猫を飼っている人なら「うちの猫は甘えん坊」「うちの子はちょっとクール」といった違いを感じたことがあるでしょう。
実は、猫にも人間のような「愛着スタイル」があります。
そして今回、中国・華南農業大学(SCAU)の最新研究で、飼い主に対する猫の愛着スタイルは3タイプに分けられることが判明しました。
さらにそのタイプごとに、飼い主との交流による「愛情ホルモン」の分泌の仕方が異なっていたのです。
さて、猫にはどんな愛着スタイルがあったのでしょうか。
研究の詳細は2025年1月19日付で科学雑誌『Applied Animal Behaviour Science』に掲載されています。
目次
- 猫の愛着スタイルは3タイプに分かれる
- タイプごとに「愛情ホルモン」の分泌の仕方が違っていた
猫の愛着スタイルは3タイプに分かれる
猫は一般的に「気まぐれ」「ツンデレ」といったイメージを持たれがちですが、実際には個体ごとに異なる性格や飼い主への愛着の傾向を持っています。
また近年の研究で、猫はこれまで考えられていた以上に社会的知能が高く、飼い主の感情や合図を理解したり、声を識別できることがわかっています。
これは飼い主の接し方によって、猫に安心感を与えたり、逆に不安感やストレスを与えてしまう可能性があることを示すものです。
しかし飼い主に対する猫の愛着スタイルにはどのようなものがあるのか、また愛着スタイルごとにどんな接し方が良しとされるのかは、犬のようには研究が進んでいません。
そこで研究チームは今回、猫の愛着スタイル、猫と飼い主の交流、そして交流によるオキシトシンの分泌の仕方という3つの関連性を新たに調べることにしました。
オキシトシンは「愛情ホルモン」として知られ、飼い主とペットの間に感情的なつながりを形成するのに寄与します。
例えば、犬では飼い主と見つめ合ったり、優しく触れたり、撫でられたりすると、オキシトシンの分泌が促されます。
一方で、猫と飼い主の相互作用におけるオキシトシンの分泌については、ほとんどわかっていません。
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今回の調査では、中国広州市にてソーシャルメディアを通じて30匹の飼い猫を募集しました。
猫はオスとメスの両方が含まれ、さまざまな品種が対象となっており、年齢は1〜3才までの範囲となっています。
また今現在の飼い主と少なくとも4カ月以上は一緒に生活していることを条件としました。
チームはまず、猫の愛着スタイルを評価するため、「安全基地テスト(Secure Base Test)」を行っています。
このテストには、
1:猫と飼い主が初めての部屋で2分間一緒に過ごす
2:その後、飼い主が2分間部屋を離れる
3:最後に飼い主が戻り、さらに2分間一緒に過ごす
という3つの段階が含まれます。
テストの間、高解像度カメラで猫の行動を記録し、以下のポイントを観察しました。
・飼い主が戻った際に猫が慰めを求めるか
・部屋をどれだけ探索するか
・飼い主との交流でどれだけ回避行動を示すか
安全基地テストの後、研究はより自然な環境である飼い主の自宅に移されました。
猫が飼い主と過ごしている馴染みのある部屋で、飼い主には普段通りに15分間猫と関わるよう指示し、その様子をカメラで記録します。
この自宅での観察セッションでは、以下の行動に注目しました。
・猫が自発的に飼い主に近づくか
・飼い主に接触せず近くに留まるか
・飼い主が猫を抱き上げたり拘束するなど、強制的な関わりを持つか
これらの観察に加えて、それぞれの猫の唾液サンプルを実験前後に採取し、オキシトシンの分泌レベルを測定しています。
そして実験の結果、猫の愛着スタイルは次の3つに分けられました。
タイプ1:安定型
飼い主に対して安心感を持ち、自らも積極的に交流を試みるし、飼い主側から触られても逃げ出すことがないタイプ
タイプ2:不安型
飼い主に対して過剰に依存し、常に側にいたがるが、触られたり抱き上げられたりすると途端にストレスを感じて逃げ出そうとする不安定なタイプ
タイプ3:回避型
飼い主との接触を積極的に避け、距離をとる時間が長く、飼い主が近づくと逃げて、自立的な行動を好むタイプ
これらの結果は、猫の愛着スタイルを正しく見極めることで、猫との適切な距離感を見つ出し、ストレスを与えない交流の仕方を知るのに役立つと考えられます。
また飼い主との交流における猫のオキシトシンの分泌レベルは、この愛着スタイルごとに変わることもわかりました。
タイプごとに「愛情ホルモン」の分泌の仕方が違っていた
実験前後の唾液中のオキシトシン濃度を調べると、愛着スタイルごとに変化の仕方が違っていました。
まず安定型の猫は、実験前のオキシトシン濃度は低かったのですが、飼い主との交流を通じて大幅に増加していました。
これは安定型の猫は飼い主との積極的な交流によって、より気分が向上し、飼い主との絆も深まると考えられます。
次に不安型の猫は、実験前のオキシトシン濃度が高めでしたが、飼い主との交流によって減少する傾向が見られました。
不安型の猫に対しては無理に抱き上げたり、何度も撫でたりすることがストレスになると考えられます。
最後に回避型の猫は、実験前も実験後もオキシトシン濃度に有意な変化が見られませんでした。
これらの猫は飼い主との積極的な交流を望んでいないため、触れ合うことで愛情を育むことは難しいようです。
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今回の研究は、猫の愛着スタイルに「安定型」「不安型」「回避型」の3タイプがあること、それぞれのタイプごとに適切な接し方があることを示しました。
ただしチームはこの研究について、猫のサンプル数の少なさや対象品種の少なさ、飼い主の家庭環境の違いなどから「同じ分類や結果がすべての猫に当てはまるとは限らない」と注意しています。
これらの点を踏まえ、今後の研究ではより多様な飼い主と猫の集団を対象に関係性を探ることが求められます。
それでも、猫のタイプごとに適切な距離感やストレスを与えない接し方があることを示すには十分な成果です。
猫を飼っている方、あるいは猫を飼おうと思っている方は、個々の猫の性格や愛着スタイルを見極めることで、適切な触れ合い方や良好な関係を築くことができるでしょう。
参考文献
Cat attachment style impacts behavior and hormone levels, study finds
https://www.psypost.org/cat-attachment-style-impacts-behavior-and-hormone-levels-study-finds/
元論文
The effects of owner-cat interaction on oxytocin secretion in pet cats with different attachment styles
https://doi.org/10.1016/j.applanim.2025.106524
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部