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水素原子と酸素原子が反応しナノサイズの水が生まれる瞬間の撮影に成功


ノースウェスタン大学の研究者は、電子顕微鏡を使用して、パラジウムを触媒とする水素原子と酸素原子の化学反応によるナノサイズの水の泡の生成を観察しました。この研究により、ナノレベルでの水生成メカニズムが明らかにされ、パラジウムの表面での水素と酸素の反応がどのように促進されるかを理解する手がかりが得られています。特に酸素よりも先に水素をパラジウムに吸着させることで反応が促進されることが判明しました。これにより、宇宙などの乾燥した環境で水を生成する技術への応用が期待されています。

何もないところから泡が出てくる、不思議な映像が撮影されたようです。

これは実はナノスケールの現象を電子顕微鏡を使って観測した結果得られたものです。

アメリカにあるノースウェスタン大学(Northwestern University)の研究者たちは、気体の化学反応に関する研究を行いました。

その過程で水素原子と酸素原子が融合して微小なナノサイズの水の泡を形成する様子を、リアルタイムで確認し撮影することに成功しました。

そしてこの反応は極端な条件を必要としないため、地球外の乾燥した環境で水を急速に生成するために利用できる可能性があります。

この研究成果は、2024年9月27日に米国科学アカデミー紀要(PNAS)で公開されています。

目次

  • 水を”効率よく”生む戦略
  • 最新技術で明かされるナノレベルでの水の生まれ方

水を”効率よく”生む戦略

ここからは研究の概要を、原理を掘り下げつつ一緒に紐解いていきましょう。

まずはじめに、水とはどのように発生するのかを思い出してみます。

水の化学式は\( \mathrm{H_2 O} \)と表されます。これは水分子が水素原子\(\mathrm{H}\)と酸素原子\(\mathrm{O}\)が結びついてできていることを表しています。

つまり水素原子と酸素原子があれば水を作ることができます。

1900年代初頭から、研究者たちは水の素になる水素と酸素とは別に、希少金属元素であるパラジウムを用いると水を急速に生成できることを知っていました。

パラジウムの結晶
パラジウムの結晶 / Credit:Wikipedia Commons

パラジウムの表面に水素や酸素が吸着されることにより表面上でこれらの濃度が上がり、水を生成する反応が促進されるのです。

このときパラジウムは「触媒」として働いています。

触媒とは、ある化学反応の反応速度を速める物質の中で、自身は反応の前後で変化しないもののことです。

今日では様々な化学反応に対応する多くの種類の触媒が開発されており、特に工業や実験室では欠かすことができない存在となっています。

有名な触媒を使った反応としては、例えば過酸化水素水(オキシドール)を二酸化マンガンに加えて酸素を生成するというものがあります。

理科の実験で実際にやったことがある方もいらっしゃるかもしれません。

この化学反応において変化をするのは過酸化水素水だけです。

$$\mathrm{2H_2O_2→2H_2O + O_2}$$

触媒である二酸化マンガンがあることにより、授業の時間中に容易に終わらせられる化学反応となっています。

しかしもし過酸化水素水に反応する触媒が全く無かった場合、周囲の環境にも依存しますが酸素を生成しきるまでに数日かかることもあります。

このような触媒の仕組みによりパラジウムを用いると反応速度を変えることができ、水を急速に生成できるのです。

しかし実のところ、この反応が正確にどのように起こるのかは今まで解明されていませんでした。

そこで今回の研究で科学者たちは、パラジウムがどのようにして気体反応を触媒して水を生成するのかを理解しようとしたのです。

「パラジウム触媒に関する現象は既知だが、完全に解明されたことはなかった」と、研究の筆頭著者でドラビッド研究室の博士課程の学生であるユークン・リュー氏は述べています。

何が起きているのかを解明するには、水が生成する瞬間を原子レベルで確認して考える必要があったのです。

しかし固体表面に吸着する分子の表面積は\( \mathrm{10^{-14} cm^{-2}}\)程度と微少であり、この精度で観察することは技術的な問題でつい最近までは不可能でした。

