オーロラは地球上で見れる神秘的な現象の一つです。
しかしオーロラは地球だけでなく、木星や土星など他の太陽系惑星でも観察されていました。
ただし、地球より40倍以上も太陽から遠く離れた「海王星(Neptune)」では、オーロラが捉えきれていませんでした。
そんな中、英ノーサンブリア大学(Northumbria University)らの最新研究で、ついに海王星の上空に輝くオーロラが史上初めて観測されたのです。
研究の詳細は2025年3月26日付で科学雑誌『Nature Astronomy』に掲載されています。
目次
- 海王星のオーロラは地球とは違う?
- ついに海王星のオーロラが捉えられた!
海王星のオーロラは地球とは違う?
オーロラと聞くと、地球の北極や南極で見られる幻想的な光のカーテンのよう光景がすぐに思い浮かべられます。
これは太陽から飛んできた高エネルギー粒子が地球の磁場に捉えられ、大気の上層にぶつかって発光することで生じる現象です。
実は地球だけでなく、木星や土星、天王星といった巨大ガス惑星でもオーロラは確認されてきました。
しかし、太陽系の最果てにある海王星だけは、長年オーロラが確認されず、謎とされていたのです。

1989年にNASAのボイジャー2号が海王星をフライバイした際に、オーロラらしき兆候は見られたものの、確証には至りませんでした。
原因の一つは、海王星の磁場が非常に複雑で、自転軸に対して47度も傾いていることにあります。
このため、海王星のオーロラは地球のように極圏には現れません。
極ではなく中緯度、地球でいえば南米あたりに現れるのです。
さらにオーロラ観測のカギとなる「三水素カチオン(H3+)」という分子イオンも、木星や土星では簡単に観測できるのに、なぜか海王星ではこれまで30年以上見つからず、天文学者たちを悩ませてきました。
その背景には、上空の大気温度の急激な変化や、観測技術の限界があったのです。
ついに海王星のオーロラが捉えられた!
研究チームは今回、NASAのジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の近赤外線分光器を用いて、2023年6月に海王星を観測しました。
観測は2回に分けて行われ、惑星の異なる経度(172度離れた位置)から別々にデータを取得することで、ほぼ地球から見える全面をカバーする形となっています。
近赤外線分光器は2.87〜5.27マイクロメートルの波長帯を高い解像度で捉えることができ、この範囲には三水素カチオン(H3+)に特有の輝線が含まれています。
そして観測の結果、明確にH3+のスペクトルが観測されただけでなく、赤外線のオーロラが南半球の中緯度に局所的に存在することがわかったのです。
このH3+の輝きは周囲よりも約1.7倍も強く、他の惑星で見られるオーロラと同様に、粒子が磁場に沿って大気に降り注いで発生したと考えられます。

さらに驚きだったのは、海王星の大気表面の温度が1989年当時の約750K(摂氏約480度)から、358K(約85度)にまで低下していたことです。
この温度の違いが、これまで海王星のH3+が検出されなかった大きな理由だったことも今回の研究で示されました。
低温では発光が非常に弱くなるため、従来の地上望遠鏡では明るい雲の反射に埋もれてしまい、検出が困難だったのです。
また、この大幅な温度低下は、季節や太陽活動サイクルといった長期的な変動だけで説明できず、海王星における未知の短期的な変化が関与している可能性を示しました。
今回の成果は、世界最高峰の観測機器であるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)のおかげでもあります。
JWSTは太陽系の謎を解き明かすとともに、遠方の恒星系や、宇宙の構造・起源、そして私たちの存在の意味を探るという壮大な使命を担っています。
今後もJWSTの活躍によって、知られざる宇宙の姿が見えてくるかもしれません。
参考文献
NASA’s Webb Captures Neptune’s Auroras For First Time
https://science.nasa.gov/missions/webb/nasas-webb-captures-neptunes-auroras-for-first-time/
Webb captures Neptune’s auroras for the first time
https://esawebb.org/news/weic2507/
元論文
Discovery of H3+ and infrared aurorae at Neptune with JWST
https://doi.org/10.1038/s41550-025-02507-9
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部