私たちが普段食べている果物(例えばバナナやリンゴ、マンゴーなど)は、恐竜の絶滅がなければ存在しなかったのかもしれません。
驚くべきことに、約6600万年前の恐竜の絶滅が植物の種子や果実の進化に影響し、現在のような豊かな果物の世界を生み出した可能性が見つかりました。
米・北アリゾナ大学(NAU)の最新研究で、恐竜の消滅が森林の構造をガラリと変え、それが果実の進化に大きな影響を及ぼしたことが示されたのです。
研究の詳細は2025年1月号の科学雑誌『Palaeontology』に掲載されています。
目次
- 恐竜がいた時代、果物はほとんど存在しなかった?
- 恐竜の絶滅後、果実はどのように進化したのか?
恐竜がいた時代、果物はほとんど存在しなかった?
恐竜が地球上を支配していた時代、現在のような豊かな果物はほとんど存在していませんでした。
当時の植物は小さな種子を持つものが大半で、果実を実らせる種類はごくわずかだったのです。
では、なぜ恐竜がいた時代に果実が進化しなかったのでしょうか?
その理由は、巨大な草食恐竜、特に竜脚類(Sauropods)と呼ばれる長い首を持つ恐竜たちの存在にあります。

彼らは「生態系エンジニア」としての役割を果たし、森の木々をなぎ倒しながら大量の植物を食べていました。
このように森林が恐竜によって頻繁に攪乱(かくらん)されることで、背の高い植物が減少し、太陽光が地表まで届きやすくなり、種子のサイズが小さい植物が優位に立っていたのです。
太陽光が地表まで届くのなら、植物たちは光をめぐる競争をする必要がなく、背の低い場所でも十分に繁殖することができます。
しかし6600万年前に恐竜が絶滅すると、状況が一変しました。
森林は再び密集したことで光をめぐる競争が激化し、地表まで太陽光が届きにくい環境が生まれました。
この環境変化が、種子や果実の進化を大きく変えることになったのです。
恐竜の絶滅後、果実はどのように進化したのか?
研究チームは、恐竜絶滅後の森林環境の変化が、種子と果実の進化にどのような影響を与えたのかを調査。
化石記録のデータを分析し、森林の構造変化と種子サイズの関連を示すシミュレーションモデルを作成しました。
その結果、恐竜が絶滅した後、森林はより密集し、地表面への日光量が減少したことが判明しました。
そしてこの環境では、光を求めて成長する植物同士の競争が激化し、大きな種子を持つ植物が優位に立つようになっていたのです。
なぜなら大きな種子を持つ植物は、発芽時により多くのエネルギーを蓄えているため、外部からの光が得られなくても、ある程度の期間、自身のエネルギーで成長できたからです。
さらに、これらの植物は果実を発達させ、動物による種子の拡散を利用する戦略を進化させました。
この研究では、過去6500万年間の化石記録をもとに、種子のサイズがどのように変化してきたのかを解析しました。
その結果、恐竜絶滅後に種子が大型化し、それに伴い果実も進化していったことが明らかになりました(下図を参照)。

一方で興味深いことに、約3500万年前には再び種子が小型化する現象が確認されました。
これは新たに出現した大型哺乳類が、恐竜ほどではないものの、森林の構造を再び変えたことによるものと考えられています。
このように、恐竜の絶滅とその後の環境変化が、現在の果物の多様性を生み出した大きな要因であったことが示されたのです。
今回の研究は、恐竜の絶滅が果実の進化に大きな影響を与えたことを明らかにしましたが、では現代において果実の進化に影響を与えているのは誰でしょうか?
答えは「人類」です。
現代では、人間の伐採や農業開発が森林の環境を変えています。
特に選択的伐採によって、森林の下層により多くの光が届くようになり、恐竜時代に似た環境が再び生まれているのです。
もし人間がこのまま森林に大きな影響を与え続けると、種子や果実のサイズが再び変化する可能性があります。
つまり、私たちは気づかぬうちに、果物の進化の新たな波を生み出しているのかもしれません。
参考文献
Dinosaurs: the original Cretaceous influencer
https://news.nau.edu/doughty-dinosaur-research/
元論文
Ecosystem engineers alter the evolution of seed size by impacting fertility and the understory light environment(PDF)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/pala.70002
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部