水槽を殴り割ってしまうほど強烈なパンチ力を誇る「シャコ」。
彼らは自分のパンチ力によって拳を傷つけてしまわないのでしょうか?
米ノースウェスタン大学(NU)の研究チームは、シャコがどのように自らの攻撃から拳を守っているかを新たに調査。
その結果、シャコの拳は特定の衝撃波をフィルターして、破壊的な衝撃が内部に伝わるのを防ぐ特殊な構造を持っていることが判明したのです。
この発見は防弾ベストやスポーツ用防護具の開発に応用できる可能性があります。
研究の詳細は2025年2月7日付の科学雑誌『Science』に掲載されました。
目次
- 時速80キロのパンチで自分の拳は壊れないのか?
- シャコの拳は衝撃波をフィルターしていた!
時速80キロのパンチで自分の拳は壊れないのか?
シャコは、海の世界でも指折りの「パンチ力」を持つ生き物です。
その一撃は時速80キロに達し、22口径の銃弾並みの衝撃力で貝やカニの殻を砕きます。
そのパンツのあまりの速さは「キャビテーション」と呼ばれる現象を引き起こします。
キャビテーションとは簡単にいえば、シャコパンチの極端な速度によって周りの水が冷たいまま沸騰し、たくさんの気泡が発生する現象です。
そしてこれらの気泡が弾けるときに強大なエネルギーが放出され、その衝撃波も相手に大きなダメージを与えます。
この二重の衝撃により、シャコパンチはただの物理的な打撃を超えた破壊力を持つのです。
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しかし、ここで疑問が浮かびます。
シャコは自分のパンチ力で拳を壊してしまわないのでしょうか?
通常、強い衝撃を繰り返し受ければ、どんなに丈夫な物質でも亀裂が入り、損傷します。
それにもかかわらず、シャコは何度もパンチを繰り出しながらも、自分の拳を痛めることがありません。
これまでの研究では、シャコの拳の表面がナノ粒子の頑丈な層で強化されていることが判明しています。
しかし、それだけでは自ら生み出す強烈な衝撃波を防ぐには不十分だと考えられていました。
ところが今回の研究で、シャコの拳は「音響的な防御メカニズム」を備えていることが明らかになったのです。
シャコの拳は衝撃波をフィルターしていた!
研究チームはレーザーを用いた超音波解析とシミュレーションを行い、シャコの拳が実際にどのように衝撃を制御しているのかを詳細に調べました。
その結果、シャコの拳は単なる強固な装甲ではなく、「衝撃を遮断するフィルター」として機能していることが明らかになったのです。
チームの分析によると、シャコの拳の内部構造は主に2つの重要なシステムが組み合わさっていました。
1つは物理的な強度を高めて、拳が割れるのを防ぐシステム。
そしてもう1つは高周波の衝撃波を内部に伝わらないようフィルターし、衝撃波の伝達を制御するシステムです。
チームはこの新たに見つかった、衝撃波を特定の周波数で遮断する機能を「フォノニックシールド(phononic shield)」と呼んでいます。
つまり、シャコは物理的な硬さで拳を守るだけではなく、衝撃波を特定の波長で遮断し、内部の神経や組織を守っていたのです。
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この研究成果は、生物学の枠を超え、材料工学や防護技術の分野への応用が期待できるとチームは話しています。
例えば、防弾ベストやスポーツ用の防具やヘルメットなど、衝撃を和らげるための新素材の開発が考えられます。
また水中での衝撃吸収技術の向上にもつながるかもしれません。
シャコの拳は「強さ」と「賢さ」を兼ね備えた驚異的な進化の産物です。
今後、この知見を活かして、より強く、より安全な素材が生み出される日が来るかもしれません。
参考文献
Mantis shrimp clubs filter sound to mitigate damage
https://news.northwestern.edu/stories/2025/02/mantis-shrimp-clubs-filter-sound-to-mitigate-damage/
How mantis shrimp protect their powerful ‘fists’ of fury
https://www.popsci.com/environment/mantis-shrimp-punches/
元論文
Does the mantis shrimp pack a phononic shield?
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adq7100
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部