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「性別適合手術」よりも「子供をもったこと」を後悔する割合の方が高い


アメリカのウィスコンシン大学の研究によると、性別適合手術に対する後悔率は1%未満で、他の人生の重大な選択よりも低いことが分かりました。この手術を受けた多くの人が後悔していない背景には、決断までの過程で厳格な準備と長期的な心理的支援があることが考えられます。性別適合手術は、精神医療のサポートやホルモン療法などを数年間受けて初めて行われるため、衝動的な決断がしにくく、自己との徹底した向き合いが、後悔を少なくする要因となっているようです。

「人は何を後悔し、何を後悔しないのか?」

人生の中で下す重要な選択には、時として「後悔」という副作用がついて回ります。

結婚、離婚、進学、転職、子どもを持つこと、そして自分の性別を変える手術。

これらはどれも後悔が付きまとう決定のように思えますが、以外にも「後悔されにくい決定」が含まれます。

アメリカのウィスコンシン大学(University of Wisconsin)の研究チームは、性別適合手術を受けた人の後悔率が、「子供を持つこと」など、他の人生の決断を後悔する割合に比べてはるかに低いことを明らかにしました。

いったいどうしてこのような結果になるのでしょうか。

この研究は2024年4月23日付の『American Journal of Surgery』誌に掲載されています。

目次

  • 性別適合手術で後悔する人は1%だが、子供を持って後悔する人は7%
  • なぜ性別適合手術は後悔が少ないのか?後悔しない決定をするには?

性別適合手術で後悔する人は1%だが、子供を持って後悔する人は7%

性別適合手術(GAS)は、身体的特徴を自身の性自認に一致させるための医療的介入であり、外科手術・ホルモン療法・社会的移行などが含まれます。

この分野はここ数十年で大きく進展しましたが、依然として政治的・社会的に議論の対象となっています。

特に、性別適合手術に関する「後悔」に関する主張は、しばしば医療アクセスを制限する根拠として使われるため、その実態を科学的に検証することには意義があります。

今回の研究を主導したウィスコンシン大学の研究チームは、性別適合手術に関する後悔の実態を明らかにするため、他の手術や人生の重大な選択における後悔率と比較する形で調査を行いました。

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性別適合手術を受けて後悔した人の割合を調査 / Credit:Canva

この系統的レビューには、合計55件の論文が含まれ、性別適合手術に関する後悔や美容整形に関する後悔を調査し、非医療的な人生における重大な決断に関する後悔などと比較されました。

その結果は興味深いものでした。

例えば、豊胸手術(乳房増大術)では最大9%、体形矯正手術(脂肪細胞を減らし体型を整える手術)では最大33.3%の後悔率が報告されていました。

さらに、医療とは無関係な決断として、子どもを持つことに関しては7%、タトゥーに関しては16.2%の人々が後悔していると報告されています。

では、性別適合手術においてはどうだったのでしょうか?

過去の大規模なオランダの研究では、1972年から2015年まで追跡されたトランスジェンダーの人々のうち、トランス女性の0.6%、トランス男性の0.3%が手術を後悔していると回答しています。

また、2021年に行われたメタ分析(27件の研究、7928人対象)でも、後悔率はわずか1%未満という結果でした。

これは、他の多くの医療・非医療の決断に比べて極めて低い割合です。

では、どうしてこのような結果になるのでしょうか。

なぜ性別適合手術は後悔が少ないのか?後悔しない決定をするには?

分析の結果が示すように、性別適合手術を受けた人々のほとんどは手術を後悔していません。

一方で、子どもを持つことや、タトゥー、豊胸手術といった決断は、性別適合手術よりも高い割合で後悔されています。

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子供を持って後悔する確率は、性別適合手術を受けて後悔する確率よりも高い / Credit:Canva

この差の背景には、決断に至るまでの準備の厳密さと長期的な心理的支援があると考えられます。

性別適合手術を受けるには、数年間にわたる精神医療のサポート、ホルモン療法の実施、トランスジェンダーとしての社会的移行、医療従事者による多角的な評価などの多くの過程を通過しなければいけません。

これらの条件をクリアして初めて手術が行われるため、「衝動的な決断」はまず存在しません。

むしろ、自分自身と徹底的に向き合い、内面から納得した上での選択であることが多く、このことが後悔する人が少ないことに繋がっていると考えられます。

ただし、今回の研究には限界もあります。

性別適合手術における後悔を抱える人の中には医療機関に戻ってこない人も多く、統計的に過小評価されている可能性があります。

また、トランスジェンダー当事者の後悔は政治的に利用されやすく、発言が抑圧されやすい環境にあるとも指摘されています。

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重要な決定をする際には、時間をかけて熟慮し、自分を見つめることが大切 / Credit:Canva

それでも今回の研究は、後悔という感情を手がかりに、医療倫理や個人の尊厳について再考する契機を提供しています。

また、どのようなプロセスが重要な決定に後悔を生じさせないかも理解できます。

手術などが行われるまでの面倒に思える手順と時間も、内面を見つめる機会とみなすなら、後になってがっかりすることは少ないはずです。

同様に人生における重要な決断も、そのことについて徹底的に考慮することで、悔いを残すことを減らせるはずです。

もしかしたら「後悔しない」秘訣は、たった一つの正解を見つけて選ぶことではなく、「本当に自分自身と向き合ったかどうか」にあるのかもしれません。

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参考文献

People regret having kids far more than having gender-affirming surgery
https://newatlas.com/health-wellbeing/regret-gender-affirming-surgery/

元論文

A systematic review of patient regret after surgery- A common phenomenon in many specialties but rare within gender-affirmation surgery
https://doi.org/10.1016/j.amjsurg.2024.04.021

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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