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「課金は食事と同じ」おかしな理屈を正当化する心理メカニズム【認知的不協和】


人間は時として、自らの矛盾した行動を正当化する傾向がある。この現象を心理学では「認知的不協和」と呼び、1959年にレオン・フェスティンガーがこの概念を提唱した。彼の実験では、ある作業を楽しいと偽りの報告をさせることで、少ない報酬を受け取った参加者は自らの発言と矛盾しないように、実際に作業を楽しんだと考える傾向が示された。人々は認知的不協和を解消するために、自己合理化を行いがちで、現実の認知を歪めることがある。これを克服するためには、正しい選択の意識を持つことや、客観的視点を取り入れることが重要である。自分の選択が間違っていないかを常に自問し、周囲の意見も参考にすることで、不合理な正当化を避けることができる。

喫煙者が「タバコを我慢する方が体に悪い」と言っているのを聞いたことがあるかもしれません。

それを聞いた瞬間、心の中で「そんなわけないだろ!」と突っ込んだことのある人は多いかもしれません。

しかしタバコに限らず私たち人間には、自分の矛盾した考えや行動を正当化する傾向があります。

なぜ人は、強引な正当化をするのでしょうか。

実は、こうした矛盾は心理学で「認知的不協和」と呼ばれており、人がおかしな理屈を正当化する理由を説明することができます。

目次

  • 認知的不協和とは
  • フェスティンガーの実験
  • 人々はどのように自分を正当化するのか
  • 正当化を避けるには?

認知的不協和とは

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喫煙者が抱える矛盾 / Credit:Canva

私たち人間は、考えや理解、行動に矛盾を抱えることがあります。

例えば、前述した喫煙者は、「私はタバコを吸う」という認知と、「タバコを吸うと肺がんになりやすい」という認知を持っています。

「肺がんになりやすいのにタバコを吸う」という矛盾を抱えているのです。

「収入が少なく節約しなければいけない」のに、「ガチャ課金してしまう」という矛盾を抱える場合もあるかもしれません。

あるいは、「正直さが大切だ」と言いながら、「気まずい会話を避けるためにちょっとした嘘をつく」なんてことも見られます。

こうした心の矛盾状態には、「認知的不協和」という社会心理学的な名称があります。

認知的不協和とは、アメリカの心理学者レオン・フェスティンガー氏によって提唱された言葉であり、「人が自身の認知とは別の矛盾する認知を抱えた状態、またその時に覚える不快感」を意味します。

そしてフェスティンガー氏によると、人は認知的不協和を解消するために、矛盾する認知を歪め、自信の態度や行動を変更する傾向があると述べています。

これはどういうことでしょうか。

フェスティンガー氏の実験から考えてみましょう。

フェスティンガーの実験

フェスティンガー氏は、認知的不協和が生じたとき、人は自分の態度をどのように変化させるのか調べるため、1959年にある実験を行いました。

参加者はスタンフォード大学に通う71人の男子学生です。

彼らには、単純で退屈な作業(ボードにピンを挿入するなど)を1時間続けさせました。

そして作業後、参加者は順番を待つ次の被験者(実際はサクラ)に対して「作業は楽しかった」と嘘をつくよう依頼されます。

この実験のポイントは、このつまらない作業に対して「楽しかった」と嘘の感想を言わせる点にあります。

フェスティンガーの狙いは、作業と自分の発言に矛盾が生じさせることで、意図的に認知的不協和を発生させることでした。

そしてこの不協和を参加者がどうやって解消させるかに着目しました。

ここで実験では参加者を2つのグループに分け、”嘘の感想を言ってくれたことに対して”それぞれ異なる報酬を支払いました。

1つのグループは「1ドル」、もう1つのグループには「20ドル」を支払らったのです。

その後、参加者に対して「本当にこの作業を楽しめたか?」と本音の感想を聞きました。

すると、20ドルをもらった参加者は、「作業は退屈だった」と答えたのに対し、1ドルしか貰えなかった参加者は「作業は意外と面白かった」と答える傾向が強かったのです。

(対照群として嘘の感想を言わせなかったグループは「退屈だった」と答えた)

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1ドルしかもらっていない学生は、「単純作業は意外と楽しかった」と答える傾向にあった / Credit:Canva

ここで実験の流れと結果をまとめてみましょう。

結果

  • 1ドルをもらったグループ → 「作業は楽しかった」と答えた割合が高かった
  • 20ドルをもらったグループ → 「作業は退屈だった」と答えた割合が高かった
  • 対照群(嘘をつかなかったグループ) → 当然ながら、「作業は退屈だった」と答えた

