今から約6600万年前の白亜紀末、現在のメキシコ・ユカタン半島沖に一つの巨大隕石が落下しました。
「チクシュルーブ衝突体」と呼ばれるこの隕石は、恐竜たちを絶滅に導いた最大の原因として知られます。
しかし恐竜時代を終わらせた隕石は、2つあったようです。
このほど、英ヘリオット・ワット大学(HWU)の最新研究で、同じ時期にもう一つの隕石が西アフリカのギニア沖に衝突していたことが明らかになりました。
もう一つの隕石はどれほどの打撃を恐竜たちに与えたのでしょうか?
研究の詳細は2024年10月3日付で科学雑誌『Communications Earth &Environment』に掲載されています。
目次
- 白亜紀末に落下した巨大隕石は2つあった⁈
- もう一つの隕石はどれほどの威力があったのか?
白亜紀末に落下した巨大隕石は2つあった⁈
約6600万年前の白亜紀末、今日のメキシコ・ユカタン州にある町チクシュルーブから数キロ離れた沖合に、一発の巨大な小惑星が直撃しました。
このチクシュルーブ衝突体は直径10〜15キロメートルもあり、落下の衝撃で幅約160キロメートルもの巨大なクレーターを作り出しています。
隕石の落下は生態系に凄まじいダメージを与えました。
強烈な衝撃が地上を大きく揺らすと同時に、太陽より何倍も明るい火球が発生し、動物や草木を一瞬にして焼き尽くしたのです。
隕石の落下直後は衝突地点から半径数千キロにわたって気温が100℃を超えたと見られています。
また高さ1000メートルを優に超える巨大津波が発生し、海から遠く離れた内陸部の動植物をも飲み込みました。
さらに上空高く打ち上げられた膨大な数の岩石が強烈な熱エネルギーを発しながら、地上に降り注ぎます。
落下する岩石の一つ一つは核爆弾並みの威力を持っていました。
そして空に巻き上げられた粉塵が分厚い黒雲を生み出し、風に運ばれて地球規模に広がることで、太陽光の遮断とそれに伴う気温の低下を招きます。
この暗黒の時代はその後30年以上も続いたとされています。
こうして当時地球に生息していた動植物種の最大75%が姿を消し、恐竜はほぼ全滅の状態となりました。
このように、チクシュルーブ衝突体が恐竜時代を終焉に導いた最大の要因であることは研究者たちの広く同意するところとなっています。
ところがヘリオット・ワット大学の研究チームは2022年に興味深い発見をしました。
西アフリカ・ギニア沖の海底下に隕石の衝突で生じたクレーターを見つけたのです。
これは研究者らによって「ナディール・クレーター(Nadir crater)」と呼ばれています。
さらにチームがクレーターの地層や堆積物の年代測定をした結果、チクシュルーブ衝突体と同じ約6600万年前の白亜紀末に形成されたものと判明したのです。
つまり、恐竜時代を襲った隕石は2つあったことになります。
ただこれまでのところ、ナディール・クレーターを作った隕石がどれほどの威力を持っていたかは不明でした。
そこでチームは今回、ナディール・クレーターを詳しく調べ、隕石落下の瞬間に起きたことを解き明かしています。
もう一つの隕石はどれほどの威力があったのか?
本調査では隕石衝突時の詳細を理解するため、3次元地震探査(3D seismic imaging)という技術を使ってナディール・クレーターの画像化を行いました。
3次元地震探査は、人工的に発生させた音波が地下の層を通過する際、異なる地層や物質によって音波の反射の仕方が変わる性質を利用して、地下構造を立体的に可視化する技術です。
この技術は主に地震活動の調査のほか、石油や天ガス資源の探査のために使われています。
今回は西アフリカ・ギニア沖の海底下300メートルにあるナディール・クレーターの地質学的な特徴を画像化。
その結果、目に見える海底表面のクレーター部分だけでなく、目には見えない地下の構造まで詳しく明らかにすることに成功しています。
ここで得られた鮮明な画像は、隕石衝突後にどのようなことが起こったかを予測するのに役立ちました。
まずナディール・クレーター自体は直径8.5キロメートルあり、直径160キロメートルのチクシュルーブ・クレーターよりはずっと小さななものでした。
クレーターの形状の分析から、ギニア沖に落下した隕石は直径450〜500メートルで、時速7万2420キロのスピードで直撃したと推定されています。
また隕石の衝突は激しい揺れを引き起こすと同時に、非常に強烈な爆風と高さ800メートル以上の巨大な津波を引き起こしていたとのことです。
加えて、隕石落下〜ナディール・クレーターが形成されるまでのプロセスも明らかにされています(下図を参照)。
それによると、海底の堆積層は隕石の凄まじい熱エネルギーによって一時的に液状化。
衝撃の反動で地下層が隆起して、徐々に冷えていくことでそのまま固まり、下図のようにクレーターの中央に小山のような凸部が生じました。
これはチクシュルーブ・クレーターにも同じように見られる特徴です。
以上の結果から、ナディール・クレーターを生み出した隕石落下はチクシュルーブが招いた大惨劇よりはずっと小規模だったものの、落下地点の周辺一帯に生息していた動植物は即死レベルの被害を受けたと考えられます。
つまり、白亜紀末に地球に飛来した”もう一つの隕石”は確かに、恐竜たちの絶滅を推し進めるのに一役買っていたのです。
その一方で、研究者らはこの隕石がチクシュルーブ衝突体より先に落ちたのか、後に落ちたのか、その正確な時期を特定できていません。
そして、なぜ同時期に2つの隕石が地球に当たったのかも不明です。
チクシュルーブ衝突体が宇宙空間で割れて小さな隕石が生じたのか、それとも隕石のクラスターが白亜紀末に飛来して、そのうちの2つが地球にたまたま当たったのか。
この謎の解明にはさらなる調査が必要でしょう。
しかし、落下位置や時期が近いことから、この2つの隕石に何らかの関連があった可能性は高そうです。
参考文献
Five-mile asteroid impact crater below Atlantic captured in ‘exquisite’ detail by seismic data
https://www.hw.ac.uk/news/2024/five-mile-asteroid-impact-crater-below-atlantic-captured-in-exquisite-detail-by-seismic-data
Asteroid that eradicated dinosaurs not a one-off, say scientists
https://www.theguardian.com/science/2024/oct/03/asteroid-that-eradicated-dinosaurs-not-a-one-off-say-scientists
元論文
3D anatomy of the Cretaceous–Paleogene age Nadir Crater
https://doi.org/10.1038/s43247-024-01700-4
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部