「木の温もりを残したまま、より頑丈にできたら」
そんな想像を実現したのが、アメリカ、メリーランド大学カレッジパーク校(University of Maryland, College Park)の研究者と、それを商用化するために設立されたInventWood社です。
これらの研究で開発された強化木材は鋼鉄に比べて引張強度が50%も高いと分かっています。
研究結果は2018年2月7日に『Nature』誌で発表されました。
そして商品であるスーパーウッドは、2025年中に出荷予定です。
目次
- 温もりのある便利な木材を「もっと強く」する研究
- 鋼鉄より強度が50%高い「スーパーウッド」が2025年の夏に出荷!
温もりのある便利な木材を「もっと強く」する研究

木材は古来より人類の文明を支えてきた重要な材料です。
木材特有の美しさや温もり、加工のしやすさ、再生可能性など、木には重要なメリットが数多くあります。
それらを保ちつつ、構造材料としての実用性を大きく向上させられるなら、木材の幅は一層広がるに違いありません。
そんな新たな挑戦として、木材の強度を高める技術開発が始まりました。
そして2018年、メリーランド大学の研究者たちは、通常の木材を「変身」させるための手法を開発しました。

その手法の第1段階では、NaOH(水酸化ナトリウム)とNa2SO3(亜硫酸ナトリウム)を混ぜた水溶液で木材を煮沸します。
これによって、木材内部のリグニンとヘミセルロースが一部除去され、構造が柔らかくなります。
第2段階では、その木材を高温で加熱&加圧します。
この過程で、木材内部の細胞壁がならされてきっちりとつぶれ、内部の空洞が消えます。
微細なナノファイバーがしっかりと一方向に整列する構造になるのです。
この構造は、自然の木にはない細かいレベルでの整然とした構造を作り出し、強度、耐久性、耐弾性を飛躍的に向上させることに繋がりました。
では、こうして生まれたスーパーウッドはどれほどの性能をもつのでしょうか。
鋼鉄より強度が50%高い「スーパーウッド」が2025年の夏に出荷!

開発された強化木材「スーパーウッド」は、InventWood社によって商用化が進められています。
実際の測定によれば、一般的な木材と比べて強度重量比は10倍です。
また引張強度は鋼鉄よりも50%以上高くなります。
さらに、クラスAの耐火性能をもち、虫やカビ、傷に対しても優れた耐久性を示すため、建築物の外装や構造の材料としての活用が期待されています。
このスーパーウッドは鋼鉄やチタン合金に代わる、より安価で軽量、かつ再生可能な代替品としての可能性を秘めているのです。

そしてその可能性の一部は、この2025年に実現しそうです。
同社は1500万ドルの資金調達に成功しており、2025年の夏にはスーパーウッドを出荷する予定です。
ちなみに、研究者によると、スーパーウッドに利用された手法は、様々な種類の木材に適用できるようです。
もしかしたら今後、より多様な「スーパーウッド」が誕生し、私たちの身のまわりで活躍するかもしれません。
参考文献
‘Superwood’that’s 50% stronger than steel is coming this year
https://newatlas.com/materials/superwood-stronger-steel-inventwood/
InventWood is about to mass-produce wood that’s stronger than steel
https://techcrunch.com/2025/05/12/inventwood-is-about-to-mass-produce-wood-thats-stronger-than-steel/
Stronger than steel. The soul of wood. Launching Summer 2025.
https://www.inventwood.com/
元論文
Processing bulk natural wood into a high-performance structural material
https://doi.org/10.1038/nature25476
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部