おいしそうなロボットです。
西湖大学の研究チームは、綿から抽出されたセルロースフィルムと、豚のゼラチンという自然由来の素材を組み合わせ、使い終わった後には安全に分解されるロボットアームを開発しました。
まるで折り紙のように柔軟に変形するこのロボットは、曲がるとゼラチン部分が電気抵抗を変化させ、自らの動きを感知できるという新たな仕組みを持っています。
この革新的な技術は、医療現場での体内デバイスや、人と近接して作業する必要があるデリケートな作業環境など、従来の硬いロボットでは難しかった応用が期待されます。
使用後は自然に分解され、環境に優しい循環型システムを実現することで、将来大量に稼働するロボットから発生する廃棄物問題への解決策となる可能性も秘めています。
研究内容の詳細は2025年2月5日に『Science Advances』にて公開されました。
目次
- 生体物質でできた「やわらかロボット」
- 豚ゼラチンそのものが動きを感知する
生体物質でできた「やわらかロボット」
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従来、ロボットはプラスチックや合成ゴムなどの非生分解性素材で作られており、使用後に大量の廃棄物が発生するなど環境への負荷が問題視されていました。
そこで今回の研究チームは、綿から抽出されたセルロースフィルムと、豚のゼラチンという自然由来の素材を組み合わせ、使い終わった後には安全に分解されるロボットアームを開発しました。
まるで折り紙のように柔軟に変形するこのロボットは、曲がるとゼラチン部分が電気抵抗を変化させ、自らの動きを感知できるという新たな仕組みを持っています。
これまでのロボットは、プラスチックや合成ゴムなど、耐久性に優れる一方で生分解性に乏しい素材で作られてきました。
そのため、使い終わった後に大量の廃棄物が発生し、環境負荷が大きな問題となっています。
例えば、非生分解性の素材はリサイクルが難しく、最終的には埋立地に長期間残ることで、環境への悪影響が懸念されています。
また、近年注目されるソフトロボティクスの分野では、柔らかく安全なロボットが求められています。
ソフトロボットは、人に直接接触する医療現場や狭い空間での作業など、従来の硬いロボットでは不向きな用途に適しています。
しかし、現状では多くのソフトロボットもシリコンゴムなどの合成材料を使用しており、同様の環境問題や、使用後の廃棄による負担が解消されていません。
そこで、自然由来の素材を使ったロボット開発が急務となっています。
綿から抽出されるセルロースフィルムや、豚から得られるゼラチンは、いずれも生分解性が高く、使用後は安全に分解して自然に還るため、環境にやさしい素材として注目されています。
しかし、これらの素材をロボットに応用するためには、十分な強度、柔軟性、さらにはセンサー機能を備えるといった技術的な課題を克服する必要がありました。
今回の研究は、こうした背景と課題を踏まえ、環境負荷を低減しながらも実用的なロボットを作るための一つの解決策として、セルロースフィルムと豚ゼラチンを組み合わせた新たなアプローチを示しています。
豚ゼラチンそのものが動きを感知する
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このロボットアームの大きな特徴のひとつは、豚ゼラチンを利用した高度なセンサー機能にあります。
豚ゼラチンは、ロボットが曲がる際にその形状変化に伴って電気抵抗が変わる性質を持っています。
つまり、アームがどの方向に、どの程度曲がっているかをリアルタイムで感知することができるのです。
(※、豚由来のゼラチンに塩(NaCl)などの添加物を加えた「導電性オルガノゲル」が高度なセンサー機能を持つ点にあります。ゲルが曲げられると電気抵抗が変化するため、アームの形状変化をリアルタイムに検知できます。)
具体的には、ゼラチン層が組み込まれたモジュール内で発生する抵抗変化が、センサー信号として記録されます。
この信号は、内部の制御システムに送られ、ロボットアームの正確な位置情報や動作状態としてフィードバックされます。
これにより、外部のモーターや糸を介した駆動システムが、より精密にアームを制御できるようになります。
さらに、研究チームは小型のゼラチンセンサーを搭載したモジュールをジョイスティックのような入力装置としても活用しています。
操作する人は、このジョイスティックに手で触れるだけで、センサーが捉える抵抗変化を通じて直感的にロボットの動きを指示することが可能です。
こうして得られたセンサー情報は、制御システムへと即座に反映され、アームの動作をリアルタイムで調整する閉じたフィードバックループが形成されます。
このようなセンサー機能と制御システムの統合により、柔軟でありながらも正確な動作が可能なロボットアームが実現され、医療現場や狭い作業環境など、従来の硬いロボットでは難しかった用途への応用が期待されています。
今回の生分解性ロボットは、環境保護と高度な機能性の両立という点で大きな注目を集めています。
西湖大学の研究チームは、「将来的には地球上のロボット数が大幅に増加することが予想され、その結果、大量の廃棄物問題が生じる」と警鐘を鳴らしながらも、本研究がその解決策となりうる点に大きな期待を寄せています。
つまり、使用後に自然に分解する素材を用いることで、従来のロボットが抱える環境負荷を大幅に低減できる可能性が示されました。
さらにソフトロボットは、狭い工業プロセスや医療現場といった、人と安全にやり取りする必要がある分野で大きな進展をもたらす可能性があります。
(※ただ人体内で完全に分解させるためには素材を追加で工夫する必要があるようです)
実際、今回のロボットアームは、柔軟性とセンサー機能を併せ持ち、人体内での医療処置や微細な作業環境での使用にも応用できると期待されています。
生分解性素材の採用が、環境負荷の少ない持続可能なロボット社会の実現に貢献するだけでなく、人々の生活や安全を守る新たなソフトロボティクスの可能性を切り開く重要な一歩となるでしょう。
元論文
Biodegradable origami enables closed-loop sustainable robotic systems
https://doi.org/10.1126/sciadv.ads0217
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部