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落ち込んでいる人は言葉よりも贈り物で元気になる


アメリカ・ニューヨーク州立大学オールバニ校の研究によれば、落ち込んでいる人に対して、励ましの言葉よりも贈り物を贈る方が感情の回復に効果的であるという結果が示されました。研究の背景には、贈り物が受け取る側にとって「相手が自分のために大きな犠牲を払ってくれた」と認識されるため、感情的サポートとして有効であるという考えがあります。具体的には、贈り物を受け取った人は、感情が1.4ポイント改善されることが確認されました。この効果には、贈り物がサプライズとしての要素を含むこと、そして提供者のコストが大きく感じられることが関係しています。この研究は、2024年8月に『Journal of Consumer Psychology』に掲載されました。

家族や友人が落ち込んでいる時、どうやって元気づけようか悩んだ経験はありませんか?

励ましの言葉をかけようにも、何を言えば良いかわからないなんてこともありますよね。

そんな時、花やチョコレートなどちょっとした贈り物をした方が、励ましの言葉よりも効果的に相手の気分を回復することができるかもしれません。

アメリカ・ニューヨーク州立大学オールバニ校(University at Albany)のヒラリー・ウィーナー(Hillary J. D. Wiener)氏らの研究により、受け取る側は会話よりも贈り物をもらった方が、「相手が自分のためにより大きな犠牲を払った」と認識するため、感情的な回復が促進されることがわかりました。

研究の詳細は、2024年8月16日付で『Journal of Consumer Psychology』に掲載されました。

目次

  • 励ましの言葉よりも贈り物の方が効果的
  • 贈り物が気分を回復させるメカニズム

励ましの言葉よりも贈り物の方が効果的

仕事での失敗や大切な人との別れ、あるいはなんとなく気分が沈んでしまう日など、誰もが辛い経験を避けては通れません。

家族や友人が落ち込んでいる時、代わりに問題を解決することはできなくとも、せめて元気づける言葉をかけてあげたいと思うもの。

ですが、励ましの言葉をかけても相手の気分を回復させることはなかなか難しいですよね。

そんな時どのように相手をサポートすれば良いのかを調べるため、ウィーナー氏らは、嫌な出来事があった人に会話と贈り物の両方を提供した場合、どちらの方がより感情の回復に効果的か検証しました。

サポート方法には、問題可決に役立つアドバイスをするといった情報的なものや無料でベビーシッターをするなど有形的なものもありますが、今回の検証は感情的サポートに限定して行われました。

感情的サポートとは、問題解決よりも相手の気持ちを落ち着かせたり、精神的に支えることを目的とした支援のことです。

その理由は2つあり、1つ目は燃え尽き症候群など簡単に解決できない問題を抱える人に唯一他人が提供できるのは感情的サポートであるためと、2つ目は他の要素を排除して会話と贈り物の効果を比較しやすくするためです。

会話によるサポートは、2人あるいはそれ以上の人が、口頭またはテキストメッセージなど書面で、複数ターンやり取りすることと定義されました。

贈り物によるサポートは、贈り物が食品や花のように、①製品、②比較的手頃な価格、③中程度の品質、④無形のサポートを提供するものであることと定義されました。

この4つの定義により、体験型の贈り物で会話が伴ったり、極端に高価または高品質な物を贈られて会話よりも価値を感じたり、経済的に困っている人に金券を贈るなど贈り物自体が問題解決に役立ってしまうことを防ぎ、会話と贈り物の価値に偏りが生じないようにしました。

また、全ての検証で会話と贈り物が同等の質とコストであると確認するため、研究者らは事前に測定し、参加者の時給に基づき費やした時間を金銭的価値に換算するなどして調整しました。

贈り物と会話ではどちらがより効果的に相手の感情を回復させるのか?
贈り物と会話ではどちらがより効果的に相手の感情を回復させるのか? / Credit: pixabay

まず、贈り物と会話ではどちらの方がより効果的に相手の感情を回復させるかについて検証を行いました。

検証では、親しい間柄のペア81組がサポートの提供者あるいは受領者の役割を与えられ、受領者が決めたサポートを受けたい事柄について、贈り物か会話か主催者からランダムで指示されたサポートを行い、サポート前後の感情を7段階で報告しました。

また、この検証とは別に参加者を募り、過去の体験で贈り物と会話のどちらがより感情的回復を感じたかを調査しました。

さらに、同じサポート内容であってもサポートが贈り物として提供されるか会話として提供されるかによる違いを調べるため、嫌な出来事の後、友人が特別に朝食をおごってくれ世間話をした場合(=贈り物)と日頃から交代でおごっているが深い話をした場合(=会話)を想定し、参加者に評価させました。

結果、全ての検証において、サポートの受領者は同等の内容やコストの会話によるサポートを受けた後よりも、贈り物を受け取った後の方が感情の回復が大きくなりました。

具体的には贈り物を受け取った受領者は、感情回復のスコアが平均1.4ポイント(7段階評価)高い結果となっていました。

特に、実際の行動と想起の両方で贈り物の方がより有効であった点や、朝食と会話という同じ内容のサポートでも贈り物として提供された方が効果的になる点は興味深いものです。

では一体なぜ、贈り物で相手の気分を効果的に回復することができるのでしょうか?

