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「いきなりなんだ?」とお思いかもしれませんが、新たな研究報告によると、リンクを押して記事の中身を読んでくれる人はとても貴重なようです。
米ペンシルベニア州立大学(PSU)の研究チームはこのほど、Facebook上でシェアされた3500万件以上のニュース記事を調べた結果、全体の実に75%がユーザーによってリンクをクリックされることなく、シェアされていたことが判明しました。
つまり、ほとんどの人は記事のタイトルだけを見て、中身を見ることなく、シェアだけしていたのです。
研究の詳細は2024年11月19日付で心理学雑誌『Nature Human Behaviour』に掲載されています。
目次
- 8割近くの記事が「タイトルしか」読まれない?
- 自分の政治信念と一致するタイトルほど、中身は読まない
8割近くの記事が「タイトルしか」読まれない?
今回の調査は主にFacebook上でシェアされた「政治」に関するニュース記事を対象としています。
Facebookの統計データへのアクセスは、ハーバード大学を拠点とする学術団体「Social Science One」により許可されました。
このデータは、FacebookやInstagramなどのSNSプラットフォームを運営する米国の企業「Meta(メタ)」と共同で収集されているもので、ユーザーの人口統計や利用状況が含まれています。
また、ここで主に収集されているデータの一つが「政治ページ親和性スコア(political page affinity score)」と呼ばれるものです。
これはFacebookユーザーが政治に関するニュース記事にどの程度の関心や親和性を持っているかを数値化した指標を指します。
具体的には、ユーザーがフォローしているメディアや政治家のアカウント、「いいね!」やシェアをした政治ニュースの内容などを通して、個々のユーザーがどのような政治的信念や支持政党を持っているかを評価するものです。
チームは今回、このスコアを使って、ユーザーの政治的姿勢を5つのグループ(極左・左翼・中立・右翼・極右)に分類しました。
これと別にチームはAIの機械学習機能を使って、ユーザーによってシェアされた政治ニュースの内容に含まれる主張や用語を分析し、これも同じように5つのグループ(極左・左翼・中立・右翼・極右)のどの考えに一致するかを分類しています。
そして最後にチームは2017年から2020年の間にFacebook上でシェアされた3500万件以上の政治ニュース記事を対象に、それぞれのユーザーがどのような内容の記事をシェアしたのか、また記事リンクをクリックして中身を読んだのか、それともリンクを押さずにシェアしたのかなどを調べました。
その結果、研究者たちも驚いたことに、Facebook上でシェアされた3500万件以上のニュース記事のうち、実に75%はユーザーによってクリックされることなくシェアされていたことが判明したのです。
これはつまり、ユーザーの多くがニュース記事のタイトルだけを読み、肝心の中身には目を通すことなく、記事をシェアするか否かを判断していることを意味します。
さらにチームは、ユーザーの政治的姿勢と関連する興味深い法則を発見しました。
自分の政治信念と一致するタイトルほど、中身は読まない
チームは各ユーザーの政治的姿勢と彼らがシェアした政治ニュースの内容との関連性を調べたところ、興味深い傾向を見出しました。
それは政治ニュースの内容がそれぞれのユーザーの政治的姿勢に近ければ近いほど、クリックなしにシェアされていたのです。
特に極右・極左のような両極端なイデオロギーの場合ほど、中立な場合に比べて、その傾向が強くなっていました。
要するに、極右・極左のような極端で断固とした信念を持つ人々は、記事のタイトルを見て(表面的に)自分の意見と一致していると判断できれば、中身をちゃんと読むことなく、即座にシェアする可能性が高かったのです。
研究主任の一人であるシャム・スンダル(Shyam Sundar)氏はこの結果を受けて「多くのユーザーが見出しや宣伝文句だけに基づいてニュース記事を表面的に読んでいるという理論を裏付けている」と指摘。
その上で「彼らは時に誤った情報を共有している可能性があることに気づかない」と続けます。
実際にユーザーがシェアした政治ニュースの内容をチームが精査したところ、2969件のニュース記事が虚偽の情報を掲載していました。
つまり、ユーザーたちは知らず知らずのうちに、虚偽のニュースを共有することでSNS上に広めている可能性があるのです。
では、そもそもなぜ人々は中身を見ることなく記事をシェアするのでしょうか?
その理由はごくシンプルで、SNS上に新規の情報が溢れかえり過ぎているため、ユーザーたちは一つ一つの内容を読んで精査する余裕がないからです。
「このようなこと(リンクをクリックせずに共有すること)が起こるのは、人々が情報に打ちのめされ、立ち止まって考えられなくなっているからでしょう」とスンダル氏は話します。
今回の調査はFacebookと政治ニュースに焦点を当てたものですが、Xを含む他のSNSプラットフォームや政治以外の分野でも同様のことが起こっている可能性がある、と研究者らは考えています。
この結果についてチームは、虚偽の情報が拡散する恐れがある上で非常に懸念すべき問題であると述べています。
特に国の運営に関わる選挙中のニュースや新型コロナを代表とするパンデミック、地震や台風などの災害時における避難時などに、虚偽の情報が拡散されることは生活や命に関わる危険性があります。
私たちSNSユーザーはさまざまな分野のニュースを毎日浴びるように見ていますが、自分がシェアしようと思うニュースは一度リンクを開いて、中身を確認してから共有するように心がけるべきでしょう。
参考文献
Social media users probably won’t read beyond this headline, researchers say
https://www.psu.edu/news/research/story/social-media-users-probably-wont-read-beyond-headline-researchers-say
元論文
Sharing without clicking on news in social media
https://doi.org/10.1038/s41562-024-02067-4
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部