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血圧を下げる薬がADHD治療薬として驚くべき可能性を秘めている


イギリスのポーツマス大学の研究により、血圧降下薬アムロジピンがADHDの新たな治療選択肢になる可能性が示唆されました。現在のADHD治療薬には副作用や依存リスクがあるため、新しい治療方法が求められています。研究ではアムロジピンがADHD特有の過活動や衝動性を抑える可能性が確認され、Mendelian randomization解析を通じてカルシウムチャネル関連遺伝子変異がADHDリスクに影響を与えることが示されました。安全性と利用のしやすさを考慮すると、アムロジピンは今後のADHD治療において重要な役割を果たす可能性があります。これにより、既存治療薬に効果を示さない患者への新しい治療オプションになることが期待されています。さらに同種のL型カルシウムチャネルを標的とする他の薬剤の開発も視野に入れています。

「“血圧を下げる薬”が、多動症(ADHD)の新たな治療選択肢になり得るかもしれない――イギリスのポーツマス大学(University of Portsmouth)で行われた研究によって、そんな驚きの研究結果が明らかになりました。

現在のADHD治療はメチルフェニデートやアンフェタミン系の薬が中心ですが、食欲不振や不眠といった副作用、さらに乱用や依存のリスクが懸念されるほか、約4人に1人は十分な効果を得られないという課題があります。

そこで今回注目を集めているのが、血圧降下薬として世界中で広く処方されている「アムロジピン」。

研究グループはまず、ラットや遺伝子操作を行ったゼブラフィッシュなど多様な動物モデルを用いて、この薬がADHDの主要症状である過活動や衝動性を抑える可能性を確認しました。

さらに、ヒトの大規模遺伝データを解析する最先端の手法「Mendelian randomization(MR)」を駆使したところ、アムロジピンが作用するカルシウムチャネル関連遺伝子変異がADHDリスクに因果的な影響を及ぼす可能性が示唆されたのです。

アムロジピンはニフェジビンと一緒に現在のカルシウムチャネルを制御するタイプの降圧剤として、最も使われている成分です。

既存薬では十分に改善しない患者さんにとって、新たな選択肢となる期待が高まる成果です。

安全性や入手しやすさという面でも有利とみられており、今後の臨床研究によって“血圧の薬”が脳の働きをどのように変え、ADHD治療にどこまで貢献できるのかが明らかにされていくでしょう。

研究内容の詳細は『Neuropsychopharmacology』にて発表されました。

目次

  • ADHDの薬探しに血圧降下薬が引っかかった
  • 血圧降下剤「アムロジピン」は人間のADHDにも効果があるかもしれない

ADHDの薬探しに血圧降下薬が引っかかった

血圧を下げる薬がADHD治療薬として驚くべき可能性を秘めている
血圧を下げる薬がADHD治療薬として驚くべき可能性を秘めている / Credit:Canva

注意欠如・多動症(ADHD)は、世界人口の2~5%にみられるとされる発達障害です。

子どもの頃から不注意や多動・衝動性といった症状が続く場合が多く、日常生活や対人関係に深刻な影響を及ぼしやすいのが特徴です。

主流の治療としてはメチルフェニデートやアンフェタミン系薬剤などの刺激薬が処方されますが、食欲不振や高血圧、頭痛、不眠などの副作用に加え、依存や乱用のリスクも懸念されます。

また患者のうち約25%は、これらの刺激剤を飲んでも症状に目立った回復がみられないことが報告されています。

こうした背景を踏まえ、研究チームはゼブラフィッシュを用いた遺伝子操作モデルを構築し、ADHD症状を示す個体を対象に複数の化合物の効果を検証しました。

その結果、アムロジピンを含む5種の化合物が有望な候補として浮上しました。

アムロジピンは血圧を下げる目的で世界的に広く使用されている薬であり、副作用や安全性についての実績も豊富です。

ただし、本当にADHD症状にも効果を発揮するのか、そしてどのように脳へ作用するのかは十分に検証されていません。

そこで研究者たちは、ラットをはじめとする動物モデルやヒトの大規模遺伝データを使い、アムロジピンの「ADHD治療薬としての可能性」を多角的に確かめることにしました。

すると、アムロジピンを投与した個体では衝動性が低下し、ADHDの主要症状のひとつである“衝動的な反応”が緩和される可能性が示されました。

血圧降下剤「アムロジピン」は人間のADHDにも効果があるかもしれない

血圧を下げる薬がADHD治療薬として驚くべき可能性を秘めている
血圧を下げる薬がADHD治療薬として驚くべき可能性を秘めている / Credit:Canva

次に研究者たちは、アムロジピンが脳へどの程度作用しているのかを確かめるため、血液脳関門(BBB)の透過性を評価しました。

ゼブラフィッシュ成体やラットの脳内を解析した結果、投与後の脳組織からアムロジピンが検出され、脳神経の活性化指標であるc-Fosが減少していることが確認されました。

従来、アムロジピンはBBBを通りにくいとされていましたが、条件次第では中枢に十分作用しうることが裏付けられました。

さらに、ヒトを対象とした大規模データ解析にも踏み込み、ゲノムワイド関連解析(GWAS)の情報をもとに遺伝的な因果関係を探る「Mendelian randomization(MR)」手法を駆使して、アムロジピンが結合するカルシウムチャネル関連遺伝子変異の解析を行いました。

その結果、これら遺伝子変異をもつ人はADHDリスクが有意に変化する可能性が示され、アムロジピンの作用機序とADHDとの関連が支持される結果が得られました。

加えて、英国のバイオバンク(UK Biobank)が蓄積している大規模な健康・遺伝データにおいても、アムロジピン服用者はADHDリスクに関連するとされる“気分の乱高下”や“リスキーな行動”の自己報告率が低い傾向が確認されました。

同じ降圧薬でもアムロジピン以外の種類にはそのような傾向が見られなかったことから、単なる降圧効果だけでは説明できない脳機能への影響があるのではないかと考えられています。

こうした一連の実験とデータ解析の結果から、アムロジピンは血圧低下だけでなく、ADHD症状の改善にも寄与しうる薬剤として大きな可能性を示しました。

安全性が確立され、広く使用されている降圧薬がADHDの中核症状に作用しうるという事実は、実用的な観点からも大きなメリットがあります。

既存の治療薬に十分応答しない患者さんや副作用が強く出るケースに対して、新たな選択肢となる可能性があると期待されます。

今後は、より大規模な臨床試験を経て、アムロジピンがどの程度ADHD治療に寄与できるかが明らかにされていくでしょう。

研究者たちは本研究の成果を足がかりに、同じくL型カルシウムチャネルを標的とする他の降圧薬や新しい分子の開発にも着目しており、ADHD治療の幅をさらに広げることが期待されています。

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元論文

Validation of L-type calcium channel blocker amlodipine as a novel ADHD treatment through cross-species analysis, drug-target Mendelian randomization, and clinical evidence from medical records
https://doi.org/10.1038/s41386-025-02062-x

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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