コーラのボトルにメントスを入れると、火山噴火のようにコーラが勢いよく吹き出す現象。
メントスコーラと呼ばれるこの現象は、誰もが動画で一度は見たことがあるでしょう。
ただ見たことはあるけれど、なぜこんなことが起きるのか正しく理解している人は少ないようで、多くの人がこれはメントスのスーッとするメンソールなどの成分とコーラの成分が化学反応を起こして吹き出していると考えているようです。
しかしこの現象は化学反応ではありません。つまりメントスとコーラの成分はあまり関係ないのです。
今回はメントスコーラとはどういう現象なのかを解説していきます。
目次
- 最初にメントスコーラの科学実験をしたのは?
- なんでコーラとメントスなのか?
最初にメントスコーラの科学実験をしたのは?
メントスコーラ、あるいはその見た目からメントスガイザー(geyserは間欠泉という意味)と呼ばれるこの実験を一番最初に広めたと言われているのは、米国の教育者で科学者とされるスティーブ・スパングラー(Steve Spangler)氏とされています。
彼は日本で言うとでんじろう先生のような人で、子どもたちでも楽しめる科学の実験をいろいろ考案して番組で紹介している人物です。
多くの人はこれが、メントスがコーラの溶液に溶けて起こしている化学反応なのだと勘違いしているかもしれません。
しかし、この動画の中でスパングラー氏は、「私がこの実験にメントスを選んだ理由は、これがチョークのような構造を持っているためです」と話しています。
つまり彼は成分内容からメントスを選んだのではなく、物理的な構造を理由にこの実験でメントスを選んだと述べているのです。
これはメントスコーラの実験が、基本的には化学反応では無く、物理現象として起きていることを意味しています。
メントスコーラは化学反応ではなく物理現象
では化学反応ではなく物理現象というのは、どういうことなのでしょうか?
化学反応は、物質に含まれる分子同士が結びついて分子構造が変化することで起こります。もしメントスコーラが化学反応の場合、何らかの成分同士が結びついて大量の二酸化炭素を発生させ、それが勢いよく吹き出さなければなりません。
しかし実験してみるとわかりますが、コーラに入れたメントスはあまりコーラの中で溶けていません。
またメントスと似た成分のフリスクなどを使ってみても、メントスコーラのような激しい噴射はおこりません。
重要なのはメントスの成分ではなく、メントスが持つ表面構造なのです。そのためメントスの味などもこの現象には特に影響しません。
メントスの表面を顕微鏡で見ると、非常に細かい凸凹とした突起に覆われており、多孔質構造を持っています。
この微細な凸凹を持つメントスの荒い表面が、コーラに溶けた炭酸ガスを刺激して、大量に気泡を生成させているのです。
炭酸ガスの溶けた溶液では、傷や突起がある場所で気泡が生成されやすくなります。
シャンパングラスには気泡の柱がきれいに立ち上るように、わざとグラスの底に傷が付けられているという話を聞いたことはないでしょうか。
これはよく知られている事実で、凹凸のある表面では、炭酸飲料の二酸化炭素が離脱しやすくなるのです。
では、なぜ凸凹した荒い表面上で気泡が生まれやすくなるのでしょうか?
