夏の暑さが年々厳しくなっていると感じる人は多いかもしれません。
しかし、未来の地球では「暑い」を通り越して、「人間の命を脅かすレベルの暑さ」が広がるかもしれないという衝撃的な研究結果が発表されました。
イギリスのキングス・カレッジ・ロンドン(King’s College London)の研究チームは、今世紀末までに地球上で「暑すぎて住めない」範囲が3倍に拡大する可能性があることを明らかにしました。
この研究の詳細は、2025年2月4日付で『Nature Reviews Earth &Environment』誌に掲載されています。
目次
- 人の命を脅かすほどの「暑さ」とは?
- 今世紀中に「住めないほど暑い」地域が3倍に拡大する
人の命を脅かすほどの「暑さ」とは?
地球温暖化の影響で、異常気象が増加していることは広く知られています。
しかし、単なる「猛暑」ではなく、「人間にとって危険なレベルの暑さ」が問題になっていることをご存じでしょうか。
暑さが命を脅かすのは、体温を調整できなくなることが原因です。

私たちは汗をかくことで体温を下げますが、湿度が高すぎると汗が蒸発せず、体温がどんどん上昇してしまいます。
この限界点を示すのに用いられるのが「湿球温度」であり、周囲の湿度を踏まえた上での温度を示します。
(湿球温度は、温度計の先端を水で湿らせたガーゼで包んだ状態で測定されます)
これまでの研究によると、湿球温度35℃が人体の耐えられる最高温度だとされてきました。
これは、「湿度100%のときは35℃まで、湿度50%のときは46℃まで人体が耐えられる」ことを意味します。
そしてこの限界を超えると、人はどれだけ水を飲んでも、どれだけ風を浴びても、体温が下がらず、数時間以内に命の危険が生じるのです。
またペンシルベニア州立大学(PSU)の2022年の研究では、これらの定説よりも実際の限界が低いことも示されました。
その研究では、人体が耐えられる湿球温度の上限は、35℃より低く、湿度100%で30〜31℃だと報告されています。
特に暑さに弱い高齢者では、この数値がもっと低くなるでしょう。
そして今回、イギリスのキングス・カレッジ・ロンドン(King’s College London)の研究チームは、そのような「危険な暑さ」の範囲が拡大すると報告しました。
今世紀中に「住めないほど暑い」地域が3倍に拡大する

キングス・カレッジ・ロンドンの研究チームは、過去30年間の気象データと人間の体温調整能力に関するデータを統合し、「人間が耐えられる暑さの限界」を計算しました。
その結果、チームは、年齢や気温・湿度の組み合わせで左右される「2つのしきい値」を設定しました。
1つは「uncompensable threshold」と呼ばれており、人間の体温が制御不能になる状態です。
これは、湿球温度19~32℃に該当し、この範囲では、特に高齢者の体温調整機能が追いつかず、熱中症リスクが大幅に上昇します。
「人が住めないほどの暑さ」ですが、過去30年間で、高齢者の約21%がこの暑さの影響を受けた地域に住んでいたことも分かっています。
ちなみに、若年層でこのしきい値を超える地域は、全体の2.2%でした。
もう1つは、「unsurvivable threshold」と呼ばれ、人間の体温が6時間以内に42℃に上昇する状態です。
湿球温度は20~34℃であり、この範囲に達すると、命を落とす可能性が高くなります。
過去30年間で、このしきい値を超えたのは高齢者だけであり、しかも該当する場所は、全陸地の約1.8%だけでした。
しかし、温暖化はますます進んでいます。
地球の平均気温は、産業革命以前の水準より既に1.5℃以上、上昇しています。
この悲惨な節目を迎えたのはつい昨年のことです。
2024年の世界の平均気温は、19世紀後半の平均気温(産業革命以前産業革命以前の水準を示すのによく用いられる)より1.6℃も高かったのです。
温暖化がこのまま進むと、2100年までに平均気温はさらに0.5℃上昇する恐れがあります。

そして研究チームは、そのような状態になると、若年成人にとっての「uncompensable threshold」にあたる陸地面積が3倍になると報告しました。
つまり、健康な成人でも移住できないほど暑い陸地面積が3倍に拡大するというのです。
これは、アメリカとほぼ同じ大きさの陸地が、そのような危険地帯になることを示唆しています。
特に深刻な影響を受けるのは、アフリカ、南アジアの一部です。
これらの地域では、定期的に湿球温度35℃に達する可能性があり、大規模な人命被害が懸念されています。
この研究は、「地球温暖化は単なる気温の上昇ではなく、人類の生存を脅かすレベルに達しつつある」ことを警告しています。
未来が「焼けるような世界」にならないために、早急な対策が必要です。
参考文献
Places on Earth Too Hot For Humans Will Triple This Century, Scientists Warn
https://www.sciencealert.com/places-on-earth-too-hot-for-humans-will-triple-this-century-scientists-warn
Half a degree rise in global warming will triple area of Earth too hot for humans
https://www.kcl.ac.uk/news/half-a-degree-rise-in-global-warming-will-triple-area-of-earth-too-hot-for-humans
元論文
Mortality impacts of the most extreme heat events
https://doi.org/10.1038/s43017-024-00635-w
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部