると「より多くの通貨が得られる」という実験 / Credit:Canva

そしてこのCRISPモデルを検証するため、1万4000人以上を対象に、ある実験を行いました。

その実験内容は非常にシンプルです。

参加者全員はオンラインでテストに参加し、マネーユニット(MU)という通貨が与えられます。

そして画面上で横断歩道を渡るというゲームを行います。

最初に与えられる20MUは、横断歩道を渡り終えるまで1秒ごとに1MU減少するため、参加者はできるだけ早く渡ることでより多くの通貨を入手できます。

しかしこのゲームには唯一のルールがあります。

それが、「赤信号が表示されている間は止まり、青になるまで待ってから進む」というものです。

当然ながらこのルールを無視すれば、参加者はより多くの通貨を入手できます。

では、どんな結果になったでしょうか。

多くの人は自分にメリットがなくても「ルールだから」それを守る

実験では複数の段階にわけて「なぜ人はルールを守るのか?」が検証されました。

特に興味深いのは、第1段階の実験であり、ここでは違反しても罰はなく、他人に迷惑もかからず、しかも匿名で参加できるようになっていました。

つまり、ルール違反を阻むものは何もないような状況です。

それにもかかわらず、6〜7割の人がこのルールを守りました。

ルールを守ることで最初に獲得した通貨20MUのうち半分以上を失うにもかかわらずそうしたのです。

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6~7割の人はメリットが無くてもルールを守る / Credit:Canva

また他の実験からは、他人の行動が分かる状況にて 1人でも違反者がいると、ルールを守る人が減少することが分かりました。

しかし、たとえ6人の仲間がルール違反を行った場合でも、参加者の55%はなおルールを守ると分かりました。

この“筋金入りのルール遵守派”は、誰が何と言おうと、どんな誘惑を受けようとルールを破らないタイプといえますが、その割合が半分以上という結果は興味深いものです。

別の段階では「違反に対する罰」を導入しましたが、予想通り、これによってルールを守る人はさらに増えました。

そしてルールには、たとえそれが無意味なものに思えても、次のような効果があると分かります。

  • もともと内発的にルールを守る人が一定数存在する
  • 社会的な“空気”によって行動を決める人が多い
  • 他人の違反は感染するが、影響は限定的

この知見は、公共政策や職場マネジメントにおいて非常に有効です。

たとえば、「エコバッグを使いましょう「電車内でのマナーを守りましょう」といった“お願いベースの啓発”も、ルール自体があるだけで“従う空気”を生み出す可能性があるのです。

そしてもしかすると、たとえ意味がないように思えるルールだったとしても、多くの人は「ルールなんだから守らなきゃ」と感じ、その人間らしさが、社会を安定させているのかもしれません。

では次に、あなたが急いでいて、赤信号で車が全く見当たらない横断歩道を前にしたら、どうしますか?

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参考文献

Most people obey arbitrary rules even when it’s not in their interest to do so, experiments show
https://phys.org/news/2025-06-people-obey-arbitrary.html

元論文

Why people follow rules
https://doi.org/10.1038/s41562-025-02196-4

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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