では、なぜこのような違いが生じたのでしょうか。その理由をフェスティンガーは以下のように解釈しています。

  • 1ドルグループ
    • 1ドルという低額の報酬では、「嘘をついた理由」として十分な正当化ができない。
    • そのため、「作業は本当に楽しかった」と自分の認知を変えることで、不協和を解消した
  • 20ドルグループ
    • 20ドルという高額の報酬をもらったため、「お金のために嘘をついた」と納得でき、不協和は発生しなかった。
    • したがって、自分の態度を変える必要がなく、「作業はつまらなかった」と正直に答えた。

このフェスティンガーの実験は、「人は自分の行動と信念が矛盾すると、無意識のうちに信念を変えて自分の行動を合理化しようとする」という認知的不協和の基本原理を示しています。

報酬が少ない場合、不協和を減らすために態度を変える(「作業は楽しかった」と思い込む)。報酬が多い場合、「お金のためにやった」と認識し、態度は変えない。

認知的不協和が生じると、人の心は強いストレス状態に陥ります。そのため人は心の健康を守るため、無意識にこの状態を解消しようと認知を歪めるのです。

では、このような認知的不協和の基本原理は、私たちの周りで見られる行動をどのように説明しているでしょうか。

人々はどのように自分を正当化するのか

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人々は認知的不協和を解消するために、正当化しようとする / Credit:Canva

私たちの身の回りでも、フェスティンガーの実験で示されたような認知的不協和の基本原理が見られます。

最初に示していた例から考えると、喫煙者の場合、「タバコを吸いたい」という欲求に対して、「肺がんになりやすい」という情報は認知的不協和を起こします。

そこで喫煙者は「タバコは肺がんになりやすい」という認知を歪め、「そんな事実はない」「我慢する方が身体に悪い」と考えることで気持ちよくタバコを吸えるようにします。

また、「タバコが肺がんを誘引する」のではなく、「肺がんになりやすい人がタバコに引き寄せられているだけ」と、タバコと肺がんの因果関係を否定するかもしれません。

「なるべく節約したい」のに「ガチャ課金したい」人の場合も同様で、「課金は無意味な支出」と考えると、せっかく楽しみでゲームを遊んでいるのにストレスが強くなってしまいます。

そこで、「節約ばかりしていたら心の方が貧しくなる。課金は食費と同じ必要な出費だ」「いいゲームだったから楽しませてもらった分のお礼をしているんだ」と認知の仕方を変えることで、行動のストレスを減らすのです。

加えて、イソップ物語の「酸っぱい葡萄」もこれに当たります。

この物語の中で、お腹を空かせたキツネは、木の高いところに「美味しそうな葡萄」を見つけます。

しかし、何度跳び上がっても届くことはなく、入手できません。

この矛盾を解消するため、キツネは狙っていた葡萄に対して、「酸っぱくて美味しくないに決まっている」と認知を変えるのです。

いくつかの例をあげましたが、こうした正当化の傾向は、多くの人に見られるものです。

主観的には、自分の中の矛盾を解決することでストレスを減らして暮らしていくための心の機能と言えますが、客観的には「誤った判断・主張」である場合が少なくありません。

当然ながら、これらの正当化は、健康リスクを無視したり、人間関係を悪化させたりするものにもなり得ます。

では、自分の中で生じる正当化の傾向を抑えるには、どうすればよいでしょうか。

正当化を避けるには?

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決定の前と後でよく考えるなら正当化できるだけ避けることができる / Credit:Canva

正当化する傾向を少しでも抑えるためにできることはたくさんあります。

まずは、ここで学んだ「認知的不協和」について理解することが大切です。

自分に信念と行動に矛盾が生じた時に、それを解消しようとする衝動が生まれることを知っておくべきなのです。

また大前提として、「最初から正しい選択をする」意識を持つことができます。

正当化は認知の矛盾から生じるので、そもそも矛盾が生じるような状況は避けた方が良いのです。

また考え方で気持ちが楽になることもありますが、無理に今の状態を正当化することが、常に正しいこととは限りません。

「無理に今の状況を正当化していないだろうか」と、選択や行動を冷静に振り返り、間違いを認めることも大切なことです。

「なぜこの決定をしたのか」「本当に合理的な選択だったのか」「自分にとって都合のいい解釈をしていないか」「自分は間違っていたかもしれない」「考えを改めても良い」と自問するなら、認知的不協和を正しい方向に解消できるはずです。

加えて、信頼できる友人や同僚に「どう思う?」と尋ね、客観的な視点を取り入れることも大切です。

このような点を意識するなら、私たちのうちに生じる認知的不協和に上手に対処できるでしょう。

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参考文献

Cognitive Dissonance and the Discomfort of Holding Conflicting Beliefs
https://www.verywellmind.com/what-is-cognitive-dissonance-2795012

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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