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「PS5のコントローラー」で9000キロ離れた豚に遠隔手術を実施


ゲームの中には、プレイヤーが医師になって手術を体験できるものがあります。

当然ですが、このジャンルのゲームをプレイする誰もが、ゲームと本当の手術をはっきりと区別しています。

「本物の医師が持つのは切れ味の鋭いメスや様々な医療機具であり、自分たちが持っているのは、ただのゲームのコントローラーだ」と感じているはずです。

しかし近い将来、医師とゲームプレイヤーで、持っているものに違いが生じなくなるかもしれません。

最近、スイスのチューリッヒ工科大学(ETH Zurich)に所属するブラッドリー・ジェームズ・ネルソン氏ら研究チームは、香港中文大学(CUHK)と共同で、9000km以上離れた場所から豚の遠隔手術を行うことに成功しました。

しかも、その内視鏡手術を行う医師の手には、PS5のゲームコントローラーが握られていました。

研究の詳細は、2024年8月18日付の学術誌『Advanced Intelligent Systems』に掲載されています。

目次

  • 遠隔手術と相性が良い「磁気を用いた内視鏡手術」
  • 9300km離れた遠隔手術!手にはPS5のコントローラー

遠隔手術と相性が良い「磁気を用いた内視鏡手術」

一般的な外科手術の多くは、ある意味、既に「遠隔」で行われています。

医師の手が直接届かない部位の手術は、医師がライブカメラ映像を見ながら、医療機器をコントローラーで操作するのです。

例えば、内視鏡手術は、まさにこの方法で行われます。

内視鏡手術では、「内視鏡」と呼ばれる先端にカメラを内蔵したチューブ型の医療機器を、患者の口や鼻、肛門から挿入。胃腸まで伸ばし、患部を検査したり切除したりします。

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内視鏡手術 / Credit:Canva

このタイプの手術では、患者の身体を切開することがなく、リスクが小さいため、経験豊富な医師が患者のすぐそばにいる必要性が減ります。

そして現段階でも、患者の隣でいわば遠隔手術をしているのであれば、患者との距離をもっと広げることが可能なはずです。

もし、国境を越えるレベルでの遠隔手術が可能になれば、より多くの人を少ない労力で救うことができます。

患者の近くに手術を行える人がいない場合でも、設備さえ整っていれば、他の国からその分野のスペシャリストに手術を行ってもらえるからです。

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磁気で操る内視鏡。性能が向上してきた / Credit:CUHK,ETH Zurich_C(2024)

そして、このような遠隔手術に役立つ技術も整ってきました。

過去10年で、磁気ナビゲーション(磁気により医療機器を操作・誘導する手法)の技術は大きく成長しており、精度の向上、傷つけるリスクの低減が見られます。

そこで今回、チューリッヒ工科大学(ETH Zurich)と香港中文大学(CUHK)は共同で、ブタを使った内視鏡手術のテストを行い、遠隔手術が可能であることを実証しました。

9300km離れた遠隔手術!手にはPS5のコントローラー

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9300km離れたブタの内視鏡手術を行う実験 / Credit:Bradley James Nelson(ETH Zurich)et al., Advanced Intelligent Systems(2024)

テストでは、スイスの医師が香港のブタの内視鏡手術を遠隔で行いました。

香港側では、ロボットシステムと磁気を用いた内視鏡が使用され、スイスの制御コンソールにリアルタイムでデータが転送されました。

スイスの医師は、送られてくる映像を確認しながら、コントローラーを用いて操作。その操作信号は、香港側のシステムへ送られて内視鏡を動かしました。

そしてこの2つの場所は9300kmも離れていましたが、通信による遅延は300ミリ秒未満に抑えられ、医師はいつもの手術に近い感覚で操作できました。

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内視鏡をブタの胃の中でもUターンさせ、精度の高い遠隔手術が可能であることを実証 / Credit:CUHK,ETH Zurich_CUHK and ETH Zurich successfully conduct world’s first in vivo teleoperated magnetic endoscopy using an animal model, over a distance of 9,300 km between Zurich and Hong Kong(2024)

実験には生きたブタが用いられ、医師はブタの胃の中で内視鏡をUターンさせたり、胃壁組織を採取したりしました。

Uターンできるほどの大きな曲げ角度を達成することは、磁気を用いた内視鏡の課題の1つでした。

今回の成果により、磁気を用いた内視鏡が他の標準的なデバイスと同じくらい自由に動けることが証明され、より精度の高い遠隔手術が可能であることを示すことができました。

また興味深い別の点として、実験に参加した医師の手元に注目できます。

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PS5のコントローラーを使っている / Credit:CUHK,ETH Zurich_CUHK and ETH Zurich successfully conduct world’s first in vivo teleoperated magnetic endoscopy using an animal model, over a distance of 9,300 km between Zurich and Hong Kong(2024)

画像で医師たちが手にしているのは、PS5のコントローラーであり、動画の方では、PS3のモーションコントローラーです。

遠隔手術をするのに、専門の医療機器ではなく、シンプルな既存のゲームコントローラーを使うことができるのです。

一見すると、私たちがモニターとコントローラーで手術ゲームを楽しんでいる状況とほとんど変わりませんね。

それでも実際には、数千キロも離れた人や動物の命を救うことができます。

このことは、手術の在り方が今後大きく変化する可能性を示しています。

研究チームも、今回のテストの成功により、「人間の遠隔手術が間もなく可能になる」と述べました。

将来的には、地球上から遠隔で宇宙飛行士を手術することも可能になるかもしれません。

その時、医師の手に握られているのは、PS6もしくはPS7のコントローラーでしょうか。

全ての画像を見る

参考文献

Remote surgery performed on a pig 9,000 km away using a game controller
https://newatlas.com/medical/remote-surgery-9000-km-game-controller/

CUHK and ETH Zurich successfully conduct world’s first in vivo teleoperated magnetic endoscopy using an animal model, over a distance of 9,300 km between Zurich and Hong Kong
https://www.cpr.cuhk.edu.hk/en/press/cuhk-and-eth-zurich-successfully-conduct-worlds-first-in-vivo-teleoperated-magnetic-endoscopy-using-an-animal-model-over-a-distance-of-9300-km-between-zurich-and-hong-kong/

元論文

Teleoperated Magnetic Endoscopy: A Case Study and Perspective
https://doi.org/10.1002/aisy.202400522

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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