あなたの職場の上司はどんな人ですか?
部下の意見をよく聞くリーダーと自分の意見を押し通すリーダー、どちらのほうが職場の雰囲気が良いかは想像に難くないでしょう。
ただ実際に「謙虚なリーダー」が職場のメンタルヘルスや働きがいにどれほど影響を与えるのかについては、これまで十分に検証されていませんでした。
この疑問に答えたのが、東京大学 先端科学技術研究センターの研究チームです。
研究者らは、日本の中央省庁の職員1088名を対象に、リーダーの謙虚さが職場の心理的安全性を高め、結果として職員のメンタルヘルスとエンゲージメント(働きがい)を向上させることを明らかにしました。
研究の詳細は2025年2月18日付で学術誌『Journal of Public Administration and Policy Research』に掲載されています。
目次
- リーダーの「謙虚さ」が働きやすい職場を作る?
- リーダーが謙虚だと、職員の「やる気」が向上
リーダーの「謙虚さ」が働きやすい職場を作る?
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職場のリーダーシップが社員の働きやすさや生産性に影響を与えることは、多くの研究で指摘されてきました。
たとえば、「サーバント・リーダーシップ(Servant Leadership)」という理論では、リーダーは支配的な存在ではなく、部下が力を最大限に発揮できるように促し、成長や幸福を支援する役割を担うべきであるとされています。
また「心理的安全性(Psychological Safety)」の概念も、職場における生産性や創造性を高める要因として注目されています。
心理的安全性とは、部下が自分の意見を自由に言えたり、失敗を恐れずに行動できる環境が整っている状態のことです。
研究者によれば「心理的安全性が高い職場では、社員が積極的にアイデアを出し、ミスを学習の機会と捉えることができる」と指摘されています。
では、職場の心理的安全性を高める最適な方法とは何でしょうか?
今回の研究が示したのは、「リーダーの謙虚さ」がその鍵である可能性が高いということです。
リーダーが謙虚だと、職員の「やる気」が向上
東京大学の研究チームは今回、中央省庁の職員1088名を対象にオンライン調査を実施しました。
調査では、
・リーダーの謙虚さ(部下の意見を尊重する、間違いを認めるなど)
・職場の心理的安全性(自由に発言できるか、ミスを恐れずに行動できるか)
・メンタルヘルス(ストレスや抑うつの程度)
・エンゲージメント(仕事への意欲や満足度)
といった項目を測定しました。
その結果、リーダーの謙虚さが高いほど、職員の心理的安全性が向上し、それがメンタルヘルスの改善やエンゲージメントの向上につながることが明らかになりました。
これは「謙虚なリーダーがいる職場では、部下が安心して意見を言えるため、ストレスが減り、仕事への満足度が高まる」ということを示しています。
さらに興味深い点として、リーダーの謙虚さが直接メンタルヘルスやエンゲージメント(働きがい)を向上させるのではなく、「心理的安全性」を介して影響を与えることがわかりました。
つまり、単にリーダーが「謙虚」なだけでは不十分で、それがまずは「部下が安心して発言できる環境づくり」につながることが重要なのです。
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今回の研究は、日本の中央省庁を対象としたものでしたが、民間企業にも十分応用できる結果です。
多くの企業では「カリスマ的なリーダー」や「強いリーダーシップ」が求められることが多いですが、それが必ずしも良い職場環境を生むとは限りません。
むしろ、部下の意見を尊重し、失敗を許容する「謙虚なリーダー」がいる職場の方が、社員のメンタルヘルスが良好で、働きがいも高くなる可能性があります。
この研究結果は、リーダーのあり方を見直し、心理的安全性を高めるためのヒントを提供しています。
あなたの職場のリーダーは、部下の意見をどれくらい尊重していますか?
これからの時代、職場の幸福度を上げるために「謙虚なリーダーシップ」が求められるのかもしれません。
参考文献
謙虚なリーダーがもたらす心理的に安全な環境はメンタルヘルスと働きがいの向上につながる
https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/release/20250220.html
元論文
Fostering employee engagement and mental health: Impact of psychological safety, humble leadership, and knowledge sharing in the Japanese public sector
https://doi.org/10.1080/12294659.2025.2463135
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部