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光合成だけじゃない!菌類から栄養をとる寄生植物「コケイラン」


植物は一般に光合成を行いますが、中には光合成をやめ、菌類から養分を得る「菌従属栄養植物」が存在します。神戸大学の研究によると、ラン科の「コケイラン」は、菌類と共生することで、必要な炭素を増加させ、成長や繁殖を促進しています。この発見は、菌類に依存する理由が単に暗い環境への適応以上であることを示しており、菌従属植物の進化と光合成放棄の過程を理解する鍵となります。

「植物は光合成をするもの」

これは小学校の理科でも習う、ごく当たり前の知識です。

しかし自然界には光合成をやめてしまう不思議な植物が存在します。

それらの植物は光に依存する代わりに、地中の菌類から養分を得ており、まるで寄生生物のように生きているのです。

では、なぜ植物は自らエネルギーを生み出せる光合成を放棄し、菌類に頼る道を選んだのでしょうか?

神戸大学は今回、ラン科の植物「コケイラン」を用いた研究で、菌類に依存することで利用可能な炭素量が増加し、成長や繁殖が促進されることを明らかにしました。

研究の詳細は2025年2月19日付で科学雑誌『The Plant Journal』に掲載されています。

目次

  • なぜ菌に頼る植物がいるのか?
  • 菌と共生することで養分が増える

なぜ菌に頼る植物がいるのか?

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コケイラン/ Credit: ja.wikipedia

一般的に植物は、葉緑素を持ち、光を利用してエネルギーを作る光合成を行います。

しかし一部の植物は光合成をやめ、菌類の菌糸と共生することで生存しています。

このような植物は「菌従属栄養植物」と呼ばれ、ラン科やツツジ科の一部の種で知られています。

なぜ、こうした植物が存在するのでしょうか?

一つの仮説として「暗い森林の下では光が少なく、光合成が困難なため、菌類に頼るほうが生存に有利になる」という説が提唱されてきました。

確かに、菌従属栄養植物の多くは、日の当たらない林床に生息しています。

しかしこれまでの研究では、単に光が少ないから菌に依存するのか、それとも別の要因があるのかは明確にされていませんでした。

そこで神戸大学の研究チームは「光合成と菌類からの養分摂取を併用する植物が、どのようなメリットを得ているのか」を調査しました。

菌と共生することで養分が増える

研究対象としたのはラン科の植物「コケイラン」です。

コケイランは通常の光合成を行う植物ですが、一部の個体では「菌根茎」と呼ばれる特殊な地下構造を形成することが知られています。

この菌根茎をもつ個体は、地中の菌類から炭素を得ている可能性があり、研究チームはこれに着目しました。

研究者たちは、

1:菌根茎をもつ個体ともたない個体の比較

2:植物体内の炭素の安定同位体比の測定(菌から得た炭素の割合を調べる)

3:成長速度や花の数の分析

といった方法で、菌への依存が植物の成長や繁殖にどのような影響を与えるのかを調査しました。

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菌根茎をもつコケイラン(左)ともたないコケイラン(右)の比較/ Credit: 神戸大学 –なぜ寄生を選ぶ植物が存在するのか?(2025)

研究の結果、菌根茎をもつコケイランは、

・通常の根だけをもつ個体よりも炭素の安定同位体比が高い (菌からの炭素摂取量が多い)

・葉が大きく成長し、花の数も多かった

という特徴があることが明らかになりました。

つまり、菌類から炭素を得ることによって、植物はより多くのエネルギーを確保し、繁殖に有利になるという結論が導かれたのです。

これは「暗い環境だから仕方なく菌に依存している」という従来の仮説を超え、菌に寄生することが利用可能な炭素量が増加させ、成長や繁殖に有利に働くことを示した重要な研究成果です。

この研究の意義は、菌従属栄養植物の進化の背景を理解する手がかりとなる点にあります。

これまでの研究では、菌への寄生は「環境に適応するための消極的な戦略」と考えられてきました。

しかし今回の研究は「寄生することで、むしろ成長や繁殖が促進される」という事実を示しました。

これは将来的に光合成を完全に放棄する植物が現れる過程を説明する一つの鍵となるかもしれません。

コケイランのように「光合成をしつつ、菌にも依存する」中間的な植物を研究することで、 植物がどのようにして菌従属栄養植物へ進化するのかが、より明確になっていくでしょう。

今後、さらに多くの植物の栄養戦略を解明することで、「なぜ植物は光合成をやめるのか?」という謎に迫ることができるかもしれません。

もしかすると、私たちが想像もしていなかった「植物の生き方」が、まだまだ自然界には隠されているのかもしれませんね。

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参考文献

なぜ寄生を選ぶ植物が存在するのか?
https://www.kobe-u.ac.jp/ja/news/article/20250220-66451/

元論文

Subterranean morphology underpins the degree of mycoheterotrophy, mycorrhizal associations, and plant vigor in a green orchid Oreorchis patens
https://doi.org/10.1111/tpj.70045

ライター

千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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