サラサラの砂を水の中に入れると粘土のようにくっつき、水から出すとまたサラサラの砂に戻ってしまう。
この不思議な物質は、化学的には疎水性砂と呼ばれるもので、一般にはおもちゃとして「魔法の砂(Magic-Sand)」という名前で販売もされているものです。
疑問のは、なぜこの砂は普通の砂とは違って濡れることがなく、水中では塊になるのかという点でしょう。
なぜこんな事が起きるのか? 今回はこの変わった化学的な性質について解説します。
目次
- 水が嫌い!マジックサンドとは?
- マジックサンドが水に入れるとくっつく理由
水が嫌い!マジックサンドとは?
キネティックサンド(英語ではHydrophobic Sand)、あるいはマジックサンドと呼ばれるこのサラサラの砂は、ただのビーチにある砂なのですが、表面に疎水コーティングというものが施されています。
大抵はこの疎水コーティングは、トリメチルシラノールという物質で行われます。
疎水性というのは、水を嫌う性質のことを指します。
通常の砂は、親水性です。
親水性というのは、水分子の水素と結びつきやすく、物質を構成する原子が水分子とくっついてしまう性質をいいます。
簡単に言うなら、水と仲良くなれる性質だと思ってもらえばいいでしょう。
いわゆる濡れるという状態は、この水分子と物質が結びついた状態を指します。
誰もが子供の頃、遊んぶように砂は濡れるとくっつきますが、これは砂の粒子を形成しているシリカと結びついた水分子が糊のような役割を担って、砂粒同士を引き付けるためです。
水には表面張力という力が働いていますが、これも濡れた物質同士がくっつくのを助けています。
表面張力というのは、水が丸い形を保とうとする力を指します。
これは水分子同士が引っ張り合うとき、表面に余分なエネルギーが生じないよう振る舞う性質で、水滴が丸くなるのは表面が球の状態がエネルギー的に最も安定した状態だからです。
このような理由で親水性を持つ通常の砂は、水と触れると濡れてしまい、そして濡れると互いにくっつくようになるのです。
しかしマジックサンドは逆で、疎水性の水を嫌い水分子と結合しない物質でコーティングされています。
水に入れたマジックサンドが、銀色にキラキラ光っているのが分かると思いますが、疎水性の物質は水を弾くため、水に入れたとき表面に空気の層ができます。これもマジックサンドが水に触れることを防いでいます。
そのため、水に浸してそこから出しても、マジックサンドは乾いたサラサラの砂の状態を保っていて濡れることがないのです。
ただ、濡れない理由はわかりますが、水に入れたとき粘土のようになってしまうのはなんなのでしょうか?
通常の砂は水に入れると、水中に広がって濁った泥水になってしまうだけです。なぜ疎水性のマジックサンドは、水の中で塊になり、水の外ではサラサラなのでしょうか?
水を嫌うと言われただけでは、水に入れたとき粘土のようになる理由が納得できないという人のために、この不思議な性質について説明していきましょう。
マジックサンドが水に入れるとくっつく理由
マジックサンドの不思議なところは、水の中で塊になる性質です。
この砂が持つ疎水性とは、先程も述べた通り水を嫌う性質です。これは水分子と結びつかない性質であり、また水をできるだけ避けようとする性質でもあります。
自然界にある物質は基本的にエネルギーの低い状態の方が安定するため、エネルギー的に最小になるように振る舞います。
疎水性物質は、水の中に入れると水と弾き合う力が働くため、このエネルギーを最小にしようと振る舞います。そのためには、水に触れる面積をできる限り減らした方が安定します。そのため疎水性の物質は水の中では互いにくっつくようになるのです。
エネルギーとか言われると混乱するという人は、物理的な原理とは異なりますが、雨の日の相合い傘をイメージするといいかもしれません。
雨の日の私たちは、自然と濡れるのを避けようします。もし傘が一本しかなければ、濡れる面積を最小にしようとお互い引っ付いて歩きます。
ラブコメでも定番シーンは、人間の行動が疎水性だから成立しているわけです。
雨の日に人間の取る自然な行動が、化学的な性質の中にも潜んでいると思うと面白いですね。
こうした理由でマジックサンドは水にいれると、水を避けるように互いにくっつき塊になります。
そして、カラッと晴れた乾いた場所に出れば、くっついている必要がなくなるので、サラサラの砂に戻ってしまうのです。
参考文献
What’s That Stuff? Magic Sand And Kinetic Sand
https://cen.acs.org/articles/93/i12/Magic-Sand-kinetic-Sand.html
ライター
海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。
編集者
ナゾロジー 編集部