贈り物が気分を回復させるメカニズム

続いて、研究者らは贈り物により相手の気分を回復させるメカニズムを調べるための検証を行いました。

検証では、仕事の面接に落ちた後友人に助けを求めるが、すぐに話せない代わりに後刻、おやつのデリバリーを手配してくれるあるいは折り返しの電話で会話するという仮定で、サポート前後の感情と、サポート提供者の動機、提供者のコスト(時間や費用、手間など)や負担(感情的な配慮など)の大きさについて参加者に評価させました。

検証の結果、会話よりも贈り物の方が、受領者のことを中心に考えた動機に基づいており、それがより提供者の払うコストや負担が大きいものであるという受領者の認識につながると示されました。

このような認識の差が生まれる原因は会話の特性にあります。

まず、会話は共同で作り出すため、サポートの提供者も受領者も時間と感情的エネルギーを費やすことになり、贈り物と違って一方的ではありません。

また、会話は受領者の状況改善だけに焦点が当てられているのではなく、サポートを提供する人も、会話の中で幸せを感じたりストレスが軽減するなど利益を得ます。

従って、受領者は相互作用をもたらす会話よりも、受領者にだけに利益をもたらす贈り物の方が、提供者がより受領者に焦点を絞り大きなコストを払ったと感じます。

一般的に、人は他人が自分のためにコストを払ってくれたと認識するほど気分が良くなるため、より大きなコストである贈り物の方が会話よりも効果的なサポートとなるのです。

さらなる検証として、車の事故に遭い負傷者と賠償責任は無いものの数日間車なしの生活を強いられ、その間友人から電話での会話や贈り物によるサポートを受けたと仮定し、サポート前後の感情とそれらのサポートがどの程度、コストが払われたか、思慮深いか、驚いたか、気を紛らわせたかを参加者に評価させました。

その結果、贈り物が感情の回復に与える過程には2つの経路があると判明しました。

第一に、贈り物は会話より意外性のある感情的サポートであるため、贈り物によるサプライズが受領者の気を問題から逸らし、感情の回復につながる経路です。

第二に、受領者にとって、贈り物の方が会話よりも提供者によるコストが大きいと感じられ、提供者の思いやりがより強く認識されることで、感情の回復が促進される経路です。

つまり、贈り物によりもたらされるサプライズと提供者のコストが複合的に作用して感情的回復を促進していたのです。

贈り物が感情の回復に与える過程には2つの経路があると判明
贈り物が感情の回復に与える過程には2つの経路があると判明 / Credit: Hillary J. D. Wiener et al., Journal of Consumer Psychology(2024)

以上の研究結果から、会話よりも贈り物の方が相手を励ますのに効果的なことがわかりました。

多くの人が選ぶささやかな贈り物としては、花やお菓子、アロマなどリラクゼーショングッズ、ドリンクなどが一般的なようです。

中でも花は見ると脳の扁桃体と呼ばれる領域の活動が抑制され、ストレスによって上昇した血圧やストレスホルモンであるコルチゾール値が低下するという研究が報告されているため、相手が喜びそうな物がすぐに思いつかない、という時にはおすすめです。

もちろん人の心に関する問題なので、状況によって感じ方が変わる可能性は考慮するべきですが、もし身近な人が落ち込んでいたら、何かちょっとした物を贈ってみるのは良い選択になるかもしれません。

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参考文献

Move Over, Heartfelt Chats — It’s the Gift That Counts
https://www.albany.edu/news-center/news/2024-move-over-heartfelt-chats-its-gift-counts

元論文

Money can buy me love: Gifts are a more effective form of acute social support than conversations
https://doi.org/10.1002/jcpy.1438

ライター

門屋 希実: 大学では遺伝学、鯨類学を専攻。得意なジャンルは生物学ですが、脳科学、心理学などにも興味を持っています。科学のおもしろさをわかりやすくお伝えし、もっと日常に科学を落とし込むことを目指しています。趣味は釣り。クロカジキの横に寝転んで写真を撮ることが夢。

編集者

ナゾロジー 編集部

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