メントスコーラの秘密は表面張力の弱体化
コーラなどの炭酸飲料には、二酸化炭素(炭酸ガス)が圧力によって溶け込ませてあります。
そしてこの状態を支えているのが、液体の持つ表面張力です。
表面張力というのは水分子同士の引っ張り合う力のことです。水分子同士が強く引っ張り合っているので、そのエネルギーで二酸化炭素は溶液中に封じ込められています。
そのため炭酸飲料に溶け込んだ二酸化炭素が、ここから逃げ出すためには液体の表面張力を突破する必要があります。
別にメントスを入れなくても、炭酸飲料は開封前に振動が加わると勢いよく噴射してきます。これが起きる原因の1つは、溶液を揺らすことで水分子の配置が不規則になり、表面張力が弱まるためです。
そして凸凹した表面の近くでも水分子の配列は不規則に乱れます。ここでも、水分子が引っ張り合う力は弱まっています。
そのため、メントスの表面の様な微細な突起が集中した場所では、次々と飲料に溶け込んだ二酸化炭素が離脱を始めるのです。
また凸凹の隙間に泡が入り込むことで、これを核にして気泡が成長しやすくなります。
こうしてメントスの表面では爆発的に気泡が発生していくのです。
なので、メントスの表面積をたくさん稼ぐほど気泡の発生は強化されます。メントスコーラの実験で大量にメントスを入れる理由がここにあります。
一方フリスクは、メントスに比べて表面がツルツルとしています。もちろん顕微鏡で見た場合には、フリスクにも凸凹があるので気泡を生む力はありますが、メントスほどではないので爆発的な気泡の発生は起こさないのです。
なんでコーラとメントスなのか?
この実験はいろんな動画制作者が行っていて、コーラとメントス以外にもさまざまな組み合わせが試されています。
しかし、結局最強なのはコーラとメントス、特にダイエットコーラとメントスの場合であると結論されています。
その理由を説明するのは、結局は化学的な部分にあるようです。
これは物理現象で化学反応ではないと、述べましたが、化学的な要因を完全に無視することはできません。
メントスに含まれるアラビアガムやゼラチンなどの成分には、界面活性効果があるとされています。
またダイエットコーラに含まれる人工甘味料(アスパルテームなど)にも界面活性剤としての効果があるようです。
界面活性とは、液体の表面張力を弱める効果のことです。
さきほど、炭酸飲料に炭酸ガスを封じ込めているのは液体の表面張力にあると述べたように、表面張力を弱体化させると二酸化炭素は液中から離脱しやすくなります。
このためダイエットコーラとメントスの組み合わせが、もっとも強力な噴射を誘発するのだと考えられるのです。
間欠泉のように吹き出す理由はボトルの形状も重要で、飛び出す出口が狭いために離脱した二酸化炭素がここに殺到するために勢いよく飛び出すことになっています。
そのためボトルの口が広いと、勢いは弱まり、ボトルの口が狭ければ、非常に強い勢いで吹き出すことになります。
化学反応でも同じことができる?
メントスコーラは物理現象ですが、化学反応で同じ現象を起こした実験も存在します。
これはロシアの人気Youtuberが行った大規模なメントスコーラの実験とされていますが、実際に彼らが行っているのはメントスコーラに似た化学反応の実験です。
彼らはここで、メントスより強力な反応を起こすために重曹を用いたとしています。
しかし重曹はメントスコーラとはまったく別のメカニズムで大量の二酸化炭素を生み出しています。
重曹(炭酸水素ナトリウム)は酸(水素イオン)と反応すると二酸化炭素を発生させます。
コーラは飲むと少し酸っぱい味がすると思いますが、リン酸などの成分を含んでいて酸性の液体です。
この酸と重曹が化学反応を起こして大量の二酸化炭素を発生させることができるのです。
この場合は、溶けた二酸化炭素を離脱させているわけではないので、気の抜けたコーラでも問題はないでしょう。
見た目は同じようですが、化学反応と物理現象で原理は異なるというのは興味深いですね。
最初にやったスティーブ・スパングラーは、誰でも手に入るお菓子で科学実験を行うことで、子供にも科学への興味を持ってもらえるという意図でこの実験をやったようなので、動画制作者に限らず、興味を持ったならぜひ試してみるといいかもしれません。
ただしそのときは、もちろんお母さんに叱られないような場所を用意してやりましょう。
参考文献
Coke® &Mentos® –Exploring Explosive Chemistry!
https://www.sciencebuddies.org/science-fair-projects/project-ideas/MatlSci_p023/materials-science/coke-mentos-explosion
ライター
海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。
編集者
ナゾロジー 編集部