冒険映画の金字塔として知られる『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989)。
そのロケ地となったヨルダンの世界遺産・ペトラ遺跡で、考古学的なお宝が本当に見つかったと報じられました。
劇中では、ペトラの神殿内に入ったインディ一行がキリストの血を受けた「聖杯」を見つけ、さらにその聖なる力で数百年間も生き続ける老騎士と遭遇します。
この神殿は現在も調査が続いており、今回ペトラの神殿の地下に隠された2000年前の墓が発見され、そこから埋葬された12体の遺骨が発掘されたのです。
さらに驚くことに、映画の聖杯そっくりの遺物まで見つかったという。
この「ペトラ」とは一体どのような場所なのでしょうか?
目次
- インディが聖杯を見つけた遺跡「エル・カズネ」とは?
- 隠された地下墓地を発見!12体の遺骨と「聖杯」も⁈
インディが聖杯を見つけた遺跡「エル・カズネ」とは?
今回の発掘調査は英セント・アンドリューズ大学(University of St Andrews)、ヨルダン考古局(DoA)、そして米国の人気ドキュメンタリー番組「ディスカバリーチャンネル」らの共同で行われました。
そのため、発掘の一部始終は10月初めに同チャンネルで放送されています。
では、発掘の舞台となったペトラ遺跡について見てみましょう。
ペトラ遺跡は中東ヨルダンの死海とアカバ湾の間に位置しています。
ペトラ遺跡は1985年にユネスコの世界遺産に登録され、2007年には「新・世界七不思議」にも選出されました。
新・世界七不思議とは、世界中の有識者からの投票によって決められた現代版の世界七不思議のこと。
元々の世界七不思議は、古代人が驚異的な技術力で作ったとされる不思議な建造物を指し、ギザの大ピラミッドやバビロンの空中庭園などが含まれています。
新・世界七不思議にはペトラの他に、中国の「万里の長城」やイタリアの「コロッセオ」、ペルーの「マチュ・ピチュ」、インドの「タージマハル」など錚々たるメンツが選ばれました。
ペトラには元々、紀元前1200年頃からエドム人という先住民が住んでいました。
ところが紀元前2世紀頃にナバテア人という遊牧民族が流入し、土着のエドム人を排除してペトラに定住するようになります。
ナバテア人は砂漠を移動するキャラバン貿易によって莫大な富を得て、ペトラにナバテア王国を築きました。
(ちなみにナバテア王国は紀元後106年にローマ帝国の征服によって消滅しています)
彼らがペトラに建設した建物の中でも、最も精緻なものが「エル・カズネ(宝物殿)」と呼ばれる神殿です(上図の左)。
エル・カズネは他の建造物と同様、砂岩の岩肌を職人が彫って造られています。
そして映画『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』のロケ地に使われたのが、まさにこのエル・カズネでした。
劇中では、考古学者のインディが大富豪から「聖杯」の捜索を依頼されます。
聖杯とはイエス・キリストの血を受けたと伝えられる聖なる杯のことです。
エル・カズネでの撮影はヨルダン政府の全面協力のもと3日間かけて行われ、国王と王妃も子供を連れて毎日見学に来ていたそう。
監督のスティーヴン・スピルバーグは後のインタビューで「ヨルダンでの撮影は素晴らしいもので、政府は私たちに国を解放し、とても歓迎してくれました」と振り返っています。
そんな歴史好きにも映画好きにも縁の深いペトラのエル・カズネでとんでもない発見が報告されました。
なんとインディが訪れた場所で本当に考古学的なお宝が見つかったのです。
隠された地下墓地を発見!12体の遺骨と「聖杯」も⁈
共同研究チームは最初に、リモートセンシングスキャンを使って、ペトラ遺跡の地中に何かが埋まっていないかどうかを非侵襲的に調査。
するとエル・カズネの真下に地下室のような空間があることがわかりました。
そこでチームはヨルダン考古局の許可の下、エル・カズネの発掘作業を開始。
この作業にはディスカバリーチャンネルの人気シリーズ『冒険!世界ミステリーハンター(Expedition Unknown)』のホストで冒険家のジョシュ・ゲイツ(Josh Gates)氏もインディそっくりの格好をして参加しています。
その結果、チームも驚いたことに、エル・カズネの地下にはこれまで誰も知らなかった「隠された墓」が存在したのです。
さらに墓の中を調べてみると、全部で12体の遺骨が発見されました。
この隠された墓と遺体がいつ頃のものなのかを特定するため、セント・アンドリューズ大学で地球環境科学を専門とするティム・キナード(Tim Kinnaird)氏が堆積物サンプルから年代測定をしています。
その結果、これらの遺物は今から約2000年前の紀元前1世紀半ば以降のものであることが判明したのです。
つまり、これらの遺体はその頃にペトラを統治していたナバテア人のものとみられます。
これらのナバテア人がどのような人だったのかは不明ですが、エル・カズネの地下墓地に埋葬されていることから、かなり高位の人物だったことは間違いありません。
さらにチームが驚愕したのは、地下墓地から「聖杯」のようなものが見つかったことでした。
遺体の一人が聖杯のような容器をつかんでいたのです。
ゲイツ氏はその瞬間のことを次のように振り返っています。
「聖杯のようなものを見つけたとき、私たち全員が凍りつきました。それは『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』に登場する聖杯とほぼ同じように見えたからです」
まさにインディ・ジョーンズの冒険譚は単なる作り話ではなく、本当の話だったのかと誰もが思ったことでしょう。
ただ残念ながらというか、やっぱりというべきか、これは聖杯ではなく、水差しが割れてしまって聖杯のように見えていたものであることが判明しています。
それでも今回の発掘が考古学的に極めて重要であることに変わりありません。
研究者らは「ナバテア人の遺骨や彼らが残した埋葬物が回収されたことはほとんどないため、この発見は国際的に重要である」と説明。
「遺骨や埋葬物の詳しい分析から、ナバテア人や彼らの文化に関するギャップを埋めることができるかもしれない」と続けました。
また映画の舞台となったエル・カズネについても、いつどのような目的で建てられたのかなど、完全に解明されていないことがたくさんあります。
今回の発掘はその謎の答えを紐解く大きな第一歩となるでしょう。
こちらがディスカバリーチャンネルで放送された発掘調査のトレーラーです。
参考文献
St Andrews researchers discover hidden tomb at Petra, Jordan
https://news.st-andrews.ac.uk/archive/st-andrews-researchers-make-historic-discovery-underneath-one-of-the-seven-wonders-of-the-world/
FIRST LOOK: Josh Gates Explores Historic Finds at Petra, One of the New Seven Wonders of the World, in New Season of Expedition Unknown Premiering Wednesday, October 9 at 9PM ET/PT on Discovery Channel
https://press.wbd.com/us/media-release/first-look-josh-gates-explores-historic-finds-petra-one-new-seven-wonders-world-new
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部