現在、世界中の多くの国で、プラスチック製のレジ袋が有料化もしくは禁止されています。
日本でも2020年7月以来、レジ袋の有料化が始まりました。
今でも賛否両論の声が飛び交うこの取り組みは、私たちの行動にどのような影響をもたらしたのでしょうか。
アメリカのカリフォルニア大学リバーサイド校(UCR)に所属するハイ・チェ氏ら研究チームは、テキサス州の2つの都市で生じた「レジ袋有料化と撤廃」の影響を調べました。
その結果、レジ袋有料化は、客のプラスチック袋の購入の増加に繋がったと判明しました。
また、そのような政策が撤廃された後でも、しばらくはその「負の効果」が続くと分かりました。
研究の詳細は2024年9月29日付の学術誌『Journal of Marketing Research』に掲載されています。
目次
- 世界中で施行される「レジ袋有料化」
- 「レジ袋有料化」と「政策撤廃」の影響は?
世界中で施行される「レジ袋有料化」
2020年7月以来、日本ではプラスチック製買物袋(いわゆるレジ袋)の有料化が開始されました。
環境省によると、このレジ袋有料化は、国民に「環境のためにできることはなんだろう」と考えるきっかけを与えることが目的でした。
例えば、この政策をきっかけに「マイバックを持ち歩く習慣が生まれる」など、一人ひとりのライフスタイルが変化するかもしれません。
では、このような政策により、どのような結果が生じたのでしょうか。
環境省の報告(PDF)によると、レジ袋有料化になって数カ月で、1週間レジ袋を使用しなかった人の割合が30.4%から71.9%へと変化しました。
またレジ袋の国内流通量は、有料化前(2019年)と有料化後(2021年)で、約半分(20万t → 10万t)になりました。
さらに、マイバックを持参する人が目に見えて増加しています。
レジ袋有料化による直接的な変化は確かに生じたのです。
一方で、無料レジ袋が家庭用ゴミ袋としても活躍していたことから、レジ袋有料化によって、プラスチック製のゴミ袋の購入や消費が増加するのではないかと懸念されてきました。
この懸念はレジ袋有料化を行っている他の国でも同様に生じています。
そして人々や袋メーカーの強い反対によって、レジ袋有料化の政策が撤廃されることもあります。
例えば、テキサス州ダラスでは、2015年からレジ袋に5セント(約7.7円)の料金を課すようになりましたが、市がレジ袋メーカーから訴訟を起こされ、たった5カ月でこの政策は撤廃されました。
またテキサス州オースティンでは、2013年に無料レジ袋が禁止になりました。
しかし2018年にはテキサス州の最高裁判所によって、「州全体でレジ袋の有料化を禁止する」という判決が下り、オースティンでのレジ袋有料化は5年で終了しています。
日本でも「レジ袋有料化の撤廃」を求める声が上がっているため、これらの国で撤廃の後どうなったか気になりますね。
今回、ハイ・チェ氏ら研究チームはこの2つの都市(ダラス、オースティン)における「レジ袋有料化とその撤廃」が人々の行動にどのような影響をもたらしたか報告しました。
「レジ袋有料化」と「政策撤廃」の影響は?
今回、研究チームはテキサス州ダラスとオースティンにおけるレジ袋有料化と撤廃の影響を調べました。
その結果、レジ袋が有料になった後、人々はプラスチック製の袋をより多く購入するようになりました。
彼らは無料でレジ袋がもらえなくなったので、ゴミ袋として使用するための袋を追加で購入するようになったのです。
チェ氏はこの結果について次のように語っています。
「環境意識の高まりによるポジティブな効果を期待していましたが、実際にはプラスチック袋の購入が増加しました」
また調査により、「政策によって形成された人々の行動」は、政策が撤廃された後もしばらく継続すると分かりました。
人々は、レジ袋が無料に戻った後でも、引き続き多くのプラスチック袋を余分に購入していたのです。
そして政策が実施される期間が長ければ長いほど、撤廃後の行動への影響も長引くと判明しました。
例えば、ダラスでは5カ月だけのレジ袋有料化だったため、政策撤廃後、13カ月でプラスチック袋の購入行動が元に戻りました。
しかし、5年間有料化を続けたオースティンでは、政策撤廃後、18カ月経ってもプラスチック袋の購入量が元の水準(政策前のベースライン)に戻らず、研究チームによる分析が終了する時にも、ベースラインより38.6%高いままでした。
もちろん、「レジ袋有料化のメリットは全くなかった」と言い切ることはできません。
研究チームは「レジ袋有料化によって、マイバックを使用する習慣が人々に身に付いた可能性が高い」と述べています。
(ただし、これを証明するデータが得られたわけではなく、この行動の変化も撤廃後に徐々に元に戻っていくかもしれません)
では、増加した「ゴミ袋の使用」に対して、どのように対処すべきでしょうか。
研究チームの分析によると、ダラスでは7回の買い物で1枚、オースティンでは5回の買い物で1枚、それぞれレジ袋の使用を減らすことで、増加したプラスチック消費を相殺できると述べています。
ちょっとした行動の変化により、消費量を調整することは可能なようです。
とはいえ、国民全体でその変化を生じさせることが難しいのですが……
そしてチェ氏によると、今回の研究は、環境政策の意図しない結果についての理解を深めることに役立ち、レジ袋以外の分野にも適用できると考えられます。
例えば、アメリカなどいくつかの国では、清涼飲料などに対して、砂糖含有量に応じた税金「砂糖税(またはソーダ税)」が課されており、このような政策の導入と撤廃は、レジ袋有料化と同様の波及効果をもたらす可能性があります。
現在、日本では2020年7月以来、レジ袋有料化が4年以上続いています。
今後どうなるかは分かりませんが、この政策がずっと続くとしても、後に撤廃されるとしても、私たちの行動には、決して小さくない影響が及ぶことになります。
参考文献
Plastic bag bans have lingering impacts, even after repeals
https://news.ucr.edu/articles/2024/11/15/plastic-bag-bans-have-lingering-impacts-even-after-repeals
元論文
EXPRESS: Are We Worse off after Policy Repeals? Evidence from Two Green Policies
https://doi.org/10.1177/00222437241290157
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部