私たちが日常的によく耳にするウイルスといえば、インフルエンザやコロナウイルスです。
そんな中、フィンランド・ユヴァスキュラ大学(University of Jyväskylä)は最近、インフルエンザやコロナウイルスの倍以上も大きい新たな巨大ウイルスが同国で初めて発見されたと報告しました。
これは新たに「ユヴァスキュラウイルス(Jyvaskylavirus)」と命名されています。
しかし幸いにも、ユヴァスキュラウイルスは人間にとって危険なものではないようです。
研究の詳細は2025年3月25日付で科学雑誌『eLife』に掲載されています。
目次
- 「巨大ウイルス」とは何なのか?
- 新たに見つかった「ユヴァスキュラウイルス」
「巨大ウイルス」とは何なのか?
ウイルスは「生物」とも「無生物」ともつかない中間的な存在です。
ウイルスは細菌とは違って自ら増殖する力を持っておらず、他の生物の細胞に侵入し、その細胞の力を借りてのみ自己複製できます。
またウイルスはご存知のとおり、非常に小さな存在であり、一般的な滅菌用ろ過フィルター(孔径は0.2マイクロメートル)では除去できません。
例えば、人体に有害なインフルエンザウイルスは約0.08〜0.12マイクロメートル、コロナウイルスは0.06〜0.14マイクロメートルとされています。

その一方で、ウイルスの中には、滅菌用ろ過フィルターの穴のサイズよりも大きなものが存在します。
これが一般に「巨大ウイルス」と称されるものです。
基本的には、粒径が0.25マイクロメートル以上のものを巨大ウイルスと定義しており、これまでで最も大きなウイルスは、粒子の長径が1.2マイクロメートルに達する「パンドラウイルス」とされています。
そしてこのほど、フィンランド国内では初となる巨大ウイルスが発見されたのです。
新たに見つかった「ユヴァスキュラウイルス」
研究チームは今回、フィンランド中部で採取された土壌サンプルを調べている際に、これまで見たことのない巨大ウイルスを発見しました。
この巨大ウイルスは直径0.25マイクロメートルに達し、一般的なインフルエンザウイルスやコロナウイルスの2倍のサイズがありました。
このウイルスは発見した大学の研究チームにちなんで、「ユヴァスキュラウイルス(Jyvaskylavirus)」と命名されています。

ウイルスと聞くと、どうしても人体に害のある危険な存在だと思われがちです。
しかし実際は、地球上にいるほとんどのウイルスが人体にとっては無害であることがわかっています。
そしてユヴァスキュラウイルスも現時点での調査では、人体にとって悪影響はないことが示されています。
ユヴァスキュラウイルスはアカントアメーバというアメーバの一種に感染するものであり、人体には病原性を示さないと考えられているのです。

研究チームは、ユヴァスキュラウイルスの発見には大きな価値があると見ています。
これまで巨大ウイルスは、ヨーロッパや南米、北アフリカの比較的温暖な地域で発見されてきましたが、フィンランドのような寒冷地からも見つかったことで、巨大ウイルスが地球全体に広く存在している可能性が示されました。
またユヴァスキュラウイルスはアメーバに感染することで、アメーバの数をコントロールしていると見られ、微生物の生態系のバランスを保つ役割を果たしていると推測されています。
さらに巨大ウイルスの研究は、ウイルスの進化や構造に関する理解を深め、生命の起源やナノテクノロジーへの応用研究にもつながるでしょう。
参考文献
New giant virus isolated in Jyväskylä for the first time in Finland
https://www.jyu.fi/en/news/new-giant-virus-isolated-in-jyvaskyla-for-the-first-time-in-finland
元論文
Genomic and structural insights into Jyvaskylavirus, the first giant virus isolated from Finland
https://doi.org/10.7554/eLife.103492.3
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部