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悲劇的な芸術の鑑賞は「ポジティブな感情体験」を生み出すと判明


米ニューヨーク市立大学の研究によると、悲劇的な芸術作品の鑑賞はポジティブな感情体験をもたらすことが明らかになりました。研究は、難民の苦しみを描いた彫刻作品のビデオ視聴を通じて、多くの参加者が心を動かされ、意味のある体験をしたと感じたことを示しています。この感情的な反応は、共感や社会的態度の変化を促す可能性があるとされています。悲劇のアートに対する人々の惹かれ方は、単なる感傷以上の深い人間的動機に基づく行動として再評価されています。研究はまた、こうした芸術体験が他のメディアでも同様に影響を与えるかどうかの確認を未来に期待しています。

悲劇的な芸術作品の鑑賞は、意外にもポジティブな感情体験をもたらすことが明らかになりました。

米ニューヨーク市立大学(CUNY)の研究チームは、難民の苦しみを描いた彫刻作品のビデオを通じて、人々が悲しみとともに「心が動かされる感覚」や「意味深い体験」を得ていることを発見。

また、この現象は単なる感動を超えて、共感や社会的態度の変化にもつながる可能性が認められました。

研究の詳細は2025年3月19日付で心理学雑誌『The Journal of Positive Psychology』に掲載されています。

目次

  • なぜ人は悲劇を求めるのか?
  • 悲劇を通じて、ポジティブな感情が湧いていた

なぜ人は悲劇を求めるのか?

美術館で戦争を描いた絵画や彫刻の前に立ちすくみ、じっと魅入る人。

こうした光景は決して珍しいものではありません。

一見すると、苦しみや悲しみを描いた芸術作品は、私たちの心に重たい感情をもたらしそうですが、実際にはなぜか多くの人がこうした作品に強く惹かれる傾向があります。

心理学ではこの現象を“悲劇のパラドックス”とも呼び、古代ギリシャの悲劇作品から現代の社会問題をテーマにしたアートまで、時代や文化を超えて人々が悲しい物語に魅了されてきた理由として知られています。

悲劇をテーマにした有名な芸術作品としては、例えば、

・スペイン内戦中のバスク地方の爆撃を描いたパブロ・ピカソの『ゲルニカ』

・ナポレオン軍によるスペイン人処刑の瞬間を描いたフランシスコ・デ・ゴヤの『1808年5月3日、マドリード』

などがあります。

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ゴヤ『1808年5月3日、マドリード』/ Credit: ja.wikipedia

これまでも、悲劇的な作品は鑑賞者に「感動」や「共感」をもたらすとされてきましたが、その感情がどのような心理的効果を生むのかは具体的によくわかっていませんでした。

また、ポジティブな感情を求める現代社会において、あえて辛い作品に触れようとする行動は、合理的に説明しにくい側面もあります。

研究チームはこうした疑問に対し、「人は感情的に困難な芸術体験を通じて、むしろ心理的に充足感を得ることがあるのではないか」との仮説を立て、実験的に検証することにしました。

研究主任のジェニファー・E・ドレイク(Jennifer E. Drake)氏はこう説明しています。

「最も偉大な芸術作品の多くは、人間の痛みや苦しみを描いています。

私たちは日常生活で悲劇を避けようとする一方で、なぜかそうした悲劇的な芸術作品には惹かれてしまいます。

今回の研究では、なぜ私たちはこうした作品に惹かれるのか、そしてそれを鑑賞することで予期せぬ恩恵があるのかを検証しました」

悲劇を通じて、ポジティブな感情が湧いていた

研究は2つの段階で行われました。

第1の実験では、アメリカ在住の成人150名がオンラインで参加し、彫刻家スーザン・クリナード(Susan Clinard)氏による難民の苦しみを描いた彫刻作品のビデオを視聴してもらいました。

視聴後、参加者は「どれほど心が動かされたか」「どれほど意味のある体験だったか」について評価し、ポジティブおよびネガティブな感情の強さも記録しました。

結果として、多くの参加者は辛い感情を抱くと同時に、「心が動かされた」「意味のある体験だった」といったポジティブな感情を同時に経験していることがわかりました。

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Credit: canva

また第2の研究では、保守的傾向のある米国成人150名を対象に、同様の実験を行い、ビデオ視聴の前後で「難民に対する感情がどれだけ変化したか」を測定しました。

すると、視聴後には難民に対する態度が明確により同情的に変化しており、この変化は視聴中に抱いた強い感情と密接に関係していました。

驚くべきことに、感情的反応が強い人ほど、ポジティブ・ネガティブの区別なく、より共感的な態度に変化していたのです。

つまり、「悲しい芸術」は必ずしもネガティブな体験にのみ繋がるのではなく、むしろ社会的共感を育むポジティブな可能性を持っていることが示されたのです。

これは人々が悲劇的な作品に惹かれる理由を、単なる感傷ではなく、深い人間的な動機に基づく行動として捉え直す視点を与えてくれます。

今後は、実際の美術館や他のメディア(映画、文学など)における悲劇的な芸術の体験が同様の効果を持つかどうか、またその効果が長期的に持続するかを探る研究が期待されます。

人は悲しみを通じて他者への優しさを学び、そして、それこそが私たちがアートを必要とする最大の理由のひとつなのかもしれません。

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参考文献

New psychology research reveals the paradoxical benefits of viewing tragic art
https://www.psypost.org/new-psychology-research-reveals-the-paradoxical-benefits-of-viewing-tragic-art/

元論文

The paradoxical benefits of viewing tragic art
https://doi.org/10.1080/17439760.2025.2481053

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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