「テレビゲーム」と聞くと、大きな画面の中のキャラクターを操作するものを思い浮かべるでしょう。
しかし、現実のナノ粒子を動かしながらプレイする世界最小のゲームが登場しました。
この革新的な技術を発表したのは、名古屋大学の星野隆行氏らの研究チームです。
彼らは、この微小なシューティングゲームにより、情報空間とナノ物理空間をリアルタイムにつなぐ「ナノ複合現実」を実証しました。
研究の詳細は、2025年1月8日付で『Japanese Journal of Applied Physics』誌に掲載されました。
目次
- ナノスケールでシューティングゲームが可能に
- 最新のナノ技術が「情報空間と物理空間をつなぐ」
ナノスケールでシューティングゲームが可能に
今回の研究では、ナノサイズに収束した電子線を高速走査することにより、ディスプレイ面に電場と光学像の動的パターンを生成して、ナノ粒子との間に働く力場をリアルタイムに制御することに成功しました。
鍵となるのは、力場呈示ディスプレイと呼ばれるナノスケールのディスプレイ技術です。
このディスプレイは、厚さ100nmの窒化シリコン(SiN)薄膜を使用しており、その裏側から走査した集束電子線により、光学像と電場パターンを動的に生成します。
電子線が入射した場所では、電気力線に従う力場が発生。薄膜上のナノ粒子が移動するのです。

これにより、ナノ粒子を自由に動かし、プレイヤーがコントロールできる環境が作り出されます。
そしてデモンストレーションでは、プレイヤーがジョイスティックを使って呈示した自機(二等辺三角形状)と弾(ナノドット)を操作し、現実のナノ粒子(ポリスチレン球)を撃ち飛ばすシューティングゲームをプレイしました。
ナノ世界で実際の物質と仮想キャラクターが相互作用するという、これまでにないゲーム体験が実現したのです。
最新のナノ技術が「情報空間と物理空間をつなぐ」

今回の研究では、「複合現実」を実証しました。
複合現実とは、VR技術の派生技術であり、現実の物理空間とコンピュータ上の情報空間を物理的につなぐ技術のことです。
情報空間から物理空間に干渉でき、同時に物理空間で起きたことが情報空間に反映されることで、両空間の境目がなくなったように感じられます。
従来のナノツールは、物質的な物をあらかじめ用意して作業する必要がありました。
しかし今回の成果では、コンピュータ上のデータから直接力場を呈示することによって、何もない空間にバーチャルな物体やツールを出現させることを可能にしたのです。
研究チームによると、この技術をさらに発展させることで、ナノ物質に情報空間を重ね合わせる「分子・コンピュータ・インターフェース」を生み出すことができるかもしれません。
コンピュータ上から微粒子を集合させる力場を制御し、何もない空間にナノ構造体を・生成・消去することさえ可能になるかもしれないのです。
参考文献
リアルなナノ粒子を自在に操作できる世界最小TVゲーム 情報空間と物理空間をつなぐ複合現実ディスプレイを開発
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2025/01/tv.html
元論文
Electron-beam induced electro-force field display for a dynamical biomanipulation system
https://doi.org/10.35848/1347-4065/ada707
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部