そんな中2024年1月、研究チームは、気体分子をリアルタイムで分析する電子顕微鏡を用いた新しい方法を発表しました。

この新しい技術を使ってパラジウムの反応を調べることができるようになり、今回の研究が実現できたのでした。

最新技術で明かされるナノレベルでの水の生まれ方

研究者たちは最初に、水素原子がパラジウムに入り込みその結晶構造が拡大する様子を観察しました。

するとこのとき、パラジウムの表面に小さな水の泡が形成される瞬間を確認することができたのです。

実際にその映像を見てみましょう。

画面左下にあるとおり、スケールバーは20nmになっています。

真ん中にある四角の物体がパラジウムです。

パラジウムナノキューブの表面に水の泡が現れ、どんどんと大きくなる様子が分かります。

この様子を詳細に調べることにより、反応が2段階で進行することが明らかになりました。

まず、水素原子がパラジウムの表面に侵入し(1)、結晶構造に挿入されることで金属表面が膨張します(2)。

次に、酸素が加えられると(3)、水素がパラジウムから出現し、酸素と結合して水を形成します(4)。

この過程でパラジウムは元の状態に戻ります。

パラジウムが水を生成する触媒として働く一連の過程。(4)まで反応が進行した後、状態は再び(1)に戻る。
パラジウムが水を生成する触媒として働く一連の過程。(4)まで反応が進行した後、状態は再び(1)に戻る。 / Credit:ナゾロジー編集部

これらのパラジウムの挙動はまさしく触媒の一連の働きを示しています。

そして同時に反応をする側、すなわち水の形成されるメカニズムを明らかにすることにも成功しているのです。

ここから研究者たちはさらにパラジウムの触媒反応の解明のため、条件を様々変えて反応の最適化を図りました。

最初に酸素を入れた場合、解離した酸素原子はパラジウムの表面全体を覆ってしまいます。

その後に水素を入れてもパラジウム表面に吸着できないため、水を生成する反応を引き起こすことができませんでした。

酸素原子はパラジウム表面に吸着するにはエネルギー的に有利ですが、原子が大きいために結晶構造に入り込むことが難しかったのです。

エネルギー的には有利であっても、原子の大きさが結晶構造に入り込むのを邪魔している。
エネルギー的には有利であっても、原子の大きさが結晶構造に入り込むのを邪魔している。 / Credit:ナゾロジー編集部

一方、水素原子は非常に小さいため、パラジウム原子の間に入り込み、結晶構造を膨張させられます。

パラジウムを水素で満たした後に酸素ガスを加えると、パラジウム内に入り込んだ水素が酸素と上手く反応し、パラジウムが収縮して最初の状態に戻ります。

こうして最初に水素を加え、次に酸素を加えると反応速度が最も速くなることを発見しました。

今回の研究は、ナノスケールでの水生成のメカニズムに焦点を当てていました。

しかし、より大きなパラジウムシートであれば、はるかに大量の水を生成することも可能です。

研究チームは、将来的には、宇宙に旅する前に水素を充填したパラジウムを準備し、必要なときに酸素を追加することで水を生成できる可能性があると考えています。

また、パラジウム自体が高価ですが触媒として働いているために何度でも再利用することができます。

私達が宇宙で生活をするとき、喉が乾いたらパラジウムに酸素を…という未来も、もしかすればあるのかもしれません。

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元論文

Unraveling the adsorption-limited hydrogen oxidation reaction at palladium surface via in situ electron microscopy
https://doi.org/10.1073/pnas.2408277121

ライター

けい: 物理・化学を勉強しながら電子音楽を聴くのが好きな大学院生です 科学的な話題の本質的な側面に可能な限り踏み込み、かつエンタメとして楽しめる文章を目指した記事を書いていきたいです 。

編集者

ナゾロジー 編集部

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