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目の前のゴリラに気づかない!不思議な心理現象「見えないゴリラ」とは?


「見えないゴリラ」実験は1998年にアメリカで行われた心理実験で、被験者が特定のタスクに集中していると目の前を横切るゴリラに気づかないことを示しています。この実験は非注意性盲目を示しており、脳が複数のことに同時に集中できないため、注意が向けられていないものが見えなくなる現象です。研究では被験者の約50%がゴリラに気づかなかったとされています。同様の現象が別の実験でも確認されており、私たちの注意は意外と限定的であることが明らかになっています。

研究者「さて、白服チームは何回パスを回したでしょう?」

被験者「簡単さ、15回でしょ」

研究者「正解。ところでゴリラには気づきましたか」

被験者「……はい?」

そんな奇妙奇天烈な実験が1998年のアメリカで行われました。

これはバスケットボールをパスし合っている人たちのど真ん中をゴリラが横切っても気づかないことを実証した有名な心理実験で、一般に「見えないゴリラ(The Invisible Gorilla)」として知られています。

しかし、なぜそんな不思議なことが起こるのでしょうか?

目次

  • 2人に1人はかかる「見えないゴリラ」実験
  • 脳は複数のことに同時に集中できない
  • 別人にすり替わったのに気づかない⁈

2人に1人はかかる「見えないゴリラ」実験

「見えないゴリラ」実験はアメリカの心理学者であるダニエル・シモンズとクリストファー・チャブリスによって行われました。

実験の手順はこうです。

まず被験者に対して「これから白い服を着たチームと黒い服を着たチームがそれぞれバスケットボールのパス回しをしている映像を見せるので、その中で白服チームが何回ボールをパスしたか答えてください」と指示します。

それ以外には何も伝えないため、被験者は「これは集中力を試すテストだな」と考えるでしょう。

映像が始まると白服チームと黒服チームが入り乱れながらパスを回すので、なるほどかなり集中していないと、白服チームが何回パスしているか見逃しそうになります。

それでもなんとか白服チームのボールを目で追い、「1回、2回、3回… 」と数えていきます。

そして映像が終わり、被験者が「正解は15回だ!」と自信満々に答えたところで、研究者が「ゴリラに気付きましたか?」と尋ねるのです。

「一体何を?」と困惑している被験者に対して、研究者は「いやいや、パスしている人たちのど真ん中を横切っていったあのゴリラですよ」と追い討ちをかけます。

では実際の実験映像を見てみましょう。

おそらく、ゴリラのことがすでに念頭にある皆さんは誰も引っかからなかったと思います。

「いや、思いっきりゴリラいるじゃん。逆に気づかないことある?」と思った人が大半でしょう。

ところが、です。

ゴリラなどまったく頭になく、ただただ「白服チームが何回パスしているか」に集中して映像を見始めた人は意外とゴリラが見えなかったことが示されています。

実際にこの実験では、被験者の2人に1人(約50%)はゴリラが横切っていったことに気づかなかったのです。

(試しにゴリラのことは何もいわずに、この動画を使って知人や家族に同じ実験をしてみるといいかもしれません)

これは一体どういう心理メカニズムなのでしょうか?

脳は複数のことに同時に集中できない

研究主任のシモンズとチャブリスによると「ゴリラが見えなくなったのは非注意性盲目(inattentional blindness)が働いたからだ」と説明します。

非注意性盲目とは、視野に入っているにも関わらず、注意が向けられていないために見落としてしまう現象のことです。

そもそも私たちは周りの世界を「目」で見ているというよりも「脳」で見ています。

脳は目から雪崩れのように入ってくる視覚情報をすべて処理することはできません。

そこで今自分に必要なもの、見るべき対象を「注意」によって選び出し、その視覚情報だけを脳に送って、それ以外は背景として意識から排除するようになっています。

「見えないゴリラ」実験で発生したのはまさにこれでした。

被験者は、白服チームが何回パス回しをするか数えるタスクを与えられていました。

それを成功させる最も効果的な方法は「白服チーム」だけに注意を絞り、それ以外の「黒服チーム」は意識から完全に排除してしまうことです。

そしてゴリラの着ぐるみは黒色ですから、黒服チームと一緒に意識の外に追いやられてしまい、これほど目立つゴリラが見えなくなったのです。

画像
Credit: canva

そのため、注意の方向を少し変えるだけでゴリラにはすぐに気づいてしまいます。

実際に被験者に対して「黒服チームが何回パスをしているか数えてください」と指示すると、約83%の人はあっさりとゴリラに気付きました。

それから何の指示も与えずに「ただ映像を見てください」と指示した場合も、多くの人がゴリラの存在に気付いています。

ゴリラが見えなくなったのは、自らの注意を白服チームにのみ向けて、他の一切を意識から排除した人なのです。

非注意性盲目はこの実験だけでなく、私たちの日常の中でもごく普通に起こっています。

例えば買い物中など、お目当てのブランドを求めて服を物色している場合はそれ以外のブランドが目に入らなくなったり、書店でも好きな作家さんの本を探しているときには、他の作家さんの本に気づかなくなることがありませんか?

それで後日、同じ店舗を訪れたときに「あれ、この作家さんの本も置いてあったんだ。前は気づかなかったな」といったことが起こるのです。

他にも、混雑したカフェで空席を探しているときに、偶然いた友人が手を振ってきてもすぐには気づかないことがあるでしょう。

それは「空いている席を見つける」ことに注意が向けられているため、それ以外のことが意識から排除されてしまったためです。

さらにシモンズは「見えないゴリラ」とは別に、私たちがどれだけ非注意性盲目にかかりやすいかを示す面白い実験を行いました。

その実験で被験者は、目の前の人がまったくの別人に入れ替わったことにさえ気づかなかったのです。

別人にすり替わったのに気づかない⁈

シモンズは米コーネル大学のキャンパス内である実験を行いました。

ここでシモンズは観光客を装い、無作為に歩行者に近づいて「すみません、図書館はどこですか?」と地図を指し示しながら尋ねます。

歩行者が「ここを真っ直ぐ行って、突き当たりを右に曲がって… 」と説明している最中に突然、ドアを持った作業員(別の研究者が扮装した人物)が強引に2人の間を通り抜けます。

その間に観光客役のシモンズと作業員役の研究者がドアの後ろですばやく入れ替わるのです。

そして作業員役は何事もなかったかのように歩行者と会話を続けました。

その結果、驚くことに15人中8人は目の前の人物がまったくの別人にすり替わっていることに気づかずに道を教え続けたのです。

こちらが実際の実験映像です。

作業員役が会話を遮って「1分前にドアが通ったとき、何か変わったことに気づきませんでしたか?」と尋ねると、「ああ、あの作業員はずいぶん態度が悪かったですね」と答えた歩行者もいたといいます。

これも「見えないゴリラ」と同様に、図書館までの道のりを教えることに注意が向けられるあまり、その他の変化を見逃してしまったのです。

このように私たちの視覚的な注意は意外とザルであり、かなり大胆な出来事にも気づかないことがあります。

…と言っている間にも、皆さんの周りで何か大きな変化が起きているかもしれませんよ。

全ての画像を見る

参考文献

Bet You Didn’t Notice ‘The Invisible Gorilla’
https://www.npr.org/2010/05/19/126977945/bet-you-didnt-notice-the-invisible-gorilla

元論文

Gorillas in our midst: sustained inattentional blindness for dynamic events
https://doi.org/10.1068/p281059

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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