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単なる持久力では説明できない!「24時間走」で300kmを走り抜く脅威的ランナーの秘密


この記事は、24時間走というウルトラマラソン種目で圧倒的な記録を持つ選手たちの強さの秘訣を探る内容です。 まず、イアニス・クーロスは世界で初めて24時間で300kmを超えたランナーで、彼の強さの秘密は、レース中に大量の食事を摂ることができる胃腸の強さにあります。クーロスは24時間走中に1万3770kcalを摂取することができる能力を持ち、その驚異的な消費量と摂取量が彼の記録達成を支えました。 さらに、アレクサンドル・ソロキンはこの記録を破る現世界記録保持者で、その強さはハードなトレーニングと適切な休息のバランスにあります。ソロキンは週に350km以上を走り、ランニング以外のトレーニングも取り入れることで怪我を避けています。彼は30歳を過ぎてからランニングを始め、10年でトップアスリートとなった成功例です。

丸1日、24時間走り続けると聞くと、何を思い浮かべるでしょうか?

例年夏に放送されているチャリティー番組を思い浮かべる人もいるかもしれませんし、中には、実際そんなことが本当に可能なのか疑っている人もいるでしょう。

実のところ、24時間走は、定期的に世界選手権も開催されているスポーツ種目として存在しています。

この記事では、丸一日走り続け、偉大な記録を残したトップアスリートを対象とした研究をもとに、彼らの強さの秘訣に迫り、そのエピソードから何を学べるのか考察します。

目次

  • 驚異の胃袋 イアニス・クーロス
  • 現世界記録保持者のトレーニングと意外なキャリア

驚異の胃袋 イアニス・クーロス

最初に紹介するのは、「走る神」というニックネームを持つウルトラマラソン界の偉人、イアニス・クーロスです。

彼はマラソン(42.195km)を超えるウルトラマラソンというスポーツで主に1980年代から2000年代にかけて圧倒的な強さを誇り、世界で初めて24時間で300kmを超えたアスリートです。

彼が記録した24時間走の303.506kmという驚異的な数字は、平均すると1キロを4分44秒、マラソンを3時間20分のペースで走り続けたことを意味します

24時間走は陸上トラックや1周1~2km程度の周回コースで開催されることが多い
24時間走は陸上トラックや1周1~2km程度の周回コースで開催されることが多い / Credit: 写真AC

そんなクーロスですが、一般に全身持久力として知られている最大酸素摂取量(VO2max)は、競技ランナーの中では特に高いわけではありません。

彼の最大酸素摂取量は63ml/kg/minと報告されており、これはマラソンのトップアスリートの平均的な数値に比べると低く、マラソンの自己記録が3時間20分のランナーの中にも同じくらいの人がいます。

つまり、クーロスの圧倒的な強さは、単なる全身持久力では説明できないのです。

では、彼の強さの秘密はどこにあるのでしょうか? その秘密を探ると、走りながら大量の食事を摂取できる胃腸の強さが浮き彫りになります。

1985年に開催されたシドニー~メルボルン(オーストラリア)960kmレースでは、彼は2位の選手に対して1日以上の差をつけ、5日5時間7分で優勝しましたが、その初日に270kmを走破しています。
これは24時間走としてもワールドクラスのパフォーマンスです。

アメリカ臨床栄養学会誌に掲載されている研究によると、クーロスはその1日だけで1万3770kcalを摂取していました。

これは、成人日本人男性の摂取エネルギーが約2100kcal(平均値)であることを踏まえると、驚異的な食事量です。

多くの人が1日で1万kcal以上の食事をしようと試みても、胃もたれや消化不良、吐き気を感じてしまうでしょう。

実際、2019年の24時間走世界選手権に参加した11名のランナーを対象とした研究によると、レース中の摂取エネルギーが約8000kcalだったことからも、クーロスの胃腸の強さが際立ちます。

2008年、ハンガリーのバラトン湖一周212kmのレースで優勝したクーロス
2008年、ハンガリーのバラトン湖一周212kmのレースで優勝したクーロス / Credit: Bercese, CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

彼がレース中に摂取した食事には、ギリシャの伝統菓子やチョコレート、ドライフルーツ、ナッツ、果物、さらに蜂蜜やジャムを染みこませたビスケットなど、糖質が豊富な食品が中心でした。

ランニングのペースが速いほど消費カロリーは増加し、より多くのエネルギーを糖質から得ようとします。

一方、体内には脂肪は使い切れないほど貯蔵されていますが、糖質は限られた量しか蓄積できません。

したがって、ウルトラマラソンでは、レース中に糖質を摂ることがエネルギー源の枯渇を防ぐための鍵となりますが、多くのランナーは、自分が消費するエネルギーに見合うだけの食事を摂れません。

その理由は、運動中は交感神経が活性し、胃腸の働きが低下しやすいからです。

また、運動による筋肉の活動や発生する熱の影響で、内臓への血流が減少し、消化吸収が難しくなる上、ランニングによる揺れが原因でお腹を壊しやすくなることもあります。

実際、レース中に生じる胃腸の不調は、ランナーがペースを落としたり、途中で棄権したりする主な原因とされています。

クーロスのように、レース中に大量のエネルギーを摂取できる選手は、こうした胃腸の問題を克服し、エネルギー源を補給しながら走り続けることで、優れたパフォーマンスが発揮できるのです。

そんな彼がマークした24時間走の驚異的な記録は、長年破られることがないばかりか、誰も300kmを超えるランナーが現れない状況が続きました。

しかし、リトアニアのアレクサンドル・ソロキンが2021年に309.399km、2022年には319.614km(平均4分30秒/km)を走破することで、不滅と思われたクーロスの大記録がついに破られました。

次のページでは、そのソロキン選手の強さの秘訣に迫ります。

現世界記録保持者のトレーニングと意外なキャリア

アレクサンドル・ソロキンは24時間走の世界記録のほか、100km、100マイル、6時間走、12時間走の世界記録も保持しており、現代のウルトラマラソンの第一人者と呼べるアスリートです。

そんなソロキンのトレーニングを詳しく分析した研究が2024年に発表されています。

彼のトレーニングを見ると、24時間走に向けて最も負荷を高めた際には、週350kmを超える常人離れした距離を走り、そのメニューもバラエティに富んでいます

具体的には、休みの日がないのはもちろん、1日に2回走ることも多く、一度に50kmから70kmを走るメニューや、24時間走のレースペースよりも1キロ当たり1分以上速いペースでのインターバル走も取り入れています。

クーロスやオリンピックに出場するようなマラソンランナーと比べても、ハードなトレーニングに裏打ちされた確かな脚力と心肺機能が彼の強みです。

一方で、彼はこのようなトレーニングを年中続けているわけではなく、時期によってその内容にバラつきがあります。

特に主要なレース後には、サイクリングやスイミング、ウエイトリフティングといったランニング以外のトレーニングに取り組んでいます。

このようなメリハリが怪我の予防につながり、結果としてレースに向けて頑張るべき時に思いっきり頑張れることに役立っているのかもしれません。

アレクサンドル・ソロキン(40歳で24時間走の世界記録を達成した数日後)
アレクサンドル・ソロキン(40歳で24時間走の世界記録を達成した数日後) / Credit: Augustas Didžgalvis, CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

興味深いことに、ソロキンはランニングを始めたのは30歳を過ぎてからで、そのきっかけは当時100kgあった体重を減らすことでした。

つまり、元々学生時代にランナーとしてエリートだったわけでもなければ、最初から今の成功を思い浮かべていたわけではないのです。

しかし、走り始めてからおよそ10年後には、ウルトラマラソンで数々の記録を打ち立てる偉大な選手にまで成長しました。

ソロキンのような卓越したレベルに達することは、確かに稀なことかもしれません。

しかし、彼のエピソードが私たちに示しているのは、何か新しいことを始めることで、自分の中に眠っている才能や可能性に気付く機会があるということです。

最初の一歩を踏み出すことは簡単ではないかもしれませんが、まずは始めてみることが大切で、いつの間にか自分でも信じられないような成長を実感できるようになるかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

Aleksandr Sorokin shatters his own 24-hour record
https://runningmagazine.ca/sections/runs-races/aleksandr-sorokin-shatters-his-own-24-hour-record/

元論文

Energy balance in ultramarathon running
https://doi.org/10.1093/ajcn/49.5.976

Training Regimen of an Elite Ultramarathon Runner: A Case Study of What Led Up to the 24-Hour World-Record Run
https://doi.org/10.1123/ijspp.2023-0182

ライター

髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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