南太平洋のポリネシア沖でリアル白鯨が発見されました。
アメリカの古典小説『白鯨』にはご存知のように、白い体をした巨大マッコウクジラ「モビィ・ディック」が登場します。
ただ今回見つかった白鯨はザトウクジラの幼体です。
マッコウクジラは歯のあるハクジラ類なので、モビィ・ディックはエイハブ船長の片足を食いちぎることができました。
一方でザトウクジラは歯のないヒゲクジラ類であり、非常に穏やかな生き物です。
エイハブ船長はモビィ・ディックを”悪魔の化身”と呼びましたが、新たに見つかった純白のザトウクジラは逆に”海の天使(angel of the ocean)”と呼ばれています。
目次
- 純白のザトウクジラと奇跡の遭遇!
- 「アルビノ」ではなく「リューシズム」と見られる
純白のザトウクジラと奇跡の遭遇!
”海の天使”と奇跡的な遭遇を果たしのは、海洋保護団体「オーシャン・カルチャー・ライフ(OCL)」の研究者たちです。
OCLの海洋調査チームは今年8月、南太平洋のポリネシアにある小さな島国トンガの周辺海域を探索していました。
トンガはオーストラリア東部の都市シドニーから距離にして、東に約3600キロの場所にあります。
そこでチームが船を進めていたところ、トンガに属するヴァヴァウ諸島の近くで純白に輝くザトウクジラに出くわしたのです。
こちらが実際の映像。
純白のザトウクジラはまだ幼体であり、性別はメスと判明しました。
また1頭で行動しているのではなく、側には大きな体を持つ母親のザトウクジラとオスの成体の2頭が付き添っていたとのことです。
調査に参加していた写真家のジョノ・アレン(Jono Allen)氏は「これは一生に一度あるかないかの体験であり、言葉では言い表せないほどの出来事でした」と話しています。
ザトウクジラは毎年7月から11月にかけてトンガを含む南太平洋の暖かい海域に移動し、そこで交尾と出産をするため、ザトウクジラの群れを見かけること自体は珍しくありません。
しかし全身真っ白のクジラを目撃できるケースは極めて稀です。
アレン氏は「彼女の肌は水中でとても明るく輝いており、まるで夜空の満月を見ているようでした」といいます。
そこで彼らは純白のザトウクジラをトンガ語で「月」を意味する「マヒナ(Mãhina)」と名付けました。
またアレン氏らは水中に潜って、クジラたちと一緒に遊泳することにも成功しました。
調査に参加していたマット・ポーティアス(Matt Porteous)氏はそのときの様子について、「(アレン氏が)母親のザトウクジたの動きをミラーリング(鏡写しのように模倣)することで、信頼を得ることができたようでした」と話します。
同氏は続けて「母クジラは(アレン氏の)穏やかな動きに心を許したのか、ゆったりと我が子をヒレで水面に持ち上げて、マヒナと私たちが自由に触れ合うことを許してくれました」と続けています。
そして同氏はマヒナについて「彼女の輝く純白の体は、母親に守られながら青い海の中を優雅に泳ぎ、その姿はまるで生きる伝説、あるいは海の天使のようでした」と評しています。
では、マヒナはなぜ普通のザトウクジラと違い、真っ白な体になったのでしょうか?
「アルビノ」ではなく「リューシズム」と見られる
白いペンギン、白いトラ、白いワニ、白いクジャクなどなど。
自然界では通常個体と違って、全身が真っ白になった個体があらゆる動物種でたびたび見かけられています。
このように全身が真っ白になる現象として知られるのが「アルビニズム(白化現象)」です。
アルビニズムを起こした個体は「アルビノ」と呼ばれます。
アルビニズムとは具体的に、体のメラニン(色素)を作り出す遺伝子が欠損していることで、全身のメラニンが生まれつき欠乏してしまう症状を指します。
アルビノは遺伝的にメラニンが合成できないので、皮膚や体毛、羽毛に至るまで全身が真っ白になるのです。
しかし研究者らは純白のザトウクジラ「マヒナ」が白くなった原因について、「アルビニズムではなくリューシズム(白変種)の可能性が高い」と見ています。
リューシズムもアルビニズムと同様に体が白くなる現象を指しますが、両者は根本的なメカニズムが違います。
アルビニズムは遺伝的にメラニンが合成できないものでしたが、リューシズムはメラニンを作る遺伝子自体に異常はありません。
ただ体の色素が部分的に減少してしまう症状を起こすことで、皮膚や体毛といった体の一部が白くなるのです。
そこでアルビニズムとリューシズムを見分けるポイントは「瞳の色」にあります。
アルビノは遺伝的に全身のメラニンが作れないので、瞳の色素までも抜け落ちてしまい、奥の血管が透けて見えて赤っぽい瞳の色となります。
他方で、リューシズムが白化を起こすのは主に皮膚や体毛、羽毛だけであり、瞳の色素は通常通りに生成されます。
そのため、リューシズムの個体でも瞳の色は通常個体と同じ黒や褐色となるのです。
映像や写真から見るに、マヒナの瞳は仲間と同じく黒色をしていたため、アルビノではなくリューシズムの可能性が高いと考えられています。
しかしアルビニズムにせよリューシズムにせよ、弱肉強食の自然界で生きていくには不利であることに変わりありません。
純白の体は非常に目立つため、天敵に見つかりやすくなりますし、またメラニンの欠乏によって直射日光などにも弱くなります。
マヒナに関しては母親とオスの成体が常に付き添っているため、今のところ安全は保たれているようですが、シャチの群れや大型のサメに出くわしてしまうと命の補償はできません。
また今年8月の遭遇以来、マヒナ親子との再会は果たせておらず、彼女らが今も無事に暮らしているかどうかも不明です。
それでもポーティアス氏は「いつかマヒナが完全に成長した大人の白鯨として再びトンガに戻ってきてくれることを心から願っている」と話しました。
参考文献
Watch Mesmerizing Footage Of Rare All-White Humpback Whale Calf
https://www.iflscience.com/watch-mesmerizing-footage-of-rare-all-white-humpback-whale-calf-76329
Ghostly ‘moon’whale filmed in Tonga
https://www.discoverwildlife.com/animal-facts/marine-animals/white-humpback-whale-tonga
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部