インターネット上に存在するGIF画像の中でも、とりわけ目を引くのが、火をつけることでニョロニョロと伸びる【あの画像】です。
伸びる物体の色は黄色かったり黒色だったりと様々ですが、物理法則を無視して現れるかのような映像は、まるで触手の召喚のようにも見えます。
おそらくこれらの画像は、私たちの多くが遊んだことのある「ヘビ花火(もしくはヘビ玉)」と同じ原理です。
では、ヘビ花火はなぜ火をつけるだけで、モリモリと伸びていくのでしょうか。その原理を解説します。
目次
- このGIFの正体は「ヘビ花火」!その原理とは?
- 最初のヘビ花火「ファラオの蛇」
このGIFの正体は「ヘビ花火」!その原理とは?
どうしてヘビ花火は火をつけるだけでモリモリと伸びていくのでしょうか。
ヘビ花火は、簡単に手作りできます。
砂糖と重曹(炭酸水素ナトリウム)を混ぜ、燃焼用のアルコールを注いで火をつけるだけで、黒い塊が出現し始めるのです。
そのプロセスは、以下のように説明できます。
まず、重曹が熱で分解され、二酸化炭素を発生させます。
この二酸化炭素のガスは「膨張する力」を生じさせ、熱で溶けた砂糖を押し広げます。
この時、溶けた砂糖は粘性の高い液体となるだけでなく、水分が抜けて炭化が進み、黒い炭になっていきます。
この「ガスの発生」と「砂糖の炭化」が同時に起こることで、黒いヘビのような物体が形成されるのです。
そしてこのヘビが大きく膨らむのは、発生したガスが溶けた砂糖を押しのけ、スポンジ構造のまま炭化していくからです。
そのため形成された「黒いヘビ」の中身は気泡がたくさん入ったスカスカの状態ですが、その分、体積が元の何倍にも大きくなるのです。
これは、「カルメ焼き」が膨らんで固まる過程と似ています。
カルメ焼きでは、砂糖を熱して溶かした後、重曹を入れて素早くかき混ぜることで膨らんで固まりますが、ヘビ花火でも同じように膨らんでスポンジのように固まります。
ちなみに、ヘビ花火が上方向にまっすぐ伸びていくのは、発生したガスが上昇しようとして、溶けた砂糖を上に押し上げるからだと考えられます。
また燃焼が進む方向も関係しており、熱が伝わる方向に従って、反応が連鎖的に進行していきます。
このように、いくつかの要素が、私たちの目を引くヘビ花火を生み出していたのです。
製品としてよく見かけるヘビ花火は、手作りのヘビ花火と使用されている成分こそ異なるものの、原理は同じです。
では最初に提示した画像の無数の黄色い触手がニョロニョロ生えてくるような現象は、どういう理屈になるのでしょうか。
最初のヘビ花火「ファラオの蛇」
ヘビ花火の反応を初めて発見したのは、ドイツの化学者であり、「有機化学の父」とも呼ばれるフリードリヒ・ヴェーラー氏です。
彼は1821年に、チオシアン酸水銀(II)をブドウ糖などの補助燃料で点火することで、チオシアン酸水銀(II)が分解し、ミミズのように伸び、元の体積の何倍にも膨れ上がることを発見しました。
この画像のような黄色のヘビ花火がそのオリジナルと近いものであり、当時、「ファラオの蛇(Pharaoh’s snake)」という名の花火製品として流行しました。
メカニズム自体は砂糖と重曹のヘビ花火と同じであり、燃焼による「ガス」と「層状構造物の形成」の同時発生で膨張していきます。(色の違いは成分の違いによります)
しかし、この反応の際に発生する水銀蒸気は有毒であり、最終的には禁止されました。
現代では、砂糖や重曹の代替品によって、誰もが簡単にこの現象を楽しめます。
ちなみに、ヘビ花火以外にも、日常生活で似たような現象は存在しています。
例えば、前述した「カルメ焼き」の製造過程は、ヘビ花火と非常によく似ています。
またパン作りにおける「パン生地の発酵」でも、イースト菌が二酸化炭素を発生させて生地をスポンジ状に膨らませているため、原理的に似ています。
私たちは、ヘビ花火をGIF画像で見たり、実際に遊んだりすると、その原理を不思議に感じてしまいます。
しかし実は、似たような現象は身近にたくさんあり、これまで当たり前のように受け入れてきたのです。
参考文献
“Carbon snake”experiment
https://melscience.com/US-en/articles/carbon-snake-experiment